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転生悪役令嬢おじさん、薬草の国にバランス食を持ち込む件

フィトリア公国の市場。

乾燥薬草や根菜を並べた屋台の前で、重苦しい空気が漂っていた。


「……また隣の家の旦那が倒れたらしいぞ」

「薬草茶を一日三回飲んでいたのに、痩せ細るばかりで……」


庶民たちの囁きは、薬草の香りよりも重く響く。

中には足を引きずる者、顔色の悪い者も少なくない。


「薬草ばかり食ってるのに元気が出ねぇ!」

「畑仕事の途中で力尽きるやつが増えてる……」


ユリウスは握った拳を震わせ、呻いた。

「……肉も炭水化物もない……これでは筋肉どころか生命力そのものが削られてしまう!」


セレーネは冷徹に言い放つ。

「当然ですわ。タンパク質も脂質も炭水化物も欠ければ、身体は維持できない。薬草は補助であって、主食ではありません」


群衆はどよめいた。

「そんな……薬草が万能じゃないってことか……?」

「じゃあ俺たちは、何を食べればいいんだ……?」


俺――エレナ=フォン=クラウスはタオルで額を拭き、静かに前へ出た。

「おーっほっほ。皆さま、ようやく気づきましたわね。健康とは“極端”ではなく――“バランス”なのですわ!」


その声に、市場全体が息を呑んだ。

薬草至上主義が揺らぎ始める瞬間だった。


公国の集会所。

集められた庶民たちの前に、セレーネは分厚い書物と記録巻物を机に広げた。


「……これは、公国の人口統計と死亡記録です」

彼女の声は冷ややかで、薬草の煙よりも鋭く人々の胸に突き刺さった。


「ここ十年で、平均寿命は縮んでいます。特に働き盛りの年齢層で“原因不明の衰弱死”が増加している」


庶民たちは息を呑んだ。

「まさか……薬草を信じてるのに、寿命が短くなってるのか……?」

「俺の兄貴もそうだ……菜食と薬草茶ばかりで、体が弱っていった……」


セレーネは淡々と続ける。

「菜食や薬草が悪いわけではありません。問題は“それ以外をすべて否定する極端さ”です。

タンパク質不足で筋肉量は落ち、脂質不足でホルモンは乱れ、炭水化物不足で労働力は枯れる……」


ユリウスが立ち上がり、拳を握った。

「筋肉を失えば戦えない! 国の力は衰えるだけだ!」


王妃は扇子で口元を隠しながら、皮肉混じりに言い添える。

「薬草ばかりで倒れた者を救うのも、また薬草――。それでは医療の堂々巡りですわね」


庶民たちは動揺し、笑い声も出ずにざわめいた。

「……俺たち、間違ってたのか……?」

「薬草だけじゃ……生きられないのか……」


その沈黙を破るように、俺――エレナが一歩前へ進んだ。

「おーっほっほ! 正解は簡単ですわ。菜食も薬草も大切。ですが――肉も穀物も必要!

結局は“バランス”こそ、人を生かす栄養なのですわ!」


集会所の空気が大きく揺れ動いた。


集会所の中央に、急ごしらえの大きな調理台が据えられた。

俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はおじさん)が袖をまくり上げると、庶民たちがざわつく。


