表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/73

婚約破棄より血圧が心配なんですけど!?

「この婚約は――破棄する!」


王子の高らかな宣言が、大広間に響きわたった。

会場は一瞬にしてざわめきに包まれる。

泣き崩れるはずの令嬢、悲劇のヒロイン……誰もがそう思った。


……が。


「おう、了解。で、その前に椅子ある?」


「……は?」


「いや、立ちっぱなしでドレス着てんのキツいんだわ。血圧あがるっつーか、腰に来るっつーか……」


王子は唖然とし、廷臣たちは顔を見合わせた。

令嬢の口から飛び出したのは、令嬢らしからぬ中年おじさんボイス。


「……お前、誰だ!?」


「誰も何も。俺だよ。いやまあ、前世はただのサラリーマンだったんだけど――気づいたら令嬢ボディに転生しててな? で、今こうして婚約破棄されてんの」


「サラ……リーマン? なにを言って……」


「お前にゃわかんねぇだろうな。だが聞け、王子。おじさんにとってな、婚約破棄より大事なのは血圧なんだよ!!」


その瞬間、会場にいた者全員が固まった。

婚約破棄式典が、なぜか人間ドックの話題にすり替わっていた。



「……ま、待て。今は婚約破棄の儀式中なのだぞ!」

王子が必死に仕切り直そうとする。


だが俺は胸を張り、真顔で言い放った。


「ならせめて、バイタルチェックから始めろ。血圧計は? 心拍数は? ドレスは絞めすぎだし、これ熱中症コースだぞ!」


「な、何を……っ!?」


「いいか王子、30過ぎたらな、朝イチで血圧測るのが習慣なんだよ!!」


……完全に大広間の空気が凍った。

王子の手に握られた「婚約破棄証明書」は、いまやただの紙切れ。

注目を浴びているのは、俺の健康状態だった。



会場の貴族たちがざわめく。

「血圧……?」「ドレスで圧迫?」「いやでも、確かに貧血で倒れる令嬢もいたな」

なぜか納得しはじめる人々。


「やめろ! 婚約破棄は俺の宣言だ!!」

必死の王子をよそに、

俺は袖からタオルを取り出して汗を拭いながら、勝手に言い切った。


「婚約破棄? あぁ、勝手にしろ。ただし俺は今日から、健康第一の悪役令嬢として生きる!」


「婚約破棄は俺の意思だ! お前との未来は――」

必死の王子の言葉を、俺は手で制した。


「はいはいストップ。未来より今の数値を見ろっての。上が140超えてたら終わりだぞ?」


「数値……?」


「俺、さっきから頭クラクラしてんだよ。婚約破棄とかどうでもいいから、マジで椅子くれ。あとポカリ」


「ポ、ポカリ……?」


会場は再びざわめきに包まれる。廷臣の一人が慌てて椅子を持ってきた。

俺はドレスのまま腰を下ろし、盛大にため息をついた。


「ふぅ〜……助かるわ。お前ら若いからわからんだろうけどな、立ちっぱ式典は血管にくるんだよ」


「な、何を言っている……! これは神聖なる婚約破棄の儀だぞ!」

王子の声は震えていた。だが周囲の貴族たちの目は――妙に真剣だ。


「……しかし、言われてみれば……」

「最近倒れる令嬢も多いと聞くしな……」

「ドレスの締め付け……あれは確かに危険かもしれん」


なぜか健康談義が始まっていた。



「やめろ! 話を戻せ! 俺は彼女との婚約を破棄するのだ!」

王子は必死に叫ぶが、もはや遅い。

誰も婚約破棄など聞いていなかった。


「血圧、いくつぐらいが正常なのかしら?」

「塩分控えめの食事がいいらしいぞ」

「麦茶は体に良いと聞いた」


……貴族たちの関心は完全に健康管理へシフトしていた。



俺は立ち上がり、堂々と宣言する。


「いいか諸君! 今日をもって俺は――健康第一の悪役令嬢を目指す!」


会場「おぉぉぉぉぉっ!!」


謎の喝采が巻き起こり、王子の「婚約破棄」宣言は見事にかき消された。

こうして俺の新たな人生は――血圧測定と共に幕を開けたのだった。

「おーっほっほ! 本日のテーマは“血圧”ですわ!」


婚約破棄の場でさえ血圧を語る悪役令嬢おじさん、あとがきでも当然続けますのよ。

今日は “血圧と上手につきあうポイント” を皆さまにお届けいたしますわ!



◆ 数値の目安

・一般的に 上(収縮期血圧)140mmHg未満、下(拡張期血圧)90mmHg未満 が目安ですわ。

・朝イチと夜に測って、自分のリズムを知ることが大事。


◆ 食生活の工夫

・塩分は一日6g未満が推奨ですわ!

・“うま味”を活かしただし(昆布・かつお)で、減塩でも満足度アップ。

・カリウム豊富な野菜や果物(バナナ・ほうれん草など)でナトリウム排出を助けますの。


◆ 生活習慣

・運動は ウォーキング30分を週3回 でも十分効果あり。

・睡眠不足やストレスは血圧上昇の元凶。深呼吸やストレッチも忘れずに。



「つまり――婚約破棄よりも恐ろしいのは、沈黙の高血圧。

 おーっほっほ! 悪役令嬢おじさん、今日も数値と共に生きますわ!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