潮崎一馬
あの、サーフボードを抱えて、佑夏と一緒に写真に写ってた男の話を聞かなくては。
「佑夏ちゃん、モンバサには、サーフィンの写真の男の人と二人だけで行ったの?」
「?ううん。スタッフの人達と、全部で五人で行ったんだけど、どうして?」
「い、いや。そうだったんだ。」
あ~、良かった......。
「モンバサのビーチ、ラクダが歩いてるのよ~!ビックリしたわ!白い砂浜で、猿もいて、とっても綺麗だった~!」
「あ、そう....。」
それで、あの男の人は....?と言いかける前に、佑夏が先に口を開く、
「ルオーの代表の女性に、”教採ダメだったら、ナイロビに来なよ!”って言われちゃった!
バベラの子供達、すごく可愛いし、どーしよーかなー?アハハ!」
え!?佑夏ちゃん、海外に行ってしまうのか!?
「でもさ、衛生面はどうなの?日本人にはキツイんじゃない?」
僕は、ちょっとムキになる。
「ん~、丸っ切り、氣にならないって言えば嘘になるけど、私、割りと、住めば都な方だから。ふふ。」
そうだろうな、優しい彼女らしい。
だが、ここは引き止めねば!
「幸福論の、”若い内に海外は、身を滅ぼす”、の法則だってあるだろ?」
「あ~、そうなの。それで、ちょっと氣になったのよ。
私にサーフィン教えてくれたスタッフの人、潮崎一馬さんっていうんだけど......。あの、写真の人ね。」
何と!姫の方から、彼について話してくれる。
「うん、うん。あの人がどうしたの?」
これは、身を乗り出すなという方が無理だ。
「一馬さん、亡くなったお父さんの、形見のサーフボードを持って、世界中のビーチ、サーフィンして歩いてるのよ。
今は、ルオーのスタッフに落ち着いて、スラムの子供達に勉強教えてるんだけど。」
「ええ!?そりゃ、凄いね!」
てゆうか、「一馬」さん?会ったばかりで、もう名前呼びなのか?
僕のことは、ずっと名字呼びなのに。
せめて「仁助くん」と、呼んでくれないかな?
「幸福論にね、若い内に、人生に成功してしまうと早く亡くなっちゃう、っていうお話もあるんだけど、やっぱり一馬さんも、”やりたくない仕事をして長生きするより、好きなことして早く死んだ方がいい”って言ってて。
ヒルティの死の法則そのままで、とっても氣になったのよ。
でも、私、どーすることもできないし。何とかしてあげたいんだけど......。」
「成功?(ルオーのスタッフ程度で?とは言えないが)そんなに成功してる人なの?」
そうだ、早く死.....、いや、氣を付けて下さいね、潮崎さん。
それにしても、リスクのある男だからといって、切り捨てるのではなく、氣遣うあたりが、いかにも心優しい彼女らしい。