「おい、悪役令嬢おじさんが料理始めるぞ……!」

「毒見役呼ばなくていいのか!?」


「おーっほっほ。外交に必要なのは書状だけではございません。――料理こそ説得の礎ですわ!」


テーブルの上に並べられたのは、薬草・根菜・雑穀、そしてガルダから持ち込んだ肉とオリーブ油。

俺はそれらを組み合わせ、手際よく鍋を振るった。


まずは 雑穀と根菜のスープ。

炭水化物でエネルギーを補い、薬草は香りと整腸効果を添える。


次に ハーブ鶏むね肉のグリル。

薬草の香りを活かしながら、良質なタンパク質を補給。


仕上げは 全粒パンと野菜の盛り合わせ。

食物繊維とビタミンで脂質の吸収を調整。


「これぞ――調和膳バランスプレートですわ!」


庶民たちは半信半疑で口に運ぶ。

「……あれ? 薬草の苦みが、肉と合わせるとちょうどいい……」

「パンと一緒だと腹に力が入る……!」

「食べたあと、体がポカポカするぞ!」


ユリウスは感極まってスクワットを始めた。

「筋肉が……甦る!!!」


セレーネは淡々と頷いた。

「これが正しい“食のバランス”。薬草を活かしつつ、三大栄養素を揃える。それだけで人は強くなれます」


王妃は一口スープを味わい、冷ややかに微笑んだ。

「……悪くありませんわね。少なくとも、病室より食卓が賑わう方がよほど健全ですわ」


庶民の表情が変わり、会場には静かな感嘆の声が広がった。

「これなら……俺たちもやれるかもしれない」

「薬草だけじゃない、いろんな食材を組み合わせて……」


おーっほっほ。ついにフィトリア公国に、バランス食の芽が植えられたのだった。


薬草の煙が薄れた謁見の間。

長老は沈黙の末、重い口を開いた。


「……なるほど。薬草だけでは人は生きられぬ。だが、薬草を“要”として、他の食材を組み合わせる道なら……試す価値はある」


会場がざわめく。

「長老が認めたぞ……!」

「薬草以外を受け入れるなんて……!」


セレーネは冷徹に一礼した。

「正しい選択ですわ。極端を捨て、調和を選ぶこと――それが本当の健康です」


ユリウスは胸を張って拳を握る。

「肉も薬草もスクワットも! 全部合わせてこそ筋肉は完成する!」


庶民「おぉぉぉ!! スクワット膳だーー!」

「バランス外交、始まったな!」


俺――エレナはタオルで額を拭い、ドレスの袖から血糖測定器を掲げた。

「おーっほっほ。証明してご覧なさい。薬草と肉と穀物を合わせてこそ――血糖値も血圧も安定するのですわ!」


長老は深く頷き、杖を鳴らした。

「では、実験的に“調和膳”を導入する。民の反応を見よう」


その瞬間――。

会場の後方から、不気味な囁きが響いた。


「……薬草以外は毒……」

「伝統を汚す者を許すな……」


黒い法衣をまとった影が数名、じりじりと前へ進み出る。

彼らは“伝統派”――薬草至上主義を最後まで守ろうとする過激派だった。


王妃は扇子を閉じ、冷たい視線を送った。

「……やはり簡単には収まりませんわね」


俺はタオルを翻し、堂々と立ち向かう。

「おーっほっほ! では次の診断対象は――あなた方、極端に囚われた“伝統派”ですわ!」


⸻バランス外交は始まったばかり。だが同時に、暗い対立の火種も動き出していた。

おーっほっほ! 本日は“副菜”について語らせていただきますわ。

副菜は単なる脇役ではなく、栄養のバランスを支える要石。特に身近な葉物野菜は、健康外交の切り札といっても過言ではありませんのよ!


小松菜

カルシウム、鉄、ビタミンCが豊富。ほうれん草よりアクが少なく下処理も簡単。

⮑ 料理例:おひたしや味噌汁に加えるだけで骨と血液の健康に寄与しますわ。


ほうれん草

鉄分と葉酸に優れ、貧血予防に効果的。ただしシュウ酸が多いので下茹でしてアクを抜くのが鉄則。

⮑ 料理例:胡麻和えやソテーにすれば、鉄の吸収率がアップいたします。


レタス

水分が多く、カロリーは低め。食物繊維とカリウムが含まれ、整腸とむくみ予防に有効ですわ。

⮑ 料理例:サラダはもちろん、スープや炒め物に加えると意外に美味しく召し上がれます。


キャベツ

ビタミンCと食物繊維が豊富で、胃を守る「キャベジン」と呼ばれる成分を含む万能野菜。

⮑ 料理例:千切りキャベツで消化を助け、スープや蒸し料理でも甘みが引き立ちますわ。


結論として――

副菜とは“色とりどりの栄養の盾”。主菜や主食だけでは偏る栄養を補い、健康外交の盤石な土台を築くのですわ。


おーっほっほ! 主役を引き立てる副菜こそ、真の健康の守護者ですわ!


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