精霊の踊り
演奏が続き、会場のボルテージも最高潮に達しようか、というところ、潮崎氏が入場して来た花道の奥から、何やら、シャランシャランといった音が聞こえてくる。
佑夏ちゃん!そう、危うく声に出しそうになってしまったじゃないか。
鮮やかな、アフリカの民族衣装に身を包んだ僕の姫(まだ、潮崎さんの物ではない!)が、頭の冠を振り乱し、曲に合わせて入場して来たのである。
髪の上に、アフリカンティアラを被っているにも関わらず、こめかみに付いている何時もの白い貝殻と、三色の星のシーグラスが、一層、輝きを放っているのが、落とし目の照明の中でも、はっきりと見てとれる。
いや、普段より綺麗だ、まるで、命を持っているように。
「よー!佑夏ー!待ってたぞー!!」
子供向きのヒーローショーに熱狂する幼児のように、翠が上げた声援は姫君の耳に入り、僕らに向かって、笑顔で手を振ってくれる。
民族衣装を纏ったダンサーは三人。
先頭は、お腹の前に小型の太鼓を下げ、それを打ち鳴らしている黒人男性。歳は30歳くらいか?
どうやら、ケニアから潮崎氏に帯同して来た、ルオースクールのスタッフらしい。
二番目に我らが、白沢佑夏さん。
羽のように軽やかなステップ、滑らかなウェーブの動き。う、う、美しい!
アフリカンコスチュームも、その似合いぶりといったら、僕から魂を抜き取ってしまいそうだ。
最後に続くのが、斎藤ミユちゃん。
佑夏ほどではないが、彼女も、なかなか踊りが上手い。
そして、ミユちゃんは見る度に、どんどん佑夏に似てきている。
武術の世界でも、弟子は師匠に似るというが。
僕と翠は彼らが出演することを、本人達に聞いて知っていたが、何も知らされていなかった他の観客達からは、驚きの声が上がっている。
そして、その声は、すぐに賞賛の拍手に変わる。佑夏の踊りが、あまりに優美で華麗なのである。
準備期間は、ほんの僅かだったというのに、大したものだよ。
まあ、佑夏もミユちゃんも、県教大の授業で、フォークダンスはやってはいるんだろうけど。
いったん、演奏が終わり、潮崎氏が出演者を紹介する。
やはり、黒人男性は、ルオースクールの教師で、潮崎氏の同僚。
カタコトの日本語なら、できる様子である。
「今年の夏に、この町から、遥かバベラスラムまで来てくれました、白沢佑夏さんです。
この県の教育大学の学生さんです。」
次に、そう潮崎氏が語ると、客席から、ええ~!?といったどよめきが上がる。
誰も、地元の県教大生だとは思っていなかったようだ。
そりゃそうだよな。この美しい容姿に、並々ならぬダンスのスキルでは、プロのダンサーと勘違いされるのも仕方ない。
「こんにちは!白沢といいます。今年の八月に、ルオースクールにお邪魔させていただいて、すっかりドハマりしちゃいました♪
今日は、よろしくお願いいたしま~す!」
相変わらず、周りを笑顔にし、氣持ちを乗せてしまう、にこやかな佑夏の美声。
観客達も、途端にニコニコし始め、口々に「八月?たった二か月で、あんなに踊り上手いの?すごいね~。」みたいなことを、ヒソヒソ囁きあっている。
佑夏のおかげで、会場の雰囲気が激変し、明るく和やかなムードになる。
潮崎さん、感謝しなさい。(でも、僕の大事な姫は連れていかないで。)
まだ、ケニアへの渡航経験は無い県教大の後輩ということで、斎藤ミユちゃんも紹介され、今度は四人コーラスの演奏が始まる。