恋と血圧と伝統派の影、転生悪役令嬢おじさんついに試される件
王都の広場。
夕暮れの石畳を吹き抜ける風が、ほんのり麦茶の香りを運んでいた。
俺――エレナ=フォン=クラウス(中身はどう考えてもおじさん)は、今日もタオルを肩にかけ、庶民相手に無料の健康講座をしていた。
「はい次! 水分補給はこまめにですわよ! 1時間にコップ一杯が理想ですわ!」
「立ちっぱなしのお父様、今測ったら血圧上がってますわ! 深呼吸して〜」
庶民たちは大盛り上がり。
「悪役令嬢おじさま最高ーー!!」
「血圧で人生が救われるなんて!」
……いや俺、異世界でなんで町医者みたいな扱いなんだよ。
タオルで汗を拭きつつ、俺は空を見上げた。
(……婚約破棄どこいったんだ? もう完全に“健康系イベントキャラ”になってんだが)
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そこへ。
カツンと靴音を鳴らし、ひとりの少女が姿を現す。
銀の髪、氷のように透き通った青い瞳。
セレーネ=グラシア。冷ややかな雰囲気を纏いながらも、その頬はわずかに赤く染まっていた。
「……エレナ様」
声は震え、しかし毅然としていた。
「わたくし……また心拍数が上昇してしまって……。これも、きっと有酸素運動の成果ですわね?」
庶民たち「キャーー!! セレーネ様のご登場だーー!」
俺「いや違ぇよ! 恋心をランニングで説明すんな!」
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……と、そのタイミングで。
背後の人混みをかき分け、黒髪短髪の青年――ユリウスが現れた。
手に持っていたのは、俺が普段から布教しているプロテインシェイク。
「エレナ殿! こ、これを……その……一緒に飲んでくれないか!」
庶民「きたーー! 庶民派騎士ユリウスの直球アタックだーー!」
セレーネの眉がぴくりと動く。
「……プロテイン? 必要ありませんわ。エレナ様には……わたくしの薬草茶のほうが適しています」
「なっ……!? いや、俺は信じている! 筋肉は裏切らない!」
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俺は頭を抱えた。
(……いや待て。プロテイン vs 薬草茶ってなんだよ。しかも俺を賭けてやるな!)
庶民「おぉぉぉ! 粉末と葉っぱのトライアングラー勃発ーー!!」
俺「やめろぉぉ! 異世界で三角関係を健康飲料で演出するなーー!!」
「薬草茶ですわ!」
「いや、プロテインだ!」
セレーネとユリウスが火花を散らす。
広場の空気は一瞬にして緊張感に包まれ……るはずだったのだが。
庶民たちはむしろノリノリで煽り始めた。
「よっしゃ! 俺は薬草茶派だ!」
「いやいや、筋肉にはプロテインだろ!」
「葉っぱ vs 粉末! こりゃ新時代の飲料抗争だ!」
気がつけば、広場の半分が 薬草茶チーム、もう半分が プロテインチーム に分かれて大合唱していた。
「薬草茶! 薬草茶!」
「プロテイン! プロテイン!」
……おい待て。なんで俺をめぐる騒ぎが、ドリンクの勢力戦争に進化してんだよ。
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ユリウスは汗をかきながら拳を握る。
「エレナ殿! 筋肉の維持と修復にはプロテインが不可欠なんだ! お前には俺が必要だ!」
セレーネは扇を広げ、凛とした声で言い放つ。
「違いますわ! 心を落ち着かせ、長寿を支えるのは薬草茶! エレナ様に必要なのはわたくしです!」
庶民「ぎゃーー! 直接告白合戦きたーー!!」
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俺は慌てて手を振った。
「ちょ、落ち着けお前ら! そもそも俺は恋愛云々より健康第一で……」
だが庶民の一人が声を張り上げる。
「聞いたか! “健康第一”ってことは、どっちか選ぶってことだ!」
「えええ!? どっちも選ばないって意味だよ!? なんで選択肢を狭めるんだよ!」
広場は大混乱。
薬草茶派とプロテイン派が睨み合い、今にも大規模な健康飲料バトルロイヤルが始まりそうな勢いだった。
俺はタオルを肩にかけ直し、盛大にため息をついた。
(……あーあ。婚約破棄のはずが、気づいたら“飲料戦争の火種”になってるとか……どうしてこうなったんだ)
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庶民「悪役令嬢おじさまーー! どっちを選ぶんですかぁぁ!!」
俺「いやだから俺に聞くなーーー!!!」
会場の熱気は、もはやスポーツの応援合戦そのものだった。
「薬草茶! プロテイン!」
広場の掛け声はついに合戦レベルに達していた。
その熱気に誘われたのか――王城から二つの影が姿を現す。
「おーっほっほ! 何やら騒がしいと思えば……」
いや、声でわかる。王妃だ。背筋を伸ばし、優雅に現れる。
その横でジャージ姿の国王がタオルを首にかけ、ドヤ顔で続いた。
「余も混ざってよいかの! ふぉっふぉっふぉ!」
会場「国王陛下と王妃だぁぁぁ!!!」
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王妃はセレーネの肩に手を置く。
