伝統派の最終策、王家の逆襲 転生悪役令嬢おじさん、健康常識で社交界を完全制圧する件
王城の大広間。
豪奢なシャンデリアの下、重鎮たちの影が長く伸びていた。
笑い声はなく、空気は張り詰め、まるで嵐の前触れのようだった。
「……諸君、見ただろう」
老侯爵が低く唸るように言った。
「“健康派”なる異物が、王都を、いやこの王国を揺るがす様を」
「王子殿下の威信は地に落ちた。民は麦茶を讃え、握力を語り、
挙げ句の果てに“悪役令嬢おじさん”などを英雄と呼ぶ。
このままでは――王国千年の伝統が終わるぞ!」
「馬鹿な! そんな戯言に屈してはならぬ!」
「伝統こそが、この国の礎! 剣と晩餐、そして威光を失ってどうする!」
次々と声が上がる。
その響きは天井を震わせ、観客席にいた貴族や廷臣たちを圧倒した。
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「ふむ……ではここで示そう」
老侯爵が手を掲げる。
扉が開かれ、列をなして運び込まれる銀の大皿。
「な、なんだこれは……」
「料理だ……伝統の、千年晩餐……!」
分厚いローストビーフが山のように積まれ、
脂と砂糖で固められたパイが輝き、
色鮮やかな砂糖菓子が宝石のように散りばめられる。
会場は一瞬息を呑み、そしてざわめいた。
「これぞ我らの誇り、“千年晩餐”!
豪奢さこそ豊かさの証、伝統の象徴!」
「伝統派に敗北はない! この晩餐を前に、健康派の理屈など無力よ!」
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その迫力は凄まじかった。
料理はただの料理ではなく――王家と伝統派の威信そのもの。
観客たちの視線が揺らぎ始める。
「……たしかに、すごい迫力だ」
「やはり伝統には抗えぬのか……」
だが、その中でただ一人。
俺は扇子を広げ、静かに鼻で笑った。
「……つまり、“贅沢病”を国家戦略にするおつもりですのね?」
会場「ぎゃははははは!!!」
緊張が一瞬にして崩れ、しかし伝統派の目は怒りで燃え上がった。
「……健康派に屈してなるものか!」
王子が椅子を蹴るように立ち上がった。
顔は紅潮し、手には銀のフォークが握られている。
「見よ! これこそ王家の力、王家の誇り!
豪奢なる伝統の料理を前に、誰が“麦茶”などに跪くか!」
リリアーナが王子の腕にしがみつく。
「殿下……どうかその勇姿を! 社交界の目はすべて殿下に注がれております!」
観客席の伝統派も拳を掲げる。
「殿下万歳!」
「伝統を守れ!」
「千年晩餐こそ至高!」
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王子は誇らしげにローストビーフを切り裂き、豪快に口へ運んだ。
ジュワリと脂が滴り、彼の顎を伝う。
「はははっ! どうだ! 力が満ちてくる!」
さらに濃厚なクリームパイを丸ごと頬張り、砂糖菓子を一気に流し込む。
ワインを煽り、声を張り上げる。
「伝統は心を満たす! 王家の晩餐こそ、繁栄の象徴だ!」
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俺は冷ややかにその光景を見つめ、扇子を畳んだ。
そしてゆっくりと歩み出る。
「……では、殿下」
「な、なんだ!?」
「数値で証明していただきましょう」
「す、数値……だと?」
俺は懐から小さな箱を取り出した。
パカッ、と蓋を開けると、中には血糖測定器。
「え、えええええっ!?」
「殿下を実測!?」
観客席がどよめいた。
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王子の手を取ると、俺は小さな針で指先を軽く突いた。
血が滲み、機械が音を立てる。
ピッ――
「……ふむ、殿下。お見事に上がりましたわね」
王子「な、なに……!?」
俺「血糖値、190。これは“血糖値スパイク”と呼ばれる現象ですわ。
つまり今、殿下の身体は――糖分という名の急坂を、転げ落ちておりますのよ」
会場「ぎゃはははははは!!!」
「殿下が数値で論破された!」
「伝統の力が……糖で粉砕された!」
王子は顔を真っ赤にし、フォークを取り落とした。
リリアーナは青ざめ、震える声を上げた。
「そ、そんなはずありませんわ! 伝統の料理が……負けるなんて……!」
だが、観客の笑いとどよめきは止まらなかった。
「ば、馬鹿な……! 血糖値だと!?
これはただの一時的な数値に過ぎん!」
伝統派の重鎮たちが口々に叫ぶ。
だが観客たちはざわめきを止めない。
「190って……やばくね?」
「俺の叔父が医者だが、そんな数値は“要注意”だって言ってたぞ」
「伝統派……糖に負けてんじゃん」
空気は一気に変わりつつあった。
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俺はにっこり微笑み、扇子を打ち鳴らした。
「では次、公開測定を続けましょう。希望者は前へ!」
「なっ……!? ば、馬鹿な! 公開だと!?
