転生悪役令嬢おじさん、新大陸から招待された件
王都に戻った私――エレナ=フォン=クラウス(中身は健康オタクおじさん)は、朝から手紙の山に囲まれていた。大会で優勝した余波で「パーソナルを受けたい」「健康改革を導入したい」と各国からの依頼が殺到しているのだ。
「……なんだこの“招待状の山”は。私、郵便局になった覚えはないぞ」
タオルを握りしめてため息をつくと、セレーネが一通を手に取った。封蝋には見慣れぬ紋章、海と星をかたどった意匠が刻まれている。
「エレナ様、これは……新大陸からの使節団ですわ」
「新大陸? また妙な単語が出てきたな。筋トレ器具の新ブランド名ではないのか?」
「違いますわ! 大海を越えた先に広がる、未知の文化と人々の地です」
その瞬間、ユリウスが筋肉を揺らしながら飛び込んできた。
「聞いたぞ! 新大陸には“筋肉を凍らせるほどの寒冷地”があるらしい! 俺の大胸筋で試してやろう!」
「……お前、冷凍庫と筋肉を戦わせる気か?」
クラウディオ王子も真剣な表情で続く。
「新大陸との交流は国の威信に関わる。だが、まずは健康外交として君に先陣を任せたい」
こうして私は、王国代表として“新大陸探訪”に向かうこととなった。健康知識とタオル一本を武器に――。
数日後。私たちは王都の港から新大陸行きの大型帆船に乗り込んだ。潮風が肌を撫で、甲板には色とりどりの帆布がはためいている。
「おーっほっほ! 異世界転生してまで海外クルーズに来るとは、まさかの展開ですわ!」
と高笑いしてみたが、次の瞬間、隣でユリウスが青ざめた顔でしゃがみ込む。
「うぅ……筋肉が……揺れている……!」
「おい、筋肉は揺れるもんだろ。問題はお前の胃だ」
一方リリアーナは真逆で、やたらと元気だ。
「見て! 海よ、海! 海の塩分は健康にどう影響するのかしら? 実験しなきゃ!」
バケツで海水を汲み上げ、勝手に手を突っ込む。
「やめんか小娘! 塩分摂取は適量が大事だと言っただろう!」
さらにセレーネが静かに近寄り、私の腕にさりげなく手を添える。
「……波が荒いですわね。転ばぬよう、わたくしが支えて差し上げます」
「む? なぜこの状況で急に密着を……」
「べ、別に……! 落ちたら困りますから!」
甲板の端ではクラウディオが真剣にノートを広げ、
「波のリズムに合わせてロープを引けば体幹トレーニングになる……」と記録を取っている。
――船旅は順調、しかし一行のテンションはバラバラ。これが“新大陸探訪”の幕開けになるとは、当時の俺には知る由もなかった。
長い航海を経て、ついに船は新大陸の港へ辿り着いた。白砂の浜辺には鮮やかな布をまとった人々が並び、太鼓の音が大地を震わせている。
「おお……こりゃまるで“健康フェス”の開幕式じゃないか」
私は思わず口をついて出たが、現地人たちは真剣そのもの。太陽の下で踊りながら、全員が汗を流しているのだ。
「ようこそ、新大陸へ!」
出迎えに現れたのは、逞しい体格の戦士。額に塩の結晶を塗りつけ、堂々と胸を張っている。
「我らの健康法は“汗をかき、塩を補う”こと! 砂漠でも氷原でも生き延びる術なのだ!」
その横からは毛皮に身を包んだ老人が現れた。
「いやいや、寒冷地の秘訣は“サウナと冷水浴”にある。体を極限まで熱し、氷に飛び込めば心身が蘇る!」
「……ちょっと待て。お前ら極端すぎないか?」
私のツッコミも虚しく、さらにジャングルの少女が薬草の束を掲げて飛び出してくる。
「私の村では“虫と草を食べる”のが健康の源よ!」
リリアーナが絶叫する。
「ム、虫ぃ!? いくら健康でも私はイヤー!」
セレーネが呆れたように息をつく。
「やはり各地で文化は大きく違うようですね……」
だが私は頷いた。
「ふむ。だが共通するのは“極端な方法で健康を追い求める”こと。――となれば、私の出番だな」
新大陸の人々を前に、私はタオルを翻しながら高らかに宣言した。
「健康の真理は調和にある! おーっほっほ!」
新大陸の戦士たちは私に向かって腕を組み、こう告げた。
「異邦の客よ。我らの流儀を体験せねば、この地では健康を語れぬ!」
まずは砂漠の試練。炎天下で延々と踊り続け、汗を絞り尽くす儀式だ。
「おーっほっほ! 有酸素運動なら任せなさい!」と気取ったものの、三十分でクラウディオ王子が倒れ込み、ユリウスも「筋肉が……干からびる……」と崩れた。
「水分補給しろと言っただろうが! 塩分も適量だ!」と、私は慌ててタオルで二人を扇ぐ。
続いて氷国の試練。サウナに入ってすぐ氷水に飛び込むという極寒療法だ。
「ふん、鍛えた血管なら耐えられる!」とユリウスが意気込むも、飛び込んだ瞬間「ひゃああぁぁぁ!」と情けない悲鳴を上げた。リリアーナは足先を浸けただけで「無理無理無理!」と泣き叫ぶ。
「……結局、限度を守れぬ者は健康どころか風邪をひくだけだな」
最後はジャングルの試練。薬草と虫の混合スープを飲む儀式である。
「どうぞ!」と差し出され、皆が顔を引きつらせる中、私は躊躇せず啜った。
「……意外とタンパク質が豊富だな。おーっほっほ!」
「おじさん、すごっ!」「師匠、ほんとに何者なんだ……」と周囲が呆然とする。
こうして私は新大陸の流儀をすべて体験し、最後に笑みを浮かべて宣言した。
「健康に王道なし! だが、調和こそが普遍の真理である!」
太鼓が鳴り響き、戦士たちは一斉に頭を垂れた。新大陸の民すらも、ついに“おじさん令嬢”の健康道を認めたのだ――。
おーっほっほ! 新大陸の試練はなかなかに過酷でしたわね。
サウナに入った直後に氷水へ飛び込む――いわゆる「交代浴」。これは実際にも、血流を一気に促進し、自律神経を整える効果があると研究で報告されていますわ。体がポカポカしてリラックスするのは、血管が開いたり閉じたりするおかげ。
ただし注意! 心臓や血圧に不安がある人は急激な温冷刺激は危険です。くれぐれも「ほどほど」が肝要ですわ。
そして……昆虫食。リリアーナは悲鳴を上げていましたが、実際のところ栄養的には優秀。コオロギやミールワームは高タンパク・低脂肪で、ビタミンやミネラルも豊富。国連の報告でも「持続可能なタンパク源」として注目されています。
ただ、見た目や心理的な抵抗は大きいので、無理に食べる必要はありません。粉末にして料理に混ぜるなど工夫すれば、案外すんなり受け入れられるかもしれませんわね。
結論として――サウナも昆虫食も「正しく取り入れれば健康に役立つ」。でも極端に走ると逆効果。やはりどの文化でも、「バランスと調和」が最強の健康法なのですわ!
……とはいえ、虫スープを笑顔で飲み干すのは、さすがに私ぐらいでしょうけれどね! おーっほっほ!




