転生悪役令嬢おじさん、海外使節団にボディビル規定ポーズを強要される件
王宮の謁見の間。
煌びやかなシャンデリアの下、国王や重臣たちがずらりと並ぶ。
そして入ってきたのは、異国の豪奢な衣装をまとった使節団。
「遠路はるばる参上仕った。我らは隣国“アイアン・マッスル連邦”の代表である」
……名前からしてすでに怪しい。
使節団のリーダーは、鍛え抜かれた二の腕をぶるんと揺らしながら、俺を真っ直ぐに見据えた。
「噂は聞いている。“基礎代謝の女神”よ。我らと同盟を結びたいのなら――まずは筋肉で示せ」
「……は?」
「外交の基本は言葉ではない。規定ポーズだ!」
「いやなんで!?!?」
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「フロント・ダブルバイセップス!」
リーダーが突然、両腕を掲げて力こぶを見せつける。
会場「おおおおおおっ!!」
「続け! サイド・チェスト!」
胸を横から誇示する。
「ラット・スプレッド!」
背中を大きく広げる。
俺は額を押さえて呻いた。
「おいおい……マジで外交の場でボディビル大会やるのかよ……」
だが周囲の貴族たちは息を呑んでいた。
「こ、これが異国の礼儀……!」
「なんと……迫力がある……!」
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リーダーは俺を指差し、叫んだ。
「さあ、見せてもらおう! お前の“フロント・ダブルバイセップス”を!!」
「いやドレス着てんだぞ!? 裾持ち上げたら礼儀もへったくれもねぇだろ!!」
「筋肉に礼儀は不要!!」
「誰だよそんな外交ルール作った奴!!」
王子とヒロインは隅で青ざめていた。
「な、何だこれは……外交が……!」
「わたくしたち、完全に空気じゃありませんの!?」
俺は大きくため息をつき、ついに決断した。
「……わかったよ。やりゃいいんだろ、やりゃ」
ドレス姿のまま、俺は両腕を掲げた。
「フロント・ダブルバイセップス!!」
会場「うおおおおおおお!!!」
王都史上初めて、外交の場がボディビル大会と化した瞬間だった。
「フロント・ダブルバイセップス!!」
俺が叫んで腕を掲げると、会場がどよめいた。
「お、お嬢様の上腕が……!」
「いや、筋肉なんてないはずなのに……気迫が筋肉に見える……!」
「これが……基礎代謝の女神……!」
なぜか幻影のように力こぶが浮かんで見え、観客は総立ちだった。
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リーダーがにやりと笑う。
「悪くない。だがまだ終わりではないぞ。“サイド・チェスト”だ!」
「ちょ、横から胸強調すんの!? ドレスだぞ俺!!」
「礼儀を守れ! さあ早く!」
仕方なくドレスの胸元を押さえながら横向きになり、胸を張った。
「サイド……チェスト……!」
「おぉぉぉぉっ!!!」
貴族たちは涙を流しながら拍手喝采。
「なぜだ……なぜこんなに感動するんだ……!」
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「次は“ラット・スプレッド”だ!」
「背中広げるのかよ!? ドレス破けるぞ!!」
「破けても栄誉だ! 行け!!」
俺は大きく息を吸い込み、背中をぐっと広げた。
――バリィィッ!!
嫌な音がして、ドレスの背中がビリビリに裂けた。
「ぎゃあああ! 高級ドレスがぁぁぁ!!」
「だが筋肉の迫力に比べれば安いもの!」
観客はさらに大歓声。
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使節団のリーダーは感極まった表情で両手を広げた。
「見事だ! これほどの規定ポーズ……国境を越えた筋肉の絆を感じた!」
「おいおい……マジでこれで同盟結ぶのかよ……」
「そうだ! 筋肉は言葉を超える!!」
「「「筋肉は言葉を超えるぅぅぅ!!!」」」
王宮全体がフィットネスジムと化し、王子とヒロインは完全に隅で膝を抱えていた。
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こうして歴史上初めて――外交の場が規定ポーズ合戦で締結され、
王国とアイアン・マッスル連邦の同盟は成立したのだった。
……いやほんと、なんでこうなった。
「筋肉は言葉を超える!」
謁見の間が歓声に包まれる中、リーダーが片手を上げて制した。
「だが――まだ終わりではない!」
「え、まだあんの!?」
「外交とは信頼。信頼とは全てをさらけ出すこと……つまり!」
リーダーが叫ぶ。
「モスト・マスキュラー!!」
「お前ら正気か!? 舞踏会場で一番下品なポーズやらせんのか!?」
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「行け! 基礎代謝の女神よ!」
「見たい! お嬢様のモスト・マスキュラーを見たい!」
観客の熱気は最高潮。
俺は頭を抱えて呻いた。
「……もうやけくそだ……!」
両肩をすくめ、胸筋をギュッと寄せ、腕をねじ込む――
「モスト・マスキュラーッ!!」
「「「うおおおおおおおお!!!」」」
貴族も兵士も涙を流していた。
「これだ……これこそが真の外交……!」
「筋肉に国境などない!」
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その瞬間、国王までもが立ち上がった。
「素晴らしい! わしもやるぞ!」
「え、国王陛下!?」
国王は王冠を外し、ドスンと上着を脱ぎ捨て、
「ダブル・バイセップス!!」
「「「ぎゃあああああ!!!」」」
高齢の国王のポージングに、観客はさらに涙。
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王子とヒロインは真っ青になっていた。
「お、親父まで……!? 俺の存在が……薄い……!」
「わ、わたくしのヒロインポジションが……!」
もう完全に空気だ。
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リーダーは高らかに宣言した。
「よし! これにて筋肉同盟、成立とする!」
俺は天を仰いでため息をついた。
「……いやマジで、なんで外交がボディビル大会で終わってんだよ……」
① フロント・ダブルバイセップス
両腕を頭の横まで持ち上げ、力こぶ(上腕二頭筋)を誇示するポーズ。
腹筋・大腿四頭筋・ふくらはぎまで一度に見せられるため、観客映えも抜群。
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② フロント・ラットスプレッド
正面を向き、背中の広がり(広背筋)を前から見せるポーズ。
胸・肩・腕・腹のバランスも一緒に評価される。逆三角形が強調されるほど歓声が上がる。
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③ サイド・チェスト
横向きに立ち、腕で胸を引き絞りながら胸筋の厚みを強調する。
同時に上腕三頭筋や脚のハムストリングもチェックされる。
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④ サイド・トライセップス
横を向き、片腕を背中に回して上腕三頭筋(腕の裏側)を強調。
腕だけでなく体幹や脚も審査対象になる。
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⑤ バック・ダブルバイセップス
背中を観客に向け、両腕を上げて力こぶを披露。
背中の凹凸・広がり・脚の裏まで見せられる。
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⑥ バック・ラットスプレッド
背を向け、広背筋を広げて「翼」のようなシルエットを見せる。
逆三角形が美しく出せるかが勝負。
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⑦ アブドミナル&サイ
腹筋をバキバキに見せつつ、脚(大腿四頭筋)を強調するポーズ。
「腹と脚の完成度」をまとめてアピールできる。
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⑧ モスト・マスキュラー
規定7種の後にやる「おまけ」だけど、観客が一番盛り上がる。
全身をギュッと縮めて筋肉の迫力を見せる、まさに“力の塊”ポーズ。