「薬草茶は確かに素晴らしいのです。鎮静効果や抗酸化作用……わたくし自身、偏頭痛の改善を感じておりますわ」
セレーネは一気に顔を輝かせた。
「そ、そうでしょう!? さすが王妃陛下はわかってくださいますわ!」
「ぐぬぬ……!」ユリウスが悔しげに唇を噛む。
そのとき国王が、プロテインシェイクをグビッと飲み干して叫んだ。
「筋肉は裏切らんのだ!!」
会場「ぎゃはははは!!! 陛下がプロテイン派ーー!!」
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結果、薬草茶派は王妃を旗印に、プロテイン派は国王を旗印にして完全分裂。
広場の空気はすでに健康飲料“内乱”の様相を呈していた。
俺は両手で顔を覆った。
「……おいおい、国王と王妃まで派閥争いに参加したら、マジで国の行く末が飲料で決まっちまうじゃねぇか……」
しかし庶民たちはますます盛り上がる。
「国を二分する薬草茶 vs プロテイン! 今ここに開戦!!」
「悪役令嬢おじさま、どうか判定をーーー!!」
俺「いや俺のせいじゃねぇからな!?!?!?」
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会場の熱気に呑まれながらも、俺は心の底で悟っていた。
(……あー、これは……完全に婚約破棄の話題が吹っ飛んだやつだな)
広場の熱狂は収まるどころか、さらに過熱していた。
薬草茶派は優雅にティーカップを掲げ、プロテイン派はシェイカーをカシャカシャ振り回す。
両陣営は合唱し始めた。
「薬草茶! 薬草茶! リラックスこそ至高ーー!」
「プロテイン! プロテイン! 筋肉は国を救うーー!」
……いや、どこの応援合戦だよ。
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そのとき。
石畳を踏みしめる硬い靴音。
ざわめきが一瞬で凍りついた。
現れたのは――伝統派の重鎮たち。
黒いマントを翻し、険しい顔で人垣を割って進んでくる。
老侯爵「……見ろ。国王と王妃までもが庶民と一緒に……シェイカーを振っておるではないか」
若い伯爵「……王権の威厳はどこへ……」
彼らの視線は氷のように冷たい。
王子がその後ろから姿を現すと、拳を握りしめ、会場を睨み渡した。
「……この国は、悪役令嬢おじさんによって狂わされた! 今や広場は茶と粉末の戦場……伝統はどこにある!?」
リリアーナもまた、涙をにじませながら叫ぶ。
「殿下……社交界で、必ずやこの茶番を終わらせましょう……!」
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だが庶民たちは聞いちゃいない。
むしろ盛り上がりすぎて、どちらの飲料が優れているか腕相撲大会を始めていた。
「筋肉で証明するぜ! 俺はプロテイン派だぁぁぁ!」
「ならば紅茶の気品で勝負ですわぁぁぁ!」
……いや、何をどう証明するつもりなんだお前ら。
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俺はタオルを肩にかけ、深くため息をついた。
(……完全にカオスだな。次の大茶会? これじゃ絶対ただの“飲料戦争決勝戦”になるだろ……)
だが、その背後で重々しい鐘が鳴った。
――ゴォォォォン……。
王都中に響き渡る合図。
次なる舞台――社交界の大茶会が、いよいよ始まろうとしていた。
おーっほっほ! 本日の解説は POF理論 ですわ!
「Position of Flexion」――つまり関節の角度によって筋肉が受ける刺激がどう変わるかを整理した考え方ですの。
筋肉は常に同じ刺激で成長するわけではありません。むしろ 角度ごとに違う負荷をかける ことで、より完全に刺激できると言われておりますのよ!
1. ミッドレンジ種目(Mid-Range)
もっとも力が出る「中間域」でのトレーニング。
例:スクワット、ベンチプレス、ラットプルダウンなど。
高重量を扱いやすいので、筋力と筋量の基盤を作るのに有効。
2. ストレッチ種目(Stretch)
筋肉が伸ばされた位置で負荷がかかる種目。
例:ダンベルフライ(胸を開いた状態)、インクラインカール(腕を後ろに引いて伸ばす)など。
筋肉を強くストレッチさせることで、筋肥大のシグナルが入りやすい(近年は「ストレッチ刺激が筋肥大を促す」との研究も多数)。
3. コントラクト種目(Contracted)
筋肉が縮んだ状態(ピーク収縮)で負荷をかける種目。
例:ケーブルクロスオーバー(胸を寄せた状態)、コンセントレーションカールなど。
最後に乳酸をため込み、代謝的ストレスを与えるのに最適。
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つまりPOFを取り入れると――
1つの筋肉を「伸ばす → 中間 → 縮める」という 3段階フルコースで追い込める!
これは 効率的に筋肥大を狙うトレーニング法として、ボディビル分野でも長く研究・実践されておりますの。
ただし! 初心者が全部やると疲労が過大になりすぎるので、まずは「ミッドレンジで基礎」→「慣れたらストレッチ or コントラクトを追加」くらいがちょうど良いですわ。
おーっほっほ! 角度を制する者は、筋肉を制する……ですのよ!




