幸せのロックスター
「面白い授業を心掛けて、子供達の興味をどうやって引き出すか、にとっても心をくだいてたのね。
生徒から、教えられることも、多かったんだって。これ、私、すごく良く分かるわ。」
「参考になった?」
「うん!とっても!ステージでも、サービス精神、出てたよね。また行きたいな!」
「佑夏ちゃん........。」
「なに?」
「あ、いや。この人さ、社会派のアーティストで、色んな社会活動してるんだよね。」
違う。
言いたいのは、こんなことじゃない、自分と結ばれて、二人で一生、彼のコンサートに通わないか?
来日公演だけじゃもったいない、この人の自国、イギリスまで、一緒に出かけようよ、というのが本音なんだけど、いくら何でもね。
「そうなのよ!このロンドンでやった、チャリティーコンサートのお話、いいな~!
入場料はおもちゃで、集まったおもちゃは、施設に寄付したのね、素敵~!」
「ああ、そうだね。
日本のアーティストで、そういう話、あまり聞かないね。」
「アハハ、何でだろうね?でも、だからかな~?この人の音楽は、何ていうか、深みっていうのかな?
大きな感動がすごく、伝わってきたわ。スケールが地球規模なんだね。」
(おい、ジンスケ。外国の奴らより、日本はずっとお互いに助け合って生きてきた国なんだ。
儲けは全部、自分のモノにしないで、社会の施しに回してたんだよ。
真白様のお父上は、そういう方だったぜ。
今みたいに、何でも”慈善事業じゃない”の一言で片づけて、誰も何も感じなくなっちまったのは、つい最近のことなんだよ。)
(そうだろうな、ぽん太。俺だって日本武術の先生やってるんだ。そのくらい分かる。)
「ねえねえ、中原くん。この人、生まれはとっても貧乏だったのね。
お金が全然無い状態で、ロンドンに出て来て、成功できたのは20代後半で、丁度いい時期だったのよ。」
ん?何のことだ?分からないな。
ヒルティの”早死の法則”について、彼女から聞くのはまだ少し先だ。
僕の表情を氣に止めず、「熱弁」を振るう佑夏。
「成功できても、”これまで貧しくて、二度とお金に困るような目には遭いたくない。しかし、だからといって自分が変わってしまうつもりも無い。
お金は人をダメにする、堕落が始まるのはこういう時だ”って。
自分を戒めてるのが偉いよね。」
「プロデビューしたばっかりの頃、バンドがまるで売れなくて、アメリカで初めてツアーやった時は、客が四人しかいなかったこともあったらしいよ。
安いモーテルに泊まって、男三人で一つのベッドに寝たんだってね。」
「ああ、それも書いてあったわ。そんなこともいい経験になってるのね。」