悪役令嬢おじさん、王都を健康祭りに変える件
王都・中央広場。
今日はただの休日……のはずだった。
だが、俺の目の前に広がっていたのは――
「ラジオ体操第一、はじまるよーー!!」
「うおぉぉぉ!!」
広場いっぱいに並ぶ市民、貴族、商人、兵士。
老いも若きもドレスや甲冑のまま、まさかの全員で準備運動をしていた。
「腕を前から上にあげて――大きく背伸びの運動!」
「いっちに! さんし!」
広場中が地響きのようにリズムを刻む。
……いやいやいや。
「なんで王都のど真ん中が“健康祭り会場”になってんだよ……」
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壇上には国王陛下が仁王立ち。
ドレスコード無視でジャージ姿だ。
「市民よ! 今日から王都は健康国家の模範都市となるのだ!」
「万歳ーー!!」
その隣で王妃が額を押さえていた。
「……もうやめて。恥ずかしい」
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そして屋台。
焼き鳥、酒、串揚げ……そんなものは消え去り、代わりに並ぶのは――
「高タンパクおにぎり! 鮭フレーク入り!」
「低GI値スイーツ! 豆乳プリンです!」
「無料プロテイン試飲会はこちらー!」
俺「お前ら、完全にフィットネス博覧会じゃねぇか……」
観客はノリノリだ。
「わしは玄米おにぎりを五つ!」
「いやいや、糖質はほどほどに!」
「じゃあ三つにしておこう!」
……自制してんじゃねぇよ。
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広場の一角では「握力大会」まで始まっていた。
「次は辺境伯! 記録42kg!」
「おぉぉぉ!!」
「続いて商人ギルド長! 記録35kg!」
「普通だぁぁぁ!!」
俺は頭を抱えるしかなかった。
「……いやだから婚約破棄どこいったんだよ」
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一方その頃。
広場を見下ろす高台で、数人の貴族が眉をひそめていた。
「これは……王家の威信を損なう愚行だ」
「伝統の晩餐会を穀物粥に変えるなど……許されん」
「健康国家など笑止千万。王国は堕落するぞ」
冷ややかな視線を送る彼ら。
その中心には――王子とリリアーナの姿もあった。
王子「……父上も国も、すべてあの女に乗っ取られていく……」
リリアーナ「殿下……わたくし、負けませんわ。いつか必ず……」
だがその声は、広場の爆笑と喝采にかき消されていった。
屋台の真ん中。
「健康クイズ大会」なるものが始まっていた。
司会「問題! 高血圧に効果的なお茶はどれでしょう!」
観客「麦茶ー!!!」
司会「正解! 全員に減塩味噌汁無料配布です!」
「やったぁぁぁ!」
市民が味噌汁で乾杯し始める。
俺「……いや乾杯に味噌汁ってどうなんだよ」
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別の区画では「スクワット耐久マラソン」が進行中。
「100回達成!」「200回!」
「わたし、もう無理ぃぃ!」
「ここで諦めるな! 尻を引け! 胸を張れ!」
まさかの国王自らマイクで指導している。
「余についてこい! 次は片足ブルガリアンスクワットじゃ!」
廷臣たち「ひぃぃ! やめてくだされ陛下ぁぁ!」
王妃「あなた、本気で王国を潰す気?」
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さらに中央舞台。
「ベンチプレス公開測定!」の掛け声。
屈強な騎士が挑戦するも――
「100kg成功ー!」
観客「おぉぉぉ!」
……の直後。
俺が軽く袖まくりしてバーを握ると、
「ふんっ」
「150kg成功ー!」
観客「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「悪役令嬢おじさん、やっぱり桁違いだぁぁ!!」
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広場の端では子供たちが縄跳び大会。
「二重跳び30回!」
「すごいぞ! 未来の健康国家を背負う若者だ!」
……もう完全にお祭り騒ぎだ。
俺「……いやいやいや。これもう王国じゃなくて“スポーツジム国家”だろ」
