転生悪役令嬢おじさん、城下町をフィットネスフェスに変える件
城下町の学園購買部。
かつてはパンやジュースが並んでいた棚に――とんでもないものが陳列されていた。
「ご覧あそばせ! 本日新発売のプロテインバー、一本でタンパク質40gですわ!」
「でっっっか!!!」
生徒たちが悲鳴を上げた。
もはや薪のようなサイズ。両手で抱えなければ持てない。
「え、これ……一食分どころか、二日分じゃない?」
「腹に入るのかよ……」
だが購買担当の店員は胸を張る。
「今や健康派の時代! これが売れるんですよ!」
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さらに城下町の屋台。
軒並み、焼き鳥や串焼きではなく――
「プロテインシェイクいかがですかー!」
「新フレーバー、火竜の実味!」
「マンドラゴラ・バニラはいかがー!」
「スライム・レモン、さっぱりしてますよー!」
観客「いやフレーバーの発想おかしいだろ!!」
だが、子供から兵士まで行列を作り、カップを片手に歓声をあげている。
「ごくごく……うわ、うまっ!」
「腹持ち最高!」
「これで俺も筋肉勇者だー!」
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そんな光景を見て、俺――悪役令嬢おじさんは頭を抱えた。
「……いや、流行りすぎだろ。屋台文化どうなってんだよ」
だが、胸の奥ではニヤリと笑っていた。
(ふふ……これでまた健康国家への第一歩ですわ!)
「さぁさぁ! 飲み比べ大会だー!」
広場に特設ステージが設けられ、屋台の主たちが次々にシェイカーを振り始めた。
「火竜の実味! 灼熱の辛さで代謝アップ!」
「マンドラゴラ・バニラ! 甘いのに低カロリー!」
「スライム・レモン! 腸内までスッキリ!」
観衆「うおおおおお!!!」
町人A「ごくごく……ぶふっ! 辛っ! 辛すぎて汗止まらん!」
町人B「マンドラゴラってこれ……合法なのか!?」
町人C「レモン味は普通に爽やかだな。いや、スライムって何だよ……」
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そんな中、子どもたちまでカップを片手に盛り上がっていた。
「おかわりー!」
「ぼく五杯目ー!」
次の瞬間――
「う、うぇぇぇぇ……」
「お腹……ゴロゴロするぅぅぅ!!」
広場が大混乱に包まれた。
「トイレだぁぁぁ!」
「救護班呼んでくれー!」
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俺は額に手を当て、ため息をつく。
「……やっぱりこうなりましたか」
すぐさま壇上に立ち、マイク代わりに拡声魔法を使って叫んだ。
「庶民の皆さま! タンパク質は一度に何百gも吸収できませんの! 一度に飲みすぎると胃腸に負担ですわ!」
観衆「えぇぇぇぇ!?」
「理想は一回あたり20〜40g! こまめに分けて摂取するのですわ! 消化吸収も考えなさい!」
町人たち「……まじか……」
「じゃあ俺たち、無駄に飲みすぎたのか……」
俺は厳しい顔で指を振る。
「おーっほっほ! 健康派の鉄則は“適量”! 暴走する者は筋肉どころか腹を壊すだけですわ!」
広場はしんと静まり返り――
次の瞬間、観衆から大拍手が巻き起こった。
「さすが悪役令嬢おじさんだ!」
「俺たちを導いてくれる!」
「これぞ胃腸に優しい革命!」
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(……いや、なんか俺、完全に栄養士ポジションになってない?)
