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もっと華麗なるデブ猫

あずさの車内、あの五歳くらいの女の子はまだ乗っていて、両親の膝の上ではしゃいでいる。


 従妹の苺奈子(もなこ)ちゃんと同じくらいだな。


 苺奈子ちゃんは、僕の家で預かることが多い。


 母親である僕の叔母に持病があり、通院を続けているからだ。


 佑夏と苺奈子ちゃんは何度も顔を合わせ、あの子は佑夏にすっかり懐いている。


「二人きりで旅行」、「従妹の女の子が懐いている」。


 こう言うと、僕と佑夏は、ただならぬ関係のようだ。


 しかし、彼女とはキスどころか、たまたま縁のあったフォークダンスの時以外、自力では手を握ったことすらない。

 つまり、恋人同士ではない。


 それをいいことに、出発前、ぽん太は言いたい放題。


 それでつい、怪物だの、モンスターだの、キツメの紹介となってしまった。


 猫が言いたい放題?


 怪訝に思われるだろう。


 しかし、保護して二年目から、ぽん太はその思念を僕の頭の中に、直接送ってくるのである。


 そこで、僕も言葉を使わず、思念をぽん太に返す。


 なんと、会話が成立してしまう。


 最初は、僕は自分で考えてることを、自ら脳内再生してるだけだと思っていた。


 ところが、それにしては、あまりに、ぽん太の以心伝心が生々しい。

 ほとんど、肉声と言っていいくらいだ。


 僕が家を出る前に、妖怪・ぽん太と交わした会話は次のようなものである。


 秋の花、紫色の萩の咲く庭をバックに、ぽん太はヨリ目で僕を見つめ、含み笑いさえ浮かべてのたまう。


(だからよ。佑夏のことは諦めろ。もう、お前の出る幕じゃねぇよ。)


 なんだと?!このスーパーデブが!


(二人だけで旅行に行くのにか?)


 ふふん、とぽん太は笑う


(どこまでも能天気な奴だ。ジンスケ、長野まで何で佑夏がついて行くか、考えたことあるのか?)


(写真集の表紙見て、大喜びしてたぞ。)


 ぽん太は「こりゃダメだ。」と言いたげに、尻尾を右に左に振る。


(佑夏は今、大変なんだろ?)


(ああ、卒論もあるし、卒業間際でスゲー忙しい。

 そんな時に、大事な合格発表の日に、わざわざ霧ヶ峰まで、俺と一緒に来てくれるんだ。)


(だから何だ?)


(佑夏ちゃんだって·········、俺を特別に想ってくれてんだろ?)


 ぽん太は一つ、大きく伸びをする。


(あめーな。お別れを言う為かも知れねえぜ。試験に落ちりゃ、佑夏はアフリカに行っちまうんだよ。)


(!!)


 ぽん太、鋭いことを言う。


 確かに、教員採用試験に不合格なら、佑夏はケニアに渡る可能性が極めて高い。


 まさか、二次試験の手応えが良くなくて?

 彼女は僕に別離を告げる為に、この多忙な時期に、遠い長野まで来てくれるのか?


 あの男の元に行くと決めて、僕には最後のサービスを?


 だが、心優しいあの子なら、そこまでやってもおかしくはない。


 理想の女性、白沢佑夏に、まだ想いさえ告げていないのに、僕はここで終わるのか?


 ちなみに、「別れ」というと、付き合っていて関係解消するようだ。


 彼女とは、そういう仲ではない。


 この場合、「別離」だろう。


 ぽん太は、喉をゴロゴロ鳴らしている。

 猫飼いなら分かるが、これは猫の機嫌のいい時のサインだ。


 人を散々、不安にさせて、アランか?こやつは?


(ジンスケ、あんなモテ要素が服着てる奴に、お前がかなうかって。勝ち目ねぇな。

 勝ってるとこ、ねぇって!)


(佑夏ちゃんは、教育大生だ。サーフィンより、合氣道だ!)


(何で教育大だと、アイキドウなんだ?お前はバカか?)


(俺だって、教員免許を取ったぞ。)


 中学社会。

 佑夏の影響で、僕も教育実習に行った。


 昔流行ったヤンキー教師のマンガを読んでからだったが、おもしろくて、止まらなくなった。


(佑夏について行くつもりか?アフリカで日本の社会教えて何になるんだっつーの。せめて、理科、数学、英語でなきゃ役に立たねえよ。)


 ぽん太は、大あくびをして続ける。


(あの男は超一流の大学出てる。何ヵ国語できるんだっけな?おまけに音楽まで教えられるんだ。お前の負けだ、終わったな、ジンスケ。 )


 うぐっ!

 ぽん太の言う通り、あれ以上、魅力のある男は、世界中探しても、そう多くはないだろう。


 あの男の前では、さすがの佑夏も、完全に「目がハート」になってしまう。


 うちひしがれる僕に、さらに、ぽん太は容赦ない。


(まあ、そうガッカリするなよ。オレが言うのもなんだか、お前は悪くねぇぜ。見た目も並よりゃずっといいしな。性格も優しくて、アイキドウが上手え。)


 僕はやっと口を利くことができた。


(ぽん太に誉められても、嬉しくないよ。)


 にゃ~ん、と一声鳴いた後、ぽん太はなおも追い討ちを止めない。


(ニャハハハハ!そう言うなって。ジンスケの身のこなし見りゃ分かる。

 お前はアイキドウの達人だ。優しくて強えお前は、女にしてみりゃ、最高のボディーガードだぜ。)


 ん?立ったままの足元に、柔らかい感触を感じる。


 見てみると、もう一匹の猫。

 三毛猫の「楓」が、心配そうに僕を見上げている。

 










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