表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/280

幸せの駅

長野に入ると、風景がガラリと変わった。


「日本アルプス」の名を冠するヨーロッパアルプスに似た山々に、東洋的な情緒が溢れるように相俟って、その美しさは、今まで見た日本のどの絶景とも違っている。


 植物の植生にも、変化が見られる。

 山梨では無かったモミの木の大木が群生し、言葉を失いそうな迫力が、ズシンと胸を打つ。

 ちょっとハイジしてるような?


「素敵ね~!何だか景色が煌めいて見える。」

 終着駅の上諏訪駅は、もう目の前。佑夏は子供のように目をキラキラさせている。


 山梨より、澄んだ空気の為か、世界全体が輝いているようだ。


 明るく強い陽射しが照り付けるのに、気温は上がらない長野独特の気候。


 古くから、軽井沢が避暑地として人気のある理由。 


 そして、快晴の青い空に、トンボが舞っている。


 霧ヶ峰で、僕達を待つ小動物はトンボが好物のはず。


 冬眠に備えて、食べまくっているだろうか?


 夜行性だから、今頃は巣穴の中かな。


 その地に向かう僕達の汽車旅も、間もなく終わりを告げることになる。


 地元の駅から、新宿までは夜行バスに乗った。

 実に六時間もの道のり、しかも出発は深夜。


 男一人なら、そのまま特急に乗り継ぐところだが、美しいお姫様をエスコートの最中。


 大急ぎで、新宿のネカフェでシャワーを浴び、あずさに飛び乗った。


 こんな「美女を何だと思ってるんだ?」と言われそうな旅程にも関わらず、佑夏は、終始にこやかである。


 ぽん太の奴、何が「住む世界が違う」だ!

 佑夏は、僕とピッタリの庶民派じゃないか。


 僕はバブルを知らない世代。


 時代によっては現実に存在したらしい、移動はグリーン車か、それなりの車の助手席、宿泊は一流ホテルでなくてダメだという女性。

 が、僕はそういった人を知らない。


 もし佑夏が、そんな人だったら、今こうして、一緒に列車に乗ってはいないと思う。


 再び、彼女が幸福論を解説する。


「アランのお話だとね、汽車から見える景色は無料なんだって。」


「え?俺達は料金、払ってるよ?」


「それは運賃でしょ?風景を見るのに、お金は払っていないのよ。

 車窓から見える世界は、人に見せてお金儲けする為に、造られたものじゃないわ。」


「ああ、そりゃそうだね。」


「最高コスパね!

 私、ありのままの自然の風景や、線路沿いの人達の普段の生活見れて、とっても楽しかった!

 ありがと、中原くん!」


「いや、俺は何もしてないよ。

 そういえばさ、インディアンの格言に、

 ゛大地も自然も、みんな地球の無償の贈り物だ。欲にかまけた連中が自分のものだと言い出して、金を取って見せるようになった“っていうのが、あるんだってさ。」


「そうよねー。自然の美しさは、お金じゃ計れないよね。」


 自然の造形美は無料。

 こんな当たり前のことが、当たり前でない、今の世の中。


 今、氣付いたが、佑夏の口から、T◯Lや、U◯Jの名前を聞いたことが無い。

 あれは、今回の長野行きとは対極だ。

 僕も興味が無い。

 

 人口の、大していい光景とも思えないものを、バカ高い金を取って見せる。

 しかも、観てる時間より、並んでる時間の方が長い。


 知り合いに、英会話で知り合った、LA出身のアメリカ人男性がいるんだけど。


 彼は、家の目の前がディズ◯ーランドだったが、一度も行ったことが無いそうだ。


「The height of stupidity.」愚の骨頂、というのが、そのアメリカ人のDL評だったりする。


 その人とは、僕は氣が合う。

 やはり、類は友を呼んでいるのである。


 そこ行くと、アラン推薦の汽車旅の何と素晴らしいことか!

 彼女が気に入ってくれて、本当に良かった。


「佑夏とはこれでお別れ」。


 あの怪猫にそう言われた不安を打ち消す為に、自分に何度も言い聞かせる。


 ぽん太!この子と俺は似た者同士だ!


 中央本線、特急あずさ3号が、目的地、上諏訪駅に到着したのは、その時である。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