幸せのコタツ蜜柑
バレンタインも過ぎ、春の足音が聞こえて来る。
蜜柑の季節は、そろそろ終わりだが、今日、佑夏が持って来てくれた、売れ残りの訳あり品だという蜜柑はムチャクチャ美味い!
二人でこたつに入って頬張っており、佑夏の膝の上には例によって、デブで寄目な巨大猫がいる。
「デブ猫や 蜜柑の香り 嗅ぐ氣無し」
と、一句詠んでしまいたくなるくらい、ぽん太は蜜柑に興味を示さず、やり過ぎじゃないか?と思えるほど、姫に身体をすり付けて甘えている。
「佑夏ちゃん、この蜜柑、マジで美味いな!売れ残りなんて思えない。皮は少し汚いけど、むいてしまえば、関係無いね。」
すると、自ら蜜柑をパクパク食べながら、姫は返事をしてくれる。
皮は見た目こそ良くないが、口に入れても安全で、捨てずに料理に使うのだそうだ。
「でしょ?農薬も、木酢液とか、ちょっとしか使ってないの。だから、見た目は悪くなるけど、美味しいし、普通の蜜柑より、長持ちするのよ。
それでね、ここの農園主さん、若い頃、青年海外協力隊でケニアに行ってて、今でも現地との交流が続いててね。」
「アフリカ?ロマンがあるね。俺も行ってみたいよ。野生動物、好きだしさ。」
「あ、中原くん。冷蔵庫にチーズあったら、貰えない?」
黄金の左手を駆使し、佑夏は蜜柑の皮とチーズを刻んで、サラダを作ってくれる。
これがまた、美味い!
二人でサラダを食べながら、僕は佑夏に驚かされる。
「私ね、今年、ケニアに行ってみようと思ってるの。」
「ええ!?ホントに!?何しに行くの?」
「長崎県出身のね、日本人の女性の人が、ナイロビのスラムで暮らす人達の為に学校を作ったのよ。
もう、20年以上、続いてるわ。
私、前から行ってみたかったの。」
(おい、ジンスケ。今、ケニアと言ったな?オレの予知では、そっから”波に乗った男”がやって来そうだ。)
(分かった。今、邪魔するな。)
(へえへえ、せいぜい美女と、束の間の幸せを楽しんで下さいませ。ご主人様。)
まったく、ぽん太は余計なことを!
「でも、佑夏ちゃん。前はカンボジアの孤児院に行きたいって言ってなかった?」
「親のいない子供達との接触は、一回だけで終わらせちゃダメなのよ、子供は寂しがって、発達に良くない影響があるの。
中原くん、若葉寮のボランティア、いつも手伝ってくれて、ありがとう。」
「い、いや、俺も楽しんでるから。今じゃ子供達にこっちが遊んでもらってる氣分だよ。」
今でも、児童養護施設のボランティア活動には、最低でも月一回は、僕達は通っている。