表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/183

転生悪役令嬢おじさん、武闘大会で家具をリフトする件

学園の最大行事――武闘大会。

剣術、魔法、体術……学生たちが日頃の研鑽を競い合う晴れ舞台だ。


「ふふ……今度こそ、わたくしが勝利を!」

新ヒロインは自信満々に宣言する。

「殿下と共に優勝して、あの悪役令嬢を完全に葬り去りますわ!」


「婚約破棄された令嬢など、ここで終わりだ!」

王子も鼻息荒い。


……いや、俺は別に大会なんて出るつもりなかったんだけど。

なぜかエントリー表には「悪役令嬢おじさん」の名前が堂々と記載されていた。


「いや俺、書いた覚えねぇんだけど!?」



観客席は満員。

「基礎代謝の女神だ!」

「また伝説を作るぞ!」

「今回は何を持ち上げるんだ!?」


いやいや、「持ち上げる」前提やめろ。



俺の一回戦の相手は、筋骨隆々の騎士見習いだった。

「勝負は木剣で!」と審判が告げる。


だが俺は木剣を無視して――

「……よし、床引きだな」


ゴンッ、と床に置かれた大きな木箱を掴んだ。


「で、デッドリフトッ!!」


ブオォォォォォッッッ!!

背中と脚で引き上げた瞬間、観客席から悲鳴のような歓声が上がる。


「す、すごい重量だ……!」

「ただの木箱なのに神々しく見える……!」

「筋肉で大地を支配してる……!」


対戦相手「えっ、俺戦う前に負けたの!?」



次の試合では魔法使いが火球を飛ばしてきた。

「ファイアボ――」


「デッドリフトッ!!」


俺が床板ごと巨大なテーブルを持ち上げ、火球を受け止めてそのまま放り投げる。

観客「物理で魔法を返したぞぉぉぉ!!」



準決勝。

対戦相手は獣人の俊足剣士。

「俺の速さに勝てるものか!」


「速さ? なら床引きだ」

俺は彼を逆に掴んで、まるごと持ち上げた。


「ぎゃあああああ!? ちょ、ちょっと!? 俺、バーベルじゃねぇから!?」

「デッドリフトは全てを持ち上げる……!」


観客総立ち。

「人まで床引き対象に……!」

「これが筋肉の極致……!」



そして決勝戦。

俺の相手は――王子だった。


「お前に筋肉で好き勝手されて、どれだけ俺が惨めな思いをしたか……!

今こそ正義の王家剣術で終わらせてやる!」


「悪いな王子。お前の剣術、床に置いてある」


「なにっ!?」


俺は王家の宝剣を収納した豪奢な木箱を、そのまま床から持ち上げた。


「デッドリフト・オブ・ロイヤル!!」


王子「俺の剣ぇぇぇぇぇぇ!!!」



こうして学園武闘大会は――

剣でも魔法でもなく、床引き選手権として幕を閉じたのであった。


……いやだから、婚約破棄どこいったんだよ。


決勝戦が終わった瞬間、観客席は総立ちだった。

「悪役令嬢おじさん万歳!」

「床引きこそ王道!」

「学園の伝統を筋肉が塗り替えたぞ!」


王子は膝から崩れ落ち、肩を震わせていた。

「くっ……なぜだ……なぜいつも彼女ばかり……!」


新ヒロインが涙目で王子に寄り添う。

「殿下……お気を確かに。まだ私たちには愛がありますわ!」


だが観客の誰も、もう二人を見ていなかった。



壇上に上がった学院長が、俺にトロフィーを手渡した。

……いや、トロフィーじゃなくて バーベルだった。


「今年の優勝者は――悪役令嬢おじさん! 副賞は新調した20kgプレートだ!」


「なんで筋トレ器具なんだよ!?」



会場は拍手喝采、興奮は最高潮。

だがそれだけでは終わらなかった。


観客席から次々に人々が立ち上がる。

「次は俺と勝負だ!」

「辺境伯家の息子、全力で床引きを挑ませていただく!」

「異国から来た留学生だ! 我が国の“キャメルデッド”を見よ!」


突如始まるエキシビション床引き大会。

会場は完全にパワーリフティング競技場と化した。



観客も巻き込まれ、貴族も平民も入り混じって床からあらゆるものを引き上げ始める。

机、椅子、カーテン、果ては装飾のシャンデリアまで――。


「見ろ! あの淑女がシャンデリアを持ち上げている!」

「俺は校舎の扉を床引きだぁぁぁ!!」

「腰をやるなよお前らぁぁぁ!!」


大混乱だ。

だがその混沌を、誰も止めようとはしなかった。



学院長は涙を流しながら叫んだ。

「……今年の大会は史上最高だ! 筋肉に乾杯!!」


俺は頭を抱えつつ、トロフィー代わりのバーベルを掲げた。

「……だから婚約破棄どこいったんだよ」

武闘大会を床引き選手権にしてしまいましたが、せっかくなので**デッドリフト(床引き)**の基本を解説しておきます。

•動作の基本

 床に置いたバーベル(または物体)を、背中を丸めずにまっすぐ立ち上がって引き上げる動作。

 シンプルだけど、全身の筋肉を総動員する最強クラスのトレーニング。

•主に鍛えられる筋肉

 大臀筋(お尻)、ハムストリングス(もも裏)、脊柱起立筋(背中の柱)、広背筋など。

 下半身と背中を一気に鍛えられるため「BIG3(スクワット・ベンチプレス・デッドリフト)」のひとつに数えられる。

•フォームの注意点

 腰を丸めて持ち上げると腰を痛めやすい。

 胸を張り、肩甲骨を寄せ、バーは脛に沿わせるイメージで引く。

 足で床を踏みしめ、全身で“地面を押す”ように立ち上がる。

•バリエーション

 ・コンベンショナルデッドリフト(スタンダード)

 ・スモウデッドリフト(足幅を広げて行う。可動域が短く、比較的持ち上げやすい)

 ・ルーマニアンデッドリフト(膝を伸ばし気味で、もも裏とお尻に特化)

 などがある。

•メリット

 全身の筋肉を鍛えられる → 筋力・代謝・姿勢の改善に直結。

 高重量を扱えるため、成長実感が大きい。

•デメリット

 とにかくフォームが大事。無理な重量や丸まった背中で行うと、腰を痛めやすい。

 初心者は軽い重量からフォーム習得を優先すること。



デッドリフトは「床から立ち上がる」ただそれだけの動作ですが、正しく行えば圧倒的なパワーを得られるトレーニングです。

――学園武闘大会で机を引き上げたおじさんの選択は、案外理にかなっていたのかもしれませんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