俺は内心ツッコミながらも、群衆に頭を下げたのだった。
広場の混乱を収めた俺は、再び壇上に立った。
「よろしい。せっかくだから、この勢いで運動も指導いたしますわ!」
観衆「うおおお! 運動だ!」
俺はドレスの裾をまくり上げ、ホイッスルを取り出す。
「名付けて――フェニックス・リピート法! 全力で動いて、燃え尽きたら休む! そして復活してまた走る! これぞ蘇る不死鳥のごとき鍛錬ですわ!」
観衆「フェニックス! フェニックス!」
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「まずは20秒全力疾走! 位置について、よーい……スタート!」
「うおおおお!」
「はぁぁぁぁ!!」
「ぐわあああああ!」
兵士も商人も子どもも入り混じって全力疾走。
ドレス姿の俺も負けじと走る。
「……はぁっ、はぁっ……! この歳で全力は効くな……!」
だが笑顔は崩さない。
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「はい休憩10秒! 呼吸を整えなさい! 次、もう一度走りますわ!」
「えぇぇ!? もう無理ぃぃぃ!」
「足がもげる!」
「肺が燃える!」
「おーっほっほ! それでこそですわ! 筋肉と心肺は限界を超えて成長しますの!」
観衆「ぎゃあああああ!!」
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数セット後、広場は地獄絵図。
全員が地面に倒れ込み、荒い呼吸を繰り返している。
王子まで巻き込まれていた。
「ぜぇ……ぜぇ……なぜ俺まで……」
リリアーナ「殿下ぁぁぁぁ! 汗だくの殿下も素敵ですわー!」
俺はタオルで汗を拭き、胸を張る。
「よろしい! これぞフェニックス・リピート法! 短時間で代謝を高め、心肺を鍛る最強の鍛錬法ですわ!」
観衆「うおおおおお!!」
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……こうして城下町の広場は、なぜか “インターバル地獄” と化したのであった。
数日後。
城下町の朝は――もはや別世界だった。
「位置について……スタート!」
子供たちがフェニックス・リピート法を実践している。
「うおおおお! 俺は燃える筋肉だぁぁ!」
兵士たちも加わり、城門前で全力疾走を繰り返す。
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昼時の屋台通りでは、
「本日のおすすめ! プロテインシェイク・スライムレモン味!」
「火竜の実味は午前中で完売!」
観衆「……なんで普通の飯よりプロテインが売れてんだ?」
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そして夜。
広場には大勢の市民が集まり――
「ラジオ体操第一、始めますわー!」
おじさん令嬢の掛け声で全員がドレスや鎧のまま体操を始めていた。
「背伸びー!」
「はい、深呼吸ー!」
「おーっほっほっほ!」
まるで王国全体がフィットネスフェス。
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だが――玉座の間からその光景を見下ろしていた王妃は、こめかみに青筋を浮かべていた。
「……あなた、国王。これは一体どういうことですの?」
国王は気まずそうに頭をかく。
「いやぁ……余も朝から走ってみたら腰痛が楽になってのぅ……つい……」
「つい、じゃありませんわ!! このままでは国策が“筋肉政策”になってしまいますのよ!!」
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ちょうどそこへ俺がタオル片手に現れた。
「おーっほっほ! 陛下の血圧も安定してきましたわ!」
王妃「あなたまで何を言ってますの!!」
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広場では観衆の大合唱。
「握力は裏切らない!」
「スクワットは正義!」
「フェニックス・リピート万歳!」
王妃「……この国、本当にどうなってしまうのですの!?」
俺はドレスの裾を翻し、勝ち誇ったように笑った。
「おーっほっほ! 健康国家こそ未来ですわ!!」
こうして城下町は――
完全に フィットネスフェスティバル と化したのだった。
おーっほっほ! 本日は「豆」について語らせていただきますわ!
婚約破棄より深刻なのは――そう、鉄分不足と腸内環境の乱れですの!
まず ひよこ豆。
見た目は愛らしいですが、食物繊維とタンパク質がぎっしり。特に水溶性食物繊維は腸の善玉菌のエサになり、便通改善から血糖値の安定まで幅広く貢献しますわ! フムスやスープにすると、異世界でも大人気間違いなし!
次に レンズ豆。
調理時間が短いというのが最大のメリット。鉄分と葉酸が豊富で、特に女性の貧血対策に最適ですわ! 悪役令嬢であるわたくしも「ちょっと青ざめた顔色」なんて絶対に許されませんからね!
最後に 黒豆・小豆。
こちらは和風の守護神。黒豆のポリフェノール(アントシアニン)は抗酸化作用バツグン、小豆は利尿作用と食物繊維でむくみ対策に最適。美と健康を両立したい貴族淑女には欠かせませんわ!
結論として――
豆は小さな粒に見えて、実は 「栄養の宝石箱」 ですの!
王子もリリアーナも筋肉だけ鍛えてる場合じゃありませんことよ。おーっほっほ!




