幸せの神曲
佑夏は、ちょっと視線を落としながら、
「それとね、カンボジアだと、マフィアみたいな組織が、孤児院の子供達を見世物にして、お金を稼ぐ、裏の黒~いビジネスもあるみたいなのよ。」
「あ~!そうか!ありそうな話だね。」
「そーなの。私が行きたいのは、ナイロビの、バベラスラムにある、ルオースクールっていうんだけど、ここの子供達は、貧しくても、親のいる子供達だから。孤児も多いんだけどね。
経営は、日本人の女性で、透明だし、本当に現地の人達の為にやってて、安心なのよ。」
「うん。ケニアがいいよ。」
しかし、孤児を食い物にするとは、許せんやつらだ。
「中原くん、これ、見て~♪」
あ!僕は思わず、プッと吹き出してしまう。
話しながら、何をしているのかと思えば、佑夏は余った蜜柑でカタツムリを作っていた。
実の部分を甲羅、皮で身体が作ってあり、顔が書いてある、この顔がまた、爆笑してしまいそうなくらい、可愛い!
「佑夏ちゃん、真面目な話してる時に、ふざけないでよ!」
笑いをこらえながら、僕は体裁を繕う。
「だって中原くん、ダンテの新曲の地獄篇みたいな顔して、怖いんだも~ん!アハハ!」
(中原仁助・注釈)
14世紀にかけて活躍したイタリアの詩人ダンテによる「神曲」は、イタリア文学最大の古典とされる長編叙事詩である。
三部構成の一つが地獄篇。
多くの画家が、神曲を元に地獄の絵画を描いているが、どれも、メチャクチャ怖い。
僕は知らない内に、姫によって魔界の住人にされていたのか。
「ねえ、中原くんは卒業したら、馬のお仕事するんでしょ?」
「ん~、まあ、そうなんだけどね。」
実は、このところ、須藤に、「大企業のサラリーマンか、公務員になるべきだ、そうでなきゃ、佑夏ちゃんと結ばれることも無い」と猛プッシュされている。
「俺、自分が貧しかったからさ。
会員制の高い乗馬クラブじゃなくて、裕福じゃない子供や、歳取った人達でも、気軽に出かけられて、みんな笑顔になれるような、そんな居場所を作りたいんだよ。
出来れば、山の自然の方でね。
乗馬技術より、ホースセラピーとか、馬の癒し中心でやってる所も、たまにあるからね。
馬のいる自然学校もあるんだよ、そういう所に勤めたいんだ。
自然学校の就職は教員免許があると有利だから、俺も取ることにしたんだ。
あ、佑夏ちゃんの影響もあるよ、あんまり熱心に頑張ってるからさ。」
「素敵ね~!私の影響?アハハ!ありがとうございま~す!
でも、中原くんだって、すごく小さい子に優しくて、面倒見いいよね。」
ほら、須藤、彼女は同意してくれるぞ。
これが、「大手の○○社に勤めたい」だったら、こうは行くか?