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だがその喧騒の裏で。
高台から見ていた伝統派貴族たちは、ついに動き出していた。
「このままでは王国の文化が健康ブームに塗り潰される」
「我らの手で立て直すしかあるまい」
王子は拳を握りしめ、憎悪を込めて呟いた。
「……次の社交界。あそこで奴を失墜させる……」
リリアーナも涙を浮かべながら頷く。
「殿下……わたくし、必ずお支えしますわ!」
だがその誓いは、広場の「プロテイン乾杯!」の歓声にかき消された。
夜。
広場に提灯が灯り、祭りはまだ続いていた。
「次は腕立て伏せ合戦だー!」
「負けるもんかー!」
子どもから老人まで、地面に並んで腕立てを始める。
「10回、20回……」
「うわああ! 祖母様が50回超えたぁぁ!」
「まだまだ若いもんには負けんわ!」
観客は総立ちで拍手喝采。
⸻
その横では、なぜか「健康盆踊り」が始まっていた。
「スクワットしながら〜腕を回して〜」
「息を吐いて〜深呼吸〜」
太鼓と共に踊る数千人の群衆。
ドレス姿の貴婦人も、汗だくの兵士も、みんな笑顔で踊っていた。
俺は頭を抱えながら叫ぶ。
「いやいやいや! なんで国民全員が有酸素運動してんだよ!」
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国王は玉座用の椅子を持ち出し、壇上から叫んだ。
「次は“睡眠の質改善講座”じゃー!」
「おぉぉぉ!」
なんと、広場にマットレスが敷き詰められていく。
「仰向けは腰に悪い! 横向き、抱き枕を使え!」
「室温は夏29度、湿度50%!」
「陛下ぁぁ! 真面目すぎるぅぅ!!」
王妃はさすがに堪忍袋の緒が切れた。
「あなた、玉座の間より布団講座を優先するんじゃありません!」
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俺の足元では市民が真顔で記録をつけていた。
「血圧:父72歳 上145/下95」
「基礎代謝:息子14歳 1560kcal」
「BMI:妻24.9 ギリ健常!」
……どこの国勢調査だよ。
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だが――。
そんな熱狂の渦の外側で、ひときわ冷たい視線が注がれていた。
「これ以上好きにはさせんぞ……」
伝統派の重鎮が、黒衣の影と共に去っていく。
王子は奥歯を噛みしめ、広場を睨みつけた。
「……社交界で必ず終わらせてやる」
リリアーナが不安げに寄り添う。
「殿下……でも、あの健康狂信者に勝てますの……?」
王子は震える拳を握りしめ、ただ一言。
「勝つしかないのだ……王家の威信のために!」
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観衆の「万歳!」と、影に消える反対派。
王都は笑いと不穏の二重奏に包まれていった――。
今回の王都健康祭り、みんな汗だくでラジオ体操してましたね。
せっかくなので「水分補給」について科学的に役立つ知識をシェアしますわ!
1. 一日の目安量
•男性は約 3.7L、女性は約 2.7L(食事由来の水分を含む)とされます。
•欧州では 男性2.5L/女性2.0Lがガイドライン。
汗をかく日はさらに追加が必要です。
2. 運動や暑さで必要量は急増
•脱水が体重の **2%**でも集中力や運動能力が低下。
•炎天下や激しい運動では、1時間に1L前後の水分が失われることも。
水だけでなく、塩分や電解質も忘れずに。
3. 脱水はストレスを増幅
•軽度の脱水でも、ストレスホルモン「コルチゾール」が大きく上昇する研究があります。
「喉が渇いた」と感じる前にこまめに飲むのがポイント。
4. 飲みすぎも危険
•水の過剰摂取は「低ナトリウム血症」を招き、命に関わることも。
マラソンや長時間運動時は経口補水液などが安心。
5. 日常でできる工夫
•「おしっこが薄い色」かつ「喉が軽く乾く前に飲む」を目安に。
•就寝前の多量摂取は夜間頻尿の原因に。朝昼に多めに補給するとよし。
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お祭りでも日常でも――
“健康第一”はまず一杯の水からですのよ!




