転生悪役令嬢おじさん、薬草至上主義の反乱を診断する件
フィトリア公国の広場。
昨日導入された「調和膳」が屋台で振る舞われ、庶民たちは列を作っていた。
「うまい! 薬草の苦みが肉と合わさって、力が湧く!」
「パンも食べられるなんて久しぶりだ……腹が満ちるって、こんなに幸せだったのか」
子どもたちはスープをすすり、老人たちはパンをちぎりながら涙を流す。
広場には温かな空気が漂い、薬草漬けの時代から一歩踏み出した喜びが広がっていた。
俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はおじさん)は、タオルで額を拭きながら微笑んだ。
「おーっほっほ。やはりバランスこそ力。人々の顔色が違いますわね」
セレーネも冷徹に頷いた。
「データにしても明らかです。血色、体力、そして労働力の回復。これが真の健康効果ですわ」
しかしその空気を切り裂くように、黒い法衣をまとった集団が現れた。
「――欺瞞だ!」
杖を突き立てたのは、薬草至上主義を掲げる“伝統派”の一団。
「薬草以外は毒! 肉も穀物も魂を汚す異端!」
「こんな食事を続ければ、我らの信仰は崩壊する!」
広場に緊張が走る。
庶民の中には戸惑う声も。
「……でも、本当に大丈夫なのか……?」
「昨日は元気になったけど、やっぱり薬草をやめるのは怖い……」
王妃は扇子で口元を隠し、冷ややかに呟いた。
「……来ましたわね。極端な者たちの反撃が」
俺はドレスの袖から血圧計を取り出し、堂々と前に進んだ。
「おーっほっほ! では診断いたしましょう。薬草だけを信じてきたあなた方が、いかなる“数値”を示すのかを!」
⸻薬草至上主義との衝突、その幕が切って落とされた。
黒い法衣の伝統派たちは、杖を振りかざし声を張り上げた。
「薬草こそ唯一の救い! 肉は血を濁し、穀物は魂を鈍らせる!」
「異端の“調和膳”に惑わされるな! 昨日の元気は幻だ!」
庶民たちは揺れ動く。
「そ、そんなこと言われても……昨日はたしかに体が軽くなったんだ……」
「でも俺の祖父も、薬草だけで長生きしたって聞いたぞ……?」
「どうすりゃいいんだ……!」
広場には不安と怒号が交錯し、子どもが泣き出す。
薬草束を投げつける者まで現れ、空気は一気に騒然となった。
ユリウスは拳を握りしめて叫ぶ。
「やめろ! 恐怖で人を縛るのは筋肉に反する!」
セレーネは冷徹に腕を組み、鋭く切り込む。
「伝統派の主張は“科学的根拠”を欠いています。彼らはただ恐怖と信仰で人々を縛ろうとしているだけですわ」
しかし伝統派の指導者格が杖を突き、広場に響き渡る声を放つ。
「では証明せよ! 薬草漬けの我らが病に倒れるとでもいうのか!」
その瞬間、群衆は一斉にどよめいた。
「……たしかに、どうなるんだ……?」
「薬草漬けで生きてる奴もいるし……」
王妃は冷ややかに笑みを浮かべ、扇子で自らを扇いだ。
「ふふ……こういうときこそ、“診断外交”の出番ですわね」
俺――エレナはゆっくりと前に出て、タオルを翻した。
「おーっほっほ! よろしい。では皆の前で――薬草至上主義の“健康診断”を行いますわ!」
群衆「おぉぉぉ!!!」
「出た! 悪役令嬢おじさんの健康診断タイムだ!」
⸻広場は一転して、期待と緊張に満ちた舞台と化した。
伝統派の一人が前に進み出た。
全身痩せこけ、肌は青白く、手は震えている。だが彼は誇らしげに叫んだ。
「我は薬草茶を一日五回、菜食のみで十年生きてきた! それこそが清浄なる証だ!」
群衆「おぉぉ……」「たしかにすごい……」
「これは……健康そのものなのか?」
俺――エレナ=フォン=クラウスはタオルを肩にかけ直し、袖から血圧計を取り出した。
「おーっほっほ! では実際の数値で証明いたしましょう」
カフを腕に巻きつけ、ギュウゥゥ……。
ピピッ。
表示された数値は――
「上……85。下……45。――低血圧ぎりぎり、貧血リスクの真っ只中ですわ」
群衆「マジか!?」「そんなに低いのか!」
「これじゃちょっと動いたら倒れるだろ!」
