大茶会前夜、転生悪役令嬢おじさんに不穏と糖質ケーキが迫る件
王都の広場。
夕暮れの石畳を歩いていると、やたらと聞こえてきたのは――俺の噂話だった。
「なぁ聞いたか? 次の大茶会、悪役令嬢おじさんが糾弾されるらしいぞ」
「いやいや、むしろ“健康講座”だろ? 麦茶飲み放題になるって聞いたぜ」
「おじさん令嬢様の“立ちっぱなし血圧講義”が楽しみだなぁ〜」
……おい、完全にイベント扱いされてるじゃねぇか。
糾弾って聞いた瞬間に「また健康講座か〜」で片づけるなよ庶民ども。
俺――エレナ=フォン=クラウス(中身おじさん)は、タオル片手に深いため息をついた。
「いやいや、呼ばれた覚えねぇんだけど!? 俺はただ血圧と麦茶を布教してるだけで……!」
しかし噂は止まらない。
「次は“塩分控えめクッキー”が振る舞われるらしいぞ」
「いや“糖質ゼロケーキ”だって!」
「俺は“プロテイン紅茶”に期待してる!」
――どんどん話が膨らんでる!?
俺は頭を抱えた。
(……婚約破棄からここまでどうしてこうなったんだ……? いや、もはや婚約破棄の影も形もねぇよな)
そのとき。
カツン、カツンと靴音が響き、背後から気品ある声が届いた。
「――エレナ。あなたに、正式な招待状を届けに参りました」
振り返ると、そこには王妃陛下が立っていた。
手には封蝋付きの分厚い招待状。
……嫌な予感しかしない。
俺「まさか……これが噂の“大茶会”?」
王妃「ええ。あなたにとって試練の場になるでしょう。でも安心なさい、わたくしが支えますわ」
……あー。やっぱり逃げられねぇやつだコレ。
王妃の背後から、さらに重々しい声が響いた。
「そうだ。お主はもはや余の“健康顧問”なのだからな!」
玉座から離れ、珍しく私服姿の国王が登場。
……いや、なぜかジャージ上下にタオルを肩にかけている。完全にジム帰りのおっさんじゃねぇか。
国王「ふぉっふぉっふぉ! 今朝もラジオ体操を皆に先駆けて行ったのじゃ! どうだ、この柔軟性!」
ブチブチッ! ――見事に太腿の布が裂けた。
俺「……陛下、ドヤ顔でズボン破くな」
王妃「だから言ったでしょう、ストレッチは入念にと!」
だが、その表情は確かに以前よりも健康的に見える。
王妃もまた、頬の色艶が良くなり、背筋がピンと伸びていた。
俺のパーソナルトレーニングと食事指導が、着実に効果を出しているのだ。
王妃「……わたくしはかつて、社交界での菓子三昧により偏頭痛や不眠に悩まされておりました。けれどあなたの提案で砂糖を控え、ハーブティーに切り替えてからは……」
王妃は小さく微笑む。
「本当に楽になりました。――ですから、あなたを守りますわ」
国王「うむ! 悪役令嬢おじさんよ! 次の大茶会は伝統派が策を弄しておるやもしれぬ。だが安心せい! 余と王妃が全面的に後ろ盾となろう!」
俺「……いや、王と王妃がそんなにノリノリで俺を応援したら、ますます伝統派が怒るんじゃね?」
王妃「怒らせればよいのですわ。怒った顔で血圧が上がれば――あなたの出番ですもの」
俺「……もう俺、完全に“血圧で国を動かす係”になってねぇか?」
王と王妃は笑いながら頷いた。
その光景に、ほんの少しだけ俺は心強さを感じた。
(……まぁ、婚約破棄されてすぐ終わる人生よりはマシか。血圧計一つで王国を揺らすとか、意味わかんねぇけどな)
王城の一角――重厚な扉に囲まれた会議室。
そこには伝統派の重鎮貴族たちが、燭台の明かりを頼りに集まっていた。
「……国王と王妃まで“健康派”に傾いたか」
「もはや笑い事ではない。剣や魔法ではなく、麦茶と血圧計で国を支配するなど、前代未聞……!」
誰も笑わない。むしろ、その声には焦燥がにじんでいた。
若い伯爵が机を叩いた。
「だが民衆は完全にあちら側だ。子どもから老人まで“悪役令嬢おじさん”を信奉している。……このままでは我々の立場がない」
「ならば……大茶会で一気に失脚させるしかあるまい」
「ふむ……公開の場でこそ、“悪役”の烙印を押し直すことができる」
そこへリリアーナが姿を現した。
淡いドレスの裾を揺らし、毅然とした表情で一同を見渡す。
「おじさん令嬢は、婚約破棄されたただの落伍者。にもかかわらず、自ら“悪役令嬢”を名乗ってはばからない。――これは王国の伝統を愚弄する最大の証拠ですわ!」
彼女の声に、ざわめきが広がる。
王子も椅子から立ち上がり、拳を握りしめた。
「よいか、諸卿。次の大茶会では、“悪役令嬢おじさん追放計画”を断行する! やつを国賊として公開糾弾するのだ!」
「「「おぉぉぉ!!!」」」
喝采と共に、炎のような決意が広間を満たした。
伝統派の目は血走り、まるで獲物を前にした獣のようだった。
……ただ、その机の上に並んでいたのは剣や魔導書ではなく――
大量の砂糖菓子、濃厚なクリームケーキ、蜂蜜漬けナッツ。
「糖分こそ我らの力! これをもって、健康派を討つ!」
……いや、普通に血糖値スパイクで倒れる未来しか見えねぇんだけど。
王城の大広間。
磨き上げられた大理石の床に、きらびやかなシャンデリア。
