アフリカの大地から
ナイロビの、ジョモ・ケニヤッタ空港に到着した佑夏は、早速、僕や翠達にLINEで、現地レポしてくれる。
今や、地球の裏側から、ワンタッチで動画さえ送れるのだから、楽しいというか、凄いというか。
心配された飛行機の恐怖は大したことはなかったようで、いつもの明るい彼女である。
とはいっても、空港は、ほぼ素通りに近く、すぐにルオースクールに直行している。
「ルオー」とはケニア語で「強い」を現わす形容詞なのだそうだ。
この施設に到着して撮影した画像、現地スラムの子供達と一緒に笑っている彼女の笑顔は最高だな。
褐色の肌のケニア人の中に入って、姫の白く煌めく絹のような肌は、ひと際、目を引く。
いや~、こうして見ると、本当に綺麗な肌だ、見慣れてしまって、最近は氣付かなかったじゃないか。
ここアフリカの大地でも、佑夏の髪の白い貝殻は、光輝いている。
数人の日本人スタッフの中に、代表とおぼしき、50代に見える女性の姿が。
この人がナイロビ在住歴32年、長崎県出身だという小川千秋さんに違いない。
小川さんの笑顔も、何というか、いい顔だよな~。
自立した人間、自分の為でなく、他者の為に貧しい人々と苦労を共にして来た人間は、老境に差し掛かると、こんな曇りの無い、爽やかな顔で笑えるものなのか。
佑夏も晩年になれば、こういう表情になるのだろうか?ピッタリだ!
さらに、彼女は、ルオースクール内だけでなく、バベラスラムの中も、かなり歩き回っている。
こんな治安の悪そうな所、動き回って大丈夫だろうか?何しろ、あの美貌だ、襲われたりしないか?
僕の胸に不安がよぎる。
まあ、現地経験豊富な、小川さんら、ルオーのスタッフが一緒だ、ここは信じるしかない。
バベラは、トイレの汲み取りもロクに来なくて、大変な悪臭がするはずだが、送信されてくる佑夏の笑顔からは、そんなことは、微塵も感じられないのは何故?
いったん、ルオースクールを後にした佑夏は、個人でサファリのロッジに出掛けて行く。
「運よく見れました~!やった~!」
と、ライオンや、キリン、シマウマに、アフリカゾウの画像が次々に送られてくる。
サファリの地平線に沈む夕陽、赤く染まるキリマンジャロ山は見事。
スラムの人達には悪いが、僕がケニアに行くなら、こっちだけにしたい。
が、最も僕の目を引いたのは、その次に送られてきた映像である。
佑夏が、サファリから再び、ルオースクールに戻った後の物のようだ。
「東部港町、ラハ~!(楽しいって意味だよ~ん♪)ルオーのスタッフの方に、人生初サーフィンに連れてってもらいました~!最高で~す!」
というメッセと共に、サーフィンのウエットスーツに身を包んだ彼女が写っている。
そこまではいい。
問題は、その隣に、微笑んで立っている東洋人の男性だ。
中国人でも、韓国人でもなく、一目で日本人と分かる。
強靭な意志、深い知性、穏やかな博愛心を感じさせる目。
「おい、ぽん太、これって?」
(ああ、間違いねえ。コイツだ!オレの言った”波に乗った男”だよ!)
僕が、潮崎一馬の姿を見たのは、この時が初めてである。