転生悪役令嬢おじさん、脂と筋肉で交渉する件
サクロ王国の大広場。
巨大プリンが崩壊した跡地は、庶民たちが総出で清掃をしていた。
砂糖の山を掻き集めながら、なぜか皆スクワットをしている。
「いち! に! さん!」
「ぎゃはは! これがスクワット外交かー!」
ユリウスが中央で号令をかけ、筋肉を隆起させていた。
「筋肉は国を変える! スクワットこそ国際共通語だ!」
庶民「おぉぉぉ!!」
……外交改革の余韻は、奇妙に筋肉祭りへと変貌していた。
俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はおじさん)は、タオルで額を拭きつつ呟いた。
「おーっほっほ。健康外交の第一歩としては悪くありませんわね……」
だがその時。
広場の端から、漂ってきたのは――煙と、香ばしい肉の匂い。
「……む?」
庶民がざわつく。
「なんだこの匂い……」「焼き肉……だと!?」
ズシンズシンと太鼓の音が響き、やがて広場へ入ってきた一団。
先頭に立つのは、豪奢な羽飾りをつけた商人風の男。
その背後では、大きな荷車に牛の丸焼きが積まれていた。
肉汁が滴り、油が床にポタポタ落ちて、すでに広場がぬるぬると光っている。
商人「我ら、ガルダ商会連邦より参上した! これこそ我らの挨拶――“肉と油の饗宴”だ!」
庶民「ぎゃははは! 床で転んだ! 脂でスケートリンクだー!」
王妃は冷静に吐き捨てる。
「……また掃除係が倒れますわね」
俺はドレスの袖から血圧計を取り出し、じっと使者を見据えた。
「おーっほっほ。砂糖の次は脂肪……。外交はいつも、血管を攻めてきますわね」
⸻次なる交渉相手、ガルダ商会連邦との対話が始まろうとしていた。
ガルダ商会連邦の使節団は、広場中央に巨大な鉄串を突き立てた。
「これぞ我らの誠意! 牛丸焼き、外交の証!」
ジュウウウウゥゥ……!
香ばしい煙が立ち昇り、肉汁が滴り落ちるたびに油が飛び散る。
庶民は歓声を上げ、子どもたちは滑って転がり、床は完全に“油リンク”と化していた。
庶民「ぎゃはは! すべるすべる! 砂糖より危険じゃねぇか!」
「転倒外交だー!」
ユリウスが一歩前に出て、真剣な表情で丸焼きを見上げた。
「肉……! タンパク質の塊……! 筋肉が呼んでいる……!」
目が完全に光り輝き、拳を震わせている。
俺は額の汗をタオルで拭きながら、冷静に呟いた。
「おーっほっほ。確かにタンパク質は必要栄養素。だが油と塩にまみれれば、ただの動脈硬化爆弾ですわ」
セレーネは冷徹に頷いた。
「血中脂質の上昇は心疾患のリスクを高めます。外交の名で国民を脂漬けにするのは、愚行ですわね」
しかしガルダ代表は胸を張り、肉汁でテカテカした手を広げた。
「愚行? 違うな。我らは“豊かさ”を示している! 肉と油を分け与えることこそ、商会連邦の力!」
庶民「おぉぉぉ!!」
「ぎゃはは! 油まみれでもう床が磨かれてピカピカだ!」
王妃は呆れ顔で、裾を摘んで一歩下がった。
「……外交というより、掃除地獄ですわね」
俺はドレスの袖から――今度は血液検査キットを取り出した。
「おーっほっほ。ならば証明いたしましょう。この“油外交”がいかに血管を詰まらせるかを!」
庶民「出たーーー!! 悪役令嬢おじさんの血液データ外交だーー!!」
広場の熱気は、肉の煙と笑い声でますます沸き立っていった。
夜。宮殿の晩餐会場に運ばれてきたのは、これまた圧倒的な“油脂フルコース”だった。
前菜:ラードで揚げた肉団子。
スープ:牛脂が膜を張る濃厚ブイヨン。
メイン:羊の丸焼きに油をかけ続ける“油シャワー”。
デザート:バターをこれでもかと練り込んだパイ。
庶民「ぎゃはは! 口の中がベタベタだー!」
「これ食ったら血液ドロドロ確定!」
ユリウスは目を輝かせ、肉の塊にかぶりついた。
「うおおおっ! タンパク質! 筋肉が歓喜している!」
エレナ「おーっほっほ。落ち着きなさいユリウス! 脂肪で筋肉は鍛えられませんわ!」
セレーネは静かに首を振る。
「この料理……油脂は必要以上。タンパク質を摂るなら、もっと調理法を工夫すべきですわね」
