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幸せの富士山

ヤマネが空を飛ぶ!こりゃ、驚いた!


 動物写真家、東山大悟氏を中心に、霧ヶ峰の夜は更けていく。


「それで、この山小屋のご主人なんですが、東山(わたし)が若い頃、ここで働いていた頃は、富士山の頂上の観測隊をやっておられましてね。」


「それで、今度は南極ですか?えらい冒険心のある人ですなぁ。」


 ルミ子さんが笑い、何やら観念したように、このご主人の妻である、宿の女将さんが、観測隊について話してくれる。


「富士山の頂上は、時折、地上とは比べ物にならない強風が吹くんです。

 人間なんか数十メートル、簡単に吹っ飛ばされてしまいます。


 隊員の交代の時に、今まで、たくさんの人が亡くなってるんですが、主人は止めても無駄でした。」


「風がある時の交代は、ほふく前進で行くんですよね?それも命がけです。

 動けなくなって、そのまま、ということもありますからね。」


 東山さんが付け加えると、佑夏はひどく驚いて


「風のある日は止めて、風の無い日に交代しちゃダメなんですか?」


 女将さんは、手を左右に振り、


「規定で、交代予定日には、どんな悪天候でも、絶対に交代しなくてはならないんです。」


 これを聞いた小林さんは、不満を隠さない。


「大変な、お役所体質ですね。隊員の安全を最優先にすべきです。」


「ホンマや、信じられへんわ~。」


 やっぱり、優しい理夢ちゃんが、泣きそうな顔になってしまい、僕達も頷く。そりゃね~。


 ふいに、水野さんが、


「あの、先生、霧ヶ峰(ここ)から撮った、富士山の写真は、お持ちではないですか?」


「ありますよ。ご覧になりますか?」


 東山さんは、スマホを取り出す。


 そこに映し出される富士山の画像は、まさに絶景!

 たまに、撮りに来るのではなく、やはり、定住している地元民でなくては撮れないような、見事な作品ばかりだ。


「これ、凄いですね~!」


 僕はつい。声を上げてしまったが、特に素晴らしいのは、帽子のような大きな雲を被った富士山の画像だ。


「あ~!富士山が帽子、被ってる~!」


 佑夏達が、同時に声を立てて、大騒ぎだ。


「それは、笠雲と言いましてね。出現する条件があって、なかなか撮れないんですよ。」


 これ、ちょっと、実際に見てみたいな。


「ぜひ、また、今度は主人のいる内に来て下さい。来年、南極から帰って来ますから。

 主人はお客様と、お話するのが、大好きなんです。」


「す、すいません。ご主人様に、ウチの保護猫カフェに講演に来ていただくことは、できませんか?」


「あ~!ありがとうございます。あの人、喜ぶと思います!」


 山田さんの申し出に、快諾する女将さん。

 繋がる人の縁。


 僕も、来年、今度は南極帰りのご主人のいる時に、またここに戻って来たい。


 南極の話と、笠雲を被った富士山は楽しみだ。


 だが、多分、佑夏はもういない。僕一人で来ることになるだろう。


 きっと、明日の合格発表の後、彼女は僕に告げる。


 潮崎一馬の元に去る、と。



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