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競争の果てに

ここでまた、小林さんが補足説明する。


「サクラマスになるのは、雌が多いです。雌は雄に比べて、餌を獲るのが上手くないからです。」


 ええ?それ、僕の姫君のことのように聞こえるが?


「佑夏ちゃん。」

 

 僕が、隣に座っている彼女に話かけると、すぐ返事が来る。


「うん?」


「もしさ、教員採用試験(きょうさい)ダメでも、サクラマスになればいいよ。」


「中原くんも、そう思った?私も。ありがと、素敵なお話ね~♪」

 

 白い貝殻の髪飾りと、三個のシーグラスが木漏れ陽で、光り輝いている。


 巻貝を耳にあてると、森を通り抜ける風、あるいは波の音といった音がするけど。


 今、小鳥の声、渓流のせせらぎ、落ち葉舞うサラサラとした風の音が、白い貝殻の中で増幅され、佑夏の耳には自然のシンフォニーとなって聞こえているのだろうか?


 きっと、貝殻は「試験に落ちても氣にやむことはない。広い大洋で生きなさい。」と言っているに違いない。

 そう、この白い髪飾りはそういう人に作られた物。


 高原の渓流に、海の巻貝を付けた美女。

 山に棲むヤマメと、海に下るサクラマスを現わしているようで、何だか感動的だ。 


 さて、東山さんも、サクラマスの話はお気に入りのようだな。

 まだ語ってくれる。


「私は釣りはやりませんが、釣り人の中には、サクラマスを夢中になって追いかける人もいますよ。


 銀色に光る、大変美しい魚ですから。


 普通、釣りは海釣りと川釣りを分けるものですが、自然と一体化して海にも川にも生息するサクラマスにロマンを感じるようです。」


 またまた小林さんの補足が。


「秋に川を遡上したサクラマスは、雄と雌が一匹ずつ、つがいとなって産卵します。」


 僕も佑夏に寄り添ってあげたい。サクラマスの雄のように。


 競争に負けたからといって、人生も終わりではない。


 僕達は幼い頃から、学校でこれでもか、というくらい競争させられ、競争こそ人生で、それが当たり前だと思い込まされている。


 だが、幸福論の一人、ラッセルは、競争を完全に否定している。

 彼自ら、私立学校を創設したにも関わらず、である。


 ラッセルによれば、人生の目標に競争をあげることは、あまりに冷酷で、神経の疲労とさまざまな逃避現象を生み出すのだという。


 競争の汚毒で、仕事も余暇も毒され、最後には種の滅亡をもたらす、とラッセルは言っている。


 今、氣付いたが、教員採用試験の二次面接で、佑夏は「生徒には競争させない」なんて言わなかっただろうか?


 多かれ少なかれ、学校とは生徒を採点し、競争させる場だ。

 そんなこと、言ってしまえば、採否に不利になりそうに思う。


 しかし、心優しい佑夏には生徒を競争させる「権力の教官」より、フリースクールで、学校に行けない子供に勉強を教える方が、向いているんじゃないか?


 以前、彼女本人に、そう話したことがあり、まんざらでも無さそうだった。


 絶対、フリースクール!


 佑夏ちゃん、ケニアに行かないで~!!

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