王妃はワインを置き、冷たく言い放った。
「……このままでは、心臓外科を増設しなければなりませんわ」
そこで俺は、ドレスの袖から血液検査キットを取り出した。
「おーっほっほ。外交とは、数字で証明するもの。さあ、食後の血中脂質を測定いたしましょう!」
ガルダ代表は豪快に笑い、腕を差し出す。
「よかろう! 我らの誇りは数字でも示せるはずだ!」
ギュウゥゥ……。指先にチクリ。
ピピッ。
表示された数値は――
「総コレステロール……310。LDL……210。――立派な脂質異常症ですわ!」
会場「ぎゃはははは! 油で死ぬぞーーー!!!」
庶民「外交っていうか人間ドックだぁぁ!!!」
ガルダ代表の額に脂汗がにじむ。
「ば、馬鹿な……肉は力の象徴……! 商会連邦の誇りが……!」
俺はタオルを肩に掛け直し、きっぱりと言い放った。
「おーっほっほ。肉は力、油も必要。しかし“過剰”は国を滅ぼす毒ですわ!」
⸻会場は割れんばかりの笑いと歓声に包まれた。
ガルダ代表は立ち上がり、脂でテカテカした拳を握りしめた。
「貴様ら健康派の理屈など認めん! 肉と油こそ力! それを商う我らこそ、世界を動かす舵取りなのだ!」
会場がどよめく。庶民は「ぎゃはは! 脂で手が滑って拳が空振りだ!」と爆笑。
ユリウスは真剣な眼差しで拳を合わせた。
「肉は筋肉の糧だ。しかし――余分な油は筋肉を覆い隠す脂肪にしかならん!」
「筋肉は裏切らない! 脂肪は裏切る!!」
庶民「うぉぉぉぉぉ!!!!」
セレーネは冷徹に一歩前へ進む。
「力を誇示するのもいいでしょう。しかし、病で兵を失えば国力は崩壊する。健康寿命もまた“実利”ですわ」
王妃が静かに補足する。
「外交とは長期的な利益の調和。その点で、健康を蔑ろにする国は衰退しかありませんわ」
俺はゆっくりとタオルを翻し、場を見渡した。
「おーっほっほ。ガルダ商会連邦よ。あなた方は“利益”を追う国。ならば申し上げます――健康は最大の資本、寿命こそ究極の利潤ですわ!」
観衆「おぉぉぉぉぉ!!!!」
庶民「ぎゃはは! おじさん令嬢が投資信託みたいなこと言ってるー!」
ガルダ代表は口を開きかけたが、次の瞬間……
ドサァッ。
椅子が油で滑り、見事に転倒。
庶民「ぎゃはははは! 外交負けたの転倒オチかよ!」
代表は脂まみれのまま立ち上がり、苦笑した。
「……ふん。どうやら我らも、油に頼りすぎていたようだな。交渉は続けよう。健康と実利、両立する道を探すとしよう」
俺は深々と頷いた。
「おーっほっほ。ようやく話が通じましたわね」
⸻こうして“脂と筋肉の交渉”はひとまずの合意を見た。
だがその背後で、まだ見ぬ新たな外交相手の影が静かに動き始めていた……。
おーっほっほ! 本日は脂まみれの外交でございましたわね。
ですが皆さま、脂=悪と決めつけるのは早計ですのよ。脂質にも“種類”があり、そのバランスこそ健康の鍵ですわ!
飽和脂肪酸
肉の脂やバターに多く含まれる、常温で固まりやすい脂。
摂りすぎればコレステロール上昇、動脈硬化のリスクを招きますわ。
⮑ 料理的には「たまのご馳走」で控えめに。ステーキは脂身を落とすのが吉。
不飽和脂肪酸(オメガ9・6・3)
•オメガ9(オリーブオイル、ナッツ) → 悪玉コレステロールを下げる。
•オメガ6(大豆油、ごま油) → 必須脂肪酸だが摂りすぎ注意。
•オメガ3(青魚、亜麻仁油、えごま油) → 炎症を抑え、血流改善に寄与。
⮑ 調理では「揚げ油は控えめに、仕上げにオリーブや亜麻仁を回しかける」工夫が大切ですわ。
トランス脂肪酸
マーガリンやショートニングに含まれる“人工脂”。
学術的にも心血管リスクを上げると証明済み。
⮑ 料理では極力避けるべき。菓子パンや揚げ菓子の摂りすぎは要注意ですわ。
結論として――
脂は敵ではなく、“種類と量の選択”こそ外交のごとく重要ですの。
肉も魚も油も楽しめますが、 「飽和脂肪酸はほどほどに」「オメガ3と9を賢く活用」 が勝利の方程式。
おーっほっほ! 外交も食事も、バランスを制する者が未来を掴みますわ!




