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華麗なるデブ猫

山梨県都・甲府駅で大きな乗客の出入りがあった後、あずさはいよいよ長野県に向かう。


 目的地、霧ヶ峰高原まで70キロを切った。


 動物写真家、東山大悟氏、作者本人のガイドで写真集の撮影場所を回る今回のツアー。


 今日を入れて、たった二日間の日程だが、貧乏学生の僕にはちょうどいい。


「王子様、どうしてるかな~。」


 ついに現れてきた日本アルプスの山々に、うっとりした視線を送りながら、佑夏が呟く。


「母さんがみてる。アイツはいつだって、元気だよ。」


 王子様。


 時々、あの怪物(そう言って差し支えないと思う)を佑夏はそう呼ぶ。


 出発前、僕はその化け物と口論してきた。


 そもそも、佑夏と知り合えたのは、彼女が保護したその存在を、僕の家で預かることになったからだ。


 この人の実家は山の温泉街にあり、ニジマスの養殖をやっている。


 実家には、既に犬も猫も限界MAXで、これ以上、増やすことはできない。


 かといって、現在の佑夏はアパート暮らしでペット不可。


「中原なら、何とかしてくれる。」


 途方に暮れていた彼女を、僕達の共通の友達が、そう仲介し、怪猫「ぽん太」は僕の家にやって来た。


 自分で言うのも何だが、生き物に優しい僕は、保護団体と協力して、行き場の無い犬猫の世話などもしている。


 現在、犬一頭、猫二匹が我が家で暮らす。


 その内の一匹が、このモンスター、ぽん太だ。


 今、あずさの車内で、佑夏がおごってくれた車内売りの「信玄餅アイス」を二人で食べつつ、僕は置いて来た犬猫達のことを思い出す。


 留守中は、母が世話をしてくれている。


 しかし、信玄餅アイスは美味い。


 東北地方だと10月はもう、アイスのシーズンは終わりだが、関東はまだ全然いける。


 アイスを食べながら、日本アルプスの風景を観賞し、その上で楽しむ佑夏との会話は、また格別だ。


「中原くん、ゴメンね~。ぽん太をずっと押し付けて。」


「いや、氣にしないでよ。何度も言ってるじゃないか、俺は前より助かってるんだ。」


「ありがと。あの子、あんなにカワイイから、私なんかといるより、中原くんも嬉しーよね?」


 カワイイ。


 これが、終始一貫した、彼女のぽん太評である。


 状況を整理しようと思う。


 まず、佑夏は芸能界でも、十分やっていけそうな美女だ。


 教師なんかにしてしまうのは、ハッキリ言って、もったいない。


 この子が街を歩けば、男はもちろん、女性でさえ、ふり返って佑夏を見る。


 事実、高校時代、「同性から」愛の告白をされたことが何度もある、と言ってこの人は大笑いしていた。


 本人曰く、「私のどこがいいのか、分からない」そうだが、自分の美形ぶりを全く理解できないあたりが、彼女の美的感覚の異常性を物語っている。


 そして、認めたくはないが、このケースでは、本人が美形である分、他者への美的感覚および、異性の好みが逆転しているとしか、説明がつかない。


 何しろ、容姿的には見るべきものの無い、この僕ともう三年以上も交流(交際ではない)を続け、誰もが悲鳴を上げるブサイクな猫、あの、ぽん太を「カワイイ」と言って溺愛してやまないのだから。


 本当に認めたくないが、ブサイクが好みだから、僕と今、一緒に特急に乗ってくれているのか?佑夏ちゃん?


 ぽん太は、猫離れした巨大な体躯を持つ、もちろん、雄の猫。


 年齢は佑夏には秘密。


「一体どこを見てるんだ?」というくらいの、極端なヨリ目。

 ヨリ目の猫が存在すること自体、驚きだ。


 狸、それもリアル狸でなく、マンガに出てくる狸に酷似していることから、僕が出会った時、既に佑夏によって「ぽん太」と名付けられていた。


 元野良猫の分際で、丸々と太っている。


 佑夏は、しばらくの間、アパートの部屋で、ぽん太をケージ飼いして、好きなだけ、食べさせていたのだ。


 当初、僕は、彼女も、ぽん太を僕に押し付けたら、それで終わりだろうと思っていた。


 今まで、僕の元に犬や猫を持ち込んで来た人達は、みんなそうだったから。


 だが、違った。


 佑夏は、本当に優しい心の持ち主だった。


 大学一年の梅雨の時期から、今までずっと、この子は、ぽん太の世話をしに、僕の家に通い続けてくれている。

 それも毎週のように。


 掃除も完璧にしていってくれるから、ぽん太が来る前より、かえって部屋が綺麗になってしまった。




 あずさは山梨県を抜けようか、というところまで、来ている。

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