砂糖神国サクロ王国、外交の席にて転生悪役令嬢おじさんが血糖値を測る件
王都から北へ三日の行程。
俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はどう見てもおじさん)は、国王夫妻に同行して馬車に揺られていた。
「……で、本日の目的地は?」
タオルを肩にかけ、麦茶を飲みながら問いかけると、王妃が優雅に答えた。
「サクロ王国――砂糖を神の恵みとして崇める国家ですわ」
「は?」
俺は麦茶を噴きかけそうになった。
「砂糖……が神様?」
国王はドヤ顔で頷く。
「うむ。彼の国では“白き結晶は神の涙”と呼ばれておる。砂糖壺に祈ることで一日が始まり、角砂糖を口に含むことで儀式が終わるらしい」
「いや血糖値スパイクで一日終わるだろそれ」
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やがて馬車が止まる。
眼前に広がったのは――純白の大理石で造られた神殿都市。
中央には巨大な砂糖壺を模した塔がそびえ、街中では子供から大人まで角砂糖を配り合っている。
「……マジで宗教国家だこれ」
俺が呆然とする中、歓迎の行列が近づいてきた。
金色の装飾をまとった神官が声を張り上げる。
「ようこそ、サクロ王国へ! 本日の会談では、まず“甘味の祝福”として角砂糖を三つ召し上がっていただきます」
「……あの、俺、減糖派なんですけど」
国王夫妻(小声)「しっ、外交だから我慢を」
「いや外交で糖尿病コースは勘弁してくれ」
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そのときだ。
神官が俺をじっと見据え、荘厳な声で告げた。
「……あなたが噂の“悪役令嬢おじさん”ですか」
会場がざわめく。
俺はタオルで額を拭いながら苦笑した。
「おーっほっほ……まぁ、そう呼ばれてますわね」
「では、この場で証明していただきましょう。我らが神の結晶――砂糖こそが命を支えることを」
神官が掲げたのは――巨大な砂糖ケーキ。
高さ2メートル。生クリームと角砂糖でデコレーションされている。
「これを食せば、神の祝福を受けられる!」
俺「……いやどう考えても糖質の暴力だろコレ」
会場「おぉぉぉぉぉ!!!」
庶民も貴族も、信徒も皆が注視する中――
外交の場は、砂糖と健康の真っ向対決へと変貌しつつあった。
大広間に集まったのは、サクロ王国の神官たちと、王国代表である俺たち一行。
壇上には例の巨大ケーキが鎮座し、信徒たちが恍惚の表情で見つめていた。
神官長が高らかに宣言する。
「角砂糖を三つ食し、白き結晶の祝福を受ける――これぞ我らが伝統の儀式である!」
会場「おぉぉぉぉぉ!!」
俺はタオルを握りしめ、国王と王妃をチラリと見る。
国王「……外交じゃ。食べねばならん」
王妃「我慢なさい、エレナ」
……えぇぇ。俺に毒味係やらせる気満々かよ。
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神官が角砂糖を銀の器に盛って差し出す。
「さぁ、“悪役令嬢おじさん”よ。砂糖こそが命を潤すと証明するのです」
俺は仕方なく一つ摘み、口に入れた。
……ジャリッ。
「……あまっっっ!!」
舌がしびれるほどの甘さに、思わず涙が出そうになる。
(これ一日三つ? いや即日HbA1c跳ね上がるだろ!?)
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俺は咄嗟にドレスの袖から、愛用の血糖測定器を取り出した。
「……いいですか皆さま。ここで大事なのは“事実”ですわ」
観衆「おぉぉぉ……」
神官長「な、何をするつもりだ……?」
俺は堂々と指先に小さな針を刺し、測定開始。
ピピッ。
「血糖値……はいドーン。145ですわ」
会場「たっかーーー!!!?」
ざわめきが広がる。
「もうこんなに上がるのか!?」「角砂糖一つで!?」「神の祝福とは血糖スパイク……?」
神官長の顔が青ざめる。
「ば、ばかな……神の結晶が、そんな……!」
俺は胸を張って言い放った。
「砂糖を楽しむのは悪ではありません。ですが! 一日三つも角砂糖を食べるのは明らかに過剰ですわ! 伝統の儀式ならば、“適量”に調整すべきです!」
会場「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
国王「ふぉっふぉっふぉ! 余もそう思うぞ!」
王妃「健康を損なう伝統は、改める勇気が必要ですわ」
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信徒たちはざわつき、動揺し始めていた。
「確かに最近、糖尿で倒れる者が増えていたな……」
「だが砂糖は神の涙では……?」
「健康の涙でもあってほしい……」
神官長は必死に声を張り上げる。
「黙れ! 砂糖こそ神の力! 健康など一時の流行にすぎぬ!」
だが、観衆の視線はすでに揺らぎ始めていた。
(……よし。外交なのに、結局“血糖外交”にしちまったな)
ざわつく大広間。
しかし神官長の背後から現れたのは――煌びやかな鎧をまとった兵士たちだった。
「……ご覧あれ! これぞ“砂糖剣舞隊”!」
神官長が誇らしげに叫ぶ。
兵士たちが腰に差していたのは――剣……ではなく、巨大な角砂糖を削り出して作った謎の“砂糖剣”。
光を反射してキラキラしている。
観衆「うわぁぁぁ! すげぇぇ!!」
「……いやいや、湿気で溶けるだろそれ」
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兵士の一人が剣を振りかざす。
「我らは一日三つの角砂糖を食し、この剣で戦場を駆け抜けるのだ!」
シャキーン!