さらに俺は袖から小型の骨密度測定器を取り出した。
「おーっほっほ。ついでに骨の健康も見てみましょう」
ピピッ。
「結果――骨密度は基準値を大きく下回る。つまり、カルシウム不足で骨がスカスカですわ!」
どよめきが走る。
「薬草だけじゃ骨まで守れないのか!」
「そりゃ最近、転んで骨折する老人が増えたわけだ……」
セレーネが冷徹に言葉を継いだ。
「肉や魚のタンパク質、乳製品や小魚のカルシウム。それらを欠けば、薬草だけでは身体は崩壊するのです」
伝統派の男は顔を真っ青にし、膝を震わせた。
「そ、そんなはずは……薬草こそ……神の……」
ユリウスがスクワットしながら吠える。
「筋肉も骨も! 支えるのはバランスある食事だ!」
群衆の空気が大きく変わり、伝統派への不信が広がっていった。
俺は堂々と宣言する。
「おーっほっほ! 薬草は大切、しかしそれ“だけ”では命を支えられない。数値は嘘をつきませんわ!」
⸻会場はどよめきから拍手へと変わり、伝統派は追い詰められていった。
広場に緊張が走った。
数値で追い詰められた伝統派の指導者格が、狂気に満ちた笑みを浮かべる。
「……数値など幻! 我らが信ずるは“薬草の神”のみ! 見せてくれよう、薬草の真なる力を!」
彼が杖を突き立てると、周囲に積まれた薬草束が一斉に震えだした。
乾いた葉が舞い上がり、根や茎が絡み合っていく。
「うわっ!? なんだこれ!」
「薬草が……組み合わさってる!?」
次の瞬間――。
ブオオオオッ!!
緑の風が吹き荒れ、巨大な影が広場に立ち上がった。
それは高さ三メートルはあろうかという人型。
無数のハーブの束とツタで編まれた身体。
その胸には輝く薬草の魔石が埋め込まれていた。
群衆「ひぃぃ!! 薬草が歩いてるぞ!」
「こりゃもうサラダじゃねぇ! 怪物だ!!」
ユリウスは目を剥き、スクワット姿勢を取る。
「薬草ゴーレムだと!? 筋肉で粉砕するしかないのか!」
セレーネは冷徹に呟いた。
「……無駄に巨大なだけですわね。だが放置すれば街が壊れる」
薬草ゴーレムは大地を踏みしめ、低く唸りを上げた。
「グゥゥゥ……クサクサァァ……」
王妃は扇子をパタンと閉じ、冷ややかに笑う。
「……掃除係が泣きそうですわね。片付けに一体どれだけの袋が必要かしら」
俺――エレナ=フォン=クラウスはタオルを翻し、袖から血圧計を構えた。
「おーっほっほ! ならば診断して差し上げましょう――薬草ゴーレムの“血圧”を!」
群衆「出たーー!! また診断かーー!!」
「いやどうやって巻くんだよカフ!!」
⸻次回、薬草ゴーレムとの“健康診断バトル”が幕を開ける!
おーっほっほ! 本日の相手は薬草ゴーレムでしたが、現実世界においても“香味野菜”は健康を支える名脇役。主役にはなれずとも、料理全体のバランスを整える影の立役者ですわ!
•パセリ
ビタミンCと鉄が豊富。見た目の飾りと侮るなかれ、貧血予防や免疫力アップに役立ちますわ。
⮑ 料理例:刻んでサラダやスープに散らすと、香りも栄養も一段と引き立ちます。
•みょうが
独特の香り成分には食欲増進と消化促進作用。夏の疲労回復にもってこいですわ。
⮑ 料理例:そうめんの薬味や酢の物に合わせれば、爽やかさが倍増いたします。
•山椒
ピリリとした辛味のサンショオールが血行を促進。胃腸を温める作用もございます。
⮑ 料理例:うなぎの蒲焼きはもちろん、煮物や味噌汁にひと振りで風味一変!
•三つ葉
香り成分クリプトテーネンがリラックス効果をもたらし、気持ちを落ち着けます。
⮑ 料理例:お吸い物や卵とじに加えると、香りが清々しく広がりますわ。
•せり
春の七草の一つ。鉄分と食物繊維が豊富で、デトックス効果が期待できます。
⮑ 料理例:おひたしや鍋料理に入れると、ほろ苦さがアクセントに。
結論として――薬味や香味野菜は、決して“薬草だけ”に縛られるためのものではありません。
おーっほっほ! 料理にさりげなく添えることで、栄養も風味も格段に高まり、健康外交の頼れる副官となるのですわ!