そんな無礼な真似――」
「無礼? おーっほっほ! 健康に無礼も伝統もありませんのよ!」
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まず最初に前へ出たのは、勇気ある若き男爵。
「……わ、私が試してみよう!」
針をチクリ。測定器が光る。
「……110mg/dL」
会場「おぉぉぉ!」
「平均値! 健康だ!」
男爵は胸を張り、声を上げた。
「見よ! 健康派の指摘は事実だ!」
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次に出てきたのは、やや太めの侯爵夫人。
「わ、私も……!」
測定器の結果は――
「……168mg/dL」
「ひぃぃ!」
夫人は顔を覆い、涙をこぼした。
「わ、私……伝統のケーキを食べ過ぎて……!」
会場「ぎゃはははははは!!!」
「甘味の亡者だぁぁぁ!!」
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「続けますわよ!」
俺の掛け声に、次々と貴族たちが並ぶ。
「115!」
「98!」
「143!」
数値が読み上げられるたびに、会場は笑いと悲鳴で揺れた。
ついには観客席の庶民まで列に加わり、測定はお祭り騒ぎに。
「これ、もう健康フェスじゃん!」
「悪役令嬢おじさん最高ーー!」
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その光景を前に、王子は震えながら叫んだ。
「やめろ……! やめるんだ!!
これは社交界の儀式だ! 数値で民を煽るなぁぁ!!」
だが俺は扇子で王子を制し、涼しい顔で言い放った。
「殿下。剣で戦う時代は終わりましたの。
これからの社交界は――数値で戦うのですわ!」
会場「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」
伝統派の顔色が次々に青ざめていく。
血糖値の数字が――彼らの権威を削ぎ落としていた。
「こ、こんな茶番……認められるかぁぁ!」
伝統派の老侯爵が声を張り上げる。
「社交界は礼儀と格式の場! 握力や血糖値で威信が決まってたまるか!」
だがその声は、もう誰の胸にも響かなかった。
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列を作る若き貴族たちが次々に叫ぶ。
「いや……今こそ分かりました! 健康あってこその社交だ!」
「数字が真実を示すのです! 虚飾より、身体の声を信じたい!」
「悪役令嬢おじさんこそ未来だぁぁ!!」
庶民も合わせて唱和する。
「握力は裏切らない!」
「スクワットは正義!」
「麦茶は生命線!」
もはや社交界は、完全に健康コールに支配されていた。
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学院長が立ち上がり、厳かに宣言する。
「本日の健康討論会――結論は明らかである!」
「勝者は……悪役令嬢おじさん!」
会場「うおおおおおおおおお!!!!」
割れんばかりの歓声。
伝統派の顔色は青ざめ、王子は拳を握りしめて膝を震わせていた。
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「くっ……なぜだ……なぜいつも……お前ばかり……!」
王子の声は、かき消されるように虚空へ溶けていった。
リリアーナが涙目で抱きつく。
「殿下ぁぁぁ! わたくしがいますわ! せめて糖質カットケーキでも召し上がって!」
だが誰も、二人を見てはいなかった。
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壇上に立った俺は、深呼吸してから扇子を高らかに掲げた。
「おーっほっほ! 皆さま! 覚えておきなさい!
健康こそ、真の伝統! 体こそ、未来を繋ぐ宝ですわ!」
観客「悪役令嬢おじさん万歳ーーーー!!!」
玉座の間を揺るがす喝采。
こうして、社交界は――伝統派から健康派へと、決定的に傾いたのだった。
(つづく)
おーっほっほ! 本日はナッツの中でも特に人気のある アーモンド・クルミ・カシューナッツ を解説いたしますわ!
甘味のスイーツより、ナッツをつまむのが悪役令嬢の嗜みですのよ!
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① アーモンド
•特徴:ビタミンEが豊富で「抗酸化の女王」。血管やお肌の老化を防ぐ力がありますわ。
•健康効果:心血管疾患のリスクを減らし、悪玉コレステロール(LDL)の酸化を防ぐ。
•ポイント:一粒のカロリーは高いので、一日20粒前後が適量。
•注意:素焼き・無塩を選ぶのが鉄則。砂糖コーティングは伝統派の罠ですわ!
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② クルミ
•特徴:植物性食品の中では珍しく、オメガ3脂肪酸(α-リノレン酸)が豊富。
•健康効果:炎症を抑え、脳の働きをサポート。研究では心疾患リスク低下との関連も。
•ポイント:皮ごと食べるとポリフェノールも摂れる。
•注意:酸化しやすいので、冷蔵保存が吉。 rancid(酸化臭)したクルミは処刑対象ですわ!
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③ カシューナッツ
•特徴:ミネラルの宝庫。特にマグネシウム・鉄・亜鉛が豊富。
•健康効果:神経と筋肉の働きを支え、貧血予防や免疫強化に一役。
•ポイント:他のナッツより柔らかく食べやすい。小腹満たしに最適。
•注意:ローストより生に近いほうが栄養は残るが、保存には注意。湿気で即座にダメになる脆弱貴族ですわ。
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まとめ
ナッツ三銃士は、それぞれ違った強みを持つ健康兵士。
しかし摂りすぎは「カロリー過多」という落とし穴。
悪役令嬢おじさん的には――
「一日ひと握り。これを守れば、社交界で倒れることなく、むしろ健康の主役に踊り出ますわ!」