剣から粉砂糖がバサバサ落ちて床がザラザラに。
俺は頭を抱えた。
(……いやこれ、滑って転ぶ未来しか見えねぇ)
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神官長「さぁ見よ! 砂糖こそ力! 伝統こそ繁栄! 健康派など一振りで粉砕よ!」
「うおぉぉぉ!」
兵士たちが一斉に剣を振り回す。
白い粉塵が舞い、観衆がむせ返った。
観衆「ごほっごほっ! 甘い! 視界が甘い!!」
国王「ふぉっふぉっふぉ! 余のズボンがまたベタついておる!」
王妃「……掃除係が気の毒ですわ」
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俺は一歩前に出て、タオルを肩にかけ直す。
「皆さま! 砂糖剣舞? そんなものに頼るから足元をすくわれるのですわ!」
観衆「おぉぉぉ!」
俺は胸を張り、血圧計を高々と掲げる。
「力の源は糖分ではなく――バランス! 戦場で必要なのは持久力と回復力! つまり筋肉と心肺機能ですわーー!!」
ユリウスが拳を突き上げる。
「そうだ! 剣よりスクワット! 俺が証明する!」
その場でスクワットを始めるユリウス。
会場「ぎゃはははは!!!」
セレーネも扇を広げて声を上げる。
「心拍数を整え、冷静に状況を読むのが勝利の鍵……薬草茶の呼吸法があれば、剣舞など敵ではありませんわ!」
庶民「キャーー! 薬草茶派とプロテイン派の共闘きたーー!!」
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観衆は完全に盛り上がり、
「減糖! 減糖!」
「筋肉! 薬草茶!」
とコールが入り乱れる。
神官長の顔が青ざめ、杖を握りしめた。
「……くっ、このままでは……!」
(……さて。ここで次の切り札が出てくる流れだな)
神官長が杖を高々と掲げ、声を張り上げた。
「……まだ終わらぬ! 伝統派には“最後の聖具”があるのだ!」
会場がざわめく。
「ま、まさか……あれを出すのか……?」
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次の瞬間、兵士たちがゴロゴロと運び込んできたのは――
直径三メートルを超える、つやつやと輝く黄色の物体。
観衆「おぉぉぉぉぉ!!!」
俺「……いや、でけぇプリンだなオイ」
そう、それは巨大プリン。
表面はぷるぷる震え、上にかかったカラメルソースが滴り落ちて床に広がっていた。
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神官長が叫ぶ。
「見よ! 伝統派秘儀、“聖プリン”の降臨である!!」
兵士たち「うおぉぉぉぉ!!!」
プリンの頂上に刻まれた魔法陣が光り出し、
「ぷるん♪ ぷるん♪」と謎の擬音が大広間に響く。
庶民「ぎゃははははは!! プリンが歌ってる!!」
国王「ふぉっふぉっふぉ! 余の腹筋が震えるわ!」
王妃「……床掃除係の悲鳴が聞こえますわね」
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俺は思わず額を押さえた。
(……いやいや。巨大プリンで伝統を守るって、どういう理屈だよ)
神官長「この聖プリンを食した者は、血糖値が爆上がりし、戦士としての覇気を得るのだ!」
観衆「おぉぉぉぉ!!」
……いや盛り上がるな。血糖値の乱高下で倒れる未来しかないだろ。
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だがそのとき、セレーネが前に出た。
扇を広げ、氷のように凛とした声で。
「エレナ様。ここは……あなたが止めなければなりませんわ」
ユリウスも拳を握りしめる。
「そうだ! 筋肉を守るためにも、ここで勝負だ!」
観衆がざわめき、視線が一斉に俺へと集まる。
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俺は大きく息を吸い、タオルを肩にかけ直した。
「……おーっほっほ。なるほど。プリンで勝負を挑むつもりですのね」
血圧計を掲げ、宣言する。
「ならば――減糖こそ真の力! この戦い、受けて立ちますわ!!」
会場「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
皆さま、本日のあとがきテーマは「キムチとチーズ」ですわよ。
おーっほっほ! 婚約破棄から始まって、気づけば発酵食品の解説をしている悪役令嬢おじさんですわ。
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1. 栄養学的に
•キムチ:乳酸菌(ラクトバチルス属)が豊富で、腸内環境を整える効果が期待されます。さらに、発酵によりビタミンB群やビタミンK、抗酸化物質が増加。唐辛子のカプサイシンには代謝促進作用も。
•チーズ:発酵過程で乳糖が分解され、乳糖不耐症の方でも食べやすい。カルシウム・リンが骨の健康を支え、タンパク質も効率的。さらに「カゼイン由来ペプチド」は血圧を下げる作用が報告されています。
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2. 学術的に
•研究では、キムチの常食は 腸内フローラ多様性の向上 や 免疫応答の強化 に関連するとされます。
•チーズは「発酵度」によって栄養効果が異なり、熟成が進むと 短鎖脂肪酸や生理活性ペプチド が増え、心血管系のリスク低下と関連する報告も。
•両者に共通するのは「発酵による機能性成分の増加」。非発酵食品よりも「腸内細菌や全身の代謝」に与える影響が大きい点が特徴です。
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まとめると――
「キムチは腸と免疫、チーズは骨と心血管。そして組み合わせると美味と満足感」
この二つの発酵食品は、まさに“異文化発酵のハーモニー”。外交編の伏線としてもバッチリですわね!