王国貴族たちがドレスや燕尾服を纏い、ざわめきと期待の空気に包まれていた。
「これが……社交界最大の行事、大茶会……」
俺――エレナ=フォン=クラウス(中身おじさん)は、煌びやかな会場を見渡して思わずため息をついた。
(……まぁ、俺にとっちゃただの糖質地獄なんだけどな)
視線の先、テーブルには色とりどりのケーキやパイ。
砂糖の甘い香りが会場全体に広がっている。
「おーっほっほ! 血糖値スパイクを量産する戦場に、わたくしを呼びつけるとは……」
俺はにやりと笑い、タオルで額を拭った。
⸻
「……来たな」
会場の奥、壇上に立つのは王子とリリアーナ。
その背後には伝統派の重鎮たちがずらりと並び、険しい視線をこちらに向けている。
「諸君! 本日の大茶会は、ただの饗宴にあらず! ここで“健康派”という異端を糾弾する!」
王子の声が大広間に響く。
リリアーナが扇を掲げて高らかに叫んだ。
「悪役令嬢を自称し、伝統を愚弄する者を――ここで裁きますわ!」
⸻
会場のざわめきが一段と大きくなる。
「本当に裁くのか?」「でもあの令嬢、最近国王と王妃のパーソナルトレーナーだぞ?」
「麦茶政策も好評だし……」
民衆寄りの貴族たちは揺れていた。
一方で伝統派のテーブルでは、糖質マシマシの菓子が次々と運ばれてくる。
「さぁ皆の者! 砂糖こそ王国の伝統! 血糖値の波こそ繁栄の証だ!」
……いやいや、医学的に完全アウトだから。
⸻
俺は一歩前に出た。
ドレスの裾を翻し、胸を張って宣言する。
「皆さま! 確かにわたくしは“悪役令嬢おじさん”。
ですが! 真に悪役なのは健康を無視し、民を糖尿病に導く“砂糖至上主義”ですわ!」
会場「おぉぉぉぉ!!!」
王子「なにっ……!?」
リリアーナ「ま、また場を支配されるなんて……!」
⸻
そのとき、国王と王妃がゆっくりと立ち上がった。
「余は決めた。伝統も大事じゃが……健康はもっと大事じゃ!」
「民を守るのは甘味ではなく、血圧と生活習慣ですわ!」
会場は一気にざわめきから拍手へ。
だが伝統派の瞳はなおも鋭く、次なる反撃を狙っていた。
(……どうやら、今日が本当の決戦の始まりだな)
おーっほっほ! 健康に良さそうで、実は落とし穴だらけの習慣を、今宵ここで切って捨てますわ!
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【その一】フルーツジュース信仰
・「果物=健康」だからとジュースにするのは要注意。
・繊維がなくなり、果糖が血糖値を急上昇させる。
・研究でも「果物そのまま」と「ジュース」ではリスクに差が出ておりますの。
→ 正解は“かじる”!ジュースに頼らず果物は丸ごと。
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【その二】ゼロカロリー甘味料
・カロリーゼロでも「腸内環境」や「インスリン反応」への影響が報告あり。
・むしろ“甘さ依存”を強めることも。
→ どうしてもなら“ほんの少量の砂糖”で済ませる方が毎日ゼロカロリーがぶ飲みより安全。
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【その三】高タンパク過信
・「プロテイン神話」で摂りすぎる人、多すぎますわ。
・体重1kgあたり2gを超えると、腎臓に負担の可能性。
•ボディビルダーやビキニコンテスト参加者ならともかく、筋トレしてない人がたくさんタンパク質を摂っても余分な脂肪になりますし、健康にはなりませんのよ!
→ 無難ラインは1.2〜1.6g/kg。バランスが命。
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【その四】お酒は百薬の長?
・赤ワインや日本酒を「健康のために」飲むのは大間違い。
・少量でもがんリスク上昇が確認されておりますの。
→ ポリフェノールが欲しいなら、ブドウやベリーを食べなさい!
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【その五】サプリ大量摂取
・MVMを山ほど飲んでも寿命は延びませんわ。
・特にビタミンA・D・E・Kは溜まりすぎて逆効果の恐れあり。
→ 食事ベース、不足分だけをサプリで補うのが真理。
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【その六】睡眠削って早起き修行
・「朝活で成功!」なんて幻想ですわ。
・6時間未満の睡眠は免疫も集中力もガタ落ち。
→ まずは“じゅうぶんな睡眠”。これこそ最高の健康投資。
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◆まとめ◆
「健康そう」に見えても、やりすぎれば不健康。
まさに――過ぎたるは及ばざるがごとし、ですわ!
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