深まる夜
「若くして成功した人間は早く死ぬ可能性が高い」。
確かに、言われてみれば、有名人であまり若い内から成功できた人は、長生きしていない人が多いような氣がする。
しかし、ヒルティがそう言うだけであり、あくまでも早く死ぬ可能性が、普通の人より、やや高いという話に過ぎず、絶対に早死にすると決まった訳でもない。
女性の立場から、男性を選ぶ場合、多少早く死んでもいいから、いい男と結ばれたいというなら、これはデメリットにさえならないだろう。
だが、これは、幸福論を熟読している佑夏だからこそ、ウイークポイントとして認識できるのであり、一般女性なら、氣にも留めないと思う。
姫のすごい所は、この危険性を知りつつも、潮崎氏を選んだ(?)ことだ。
他の女性なら、目先と自分のことだけ考え、「いい男とくっつけたのに、すぐ死んだ~!」みたいな勝手なことを言って、泣きわめきそうだ。
その点、佑夏は、いい男だからといって潮崎氏に飛びついたのではない。
危険を抱えている彼を、サポートしてあげたいから一緒にいたいという、心優しい女性である。
むしろ、利己的なのは僕自身の方だ。
僕が、こんなことを考えている内に、みんな思い思いに東山先生に質問している。
佑夏はやはり、子供を自然観察会に引率する際の注意点、楽しませる方法など、掘り下げて聞いており、吉岡親子は、今の奥さんとの出会いとなり染め、現在の夫婦生活についてなどの恋バナなど。
山田さんは「盗掘などしない」と前置きした上で、保護猫カフェの店内や庭に植える、オススメの植物を。
水野さんが「写真集発売後に撮影した未発表の作品が見たい」というもので、東山さんは特別にスマホで見せてくれて、僕達はその素晴らしさに歓声を上げる。
小林さん。
国の環境保護対策など、恐ろしく難しい質問をするもので、こういう問題には詳しいはずの僕でも全くついていけない。
そして、再び、ヤマネの話に戻っていく。
「ヤマネはね、木の枝から枝へ飛び移るのが、すごく早くて素早いんです。
トンボを捕まえると目が三角になりましてね、また美味しそうに食べるんですよ。
時折、地表に降りてきて餌を探すこともありますけどね。」
今頃、昼間、僕達が訪れた森では、彼らが飛び回って、元氣に活動しているに違いない。
冬は近い、頑張れ!ヤマネ!
東山さんは言っていた、冬眠中に体力を使い果たし、死んでしまうヤマネが近年、増えていると。
今の内に、どんどん餌を食べて、栄養を蓄えて欲しい。
そして、佑夏の教員採用試験の合格発表も、刻一刻と近づいている。