小さな命
「ヤマネの写真集が当ってくれまして、東山の名前も、少しずつ知られてくるようになると、ヤマネの保護を依頼する電話が入るようになったんです。」
暖かいランプと、ロウソクの光は、僕達を照らしている。
「ネズミ捕りにかかって命を落とすヤマネがいるんですよ。
籠になっていて、生かして捕らえることのできるタイプならいいんですが、強い粘着剤のネズミ捕りがあります。
これにかかると、もう助かりません。
ヤマネだけでなく、リスやモモンガがこれにかかり、死んでいってます。」
「国から使用規制は無いんですか?」
小林さんの問いに、東山さんは、首を横に振る。
「東山に、知らない女性の方からの電話で、”粘着剤のネズミ捕りにヤマネがかかった、まだ生きている。助けられませんか?”という連絡があったんです。
そうなると、絶対にはがせないことを、知っていましたので、”もう助かりません”と答えました。」
シ~ンと、場が静まり返ってしまう。
少し、間を置いて、佑夏が、普段通りの優し氣な声を響かせる。
おかげで、僕達は、やや氣が楽に。
「でも、わざわざ、電話をくれたんですから、その人、お優しい方ですね。」
「はい、そうでしたよ。しばらくしてから、涙声で、助からなかった、と。また電話くれたんです。
東山は、”今度は、生き物の命を奪わないようなやり方を考えましょうね”と言っておきました。」
「ネズミかて、自然の中では役割があるんですよね?」
理夢ちゃん、すごく悲しそうだ。まだ、佑夏のようには、上手く自分の感情をコントロールできないように見える、そりゃそうだな。まだ、高校二年生。
東山さんは、自分の生徒を諭す教師のように、この子を宥める。
「もちろんです。ネズミがいなくなれば、分解されない有機質が増えて、ネズミを餌にしている狐や鷹だって減ります。
どんな手段でもいいから、駆除すればいい、というのではなく、入ってくる隙間がないか調べたり、危険の無い捕らえ方をして、放してあげることが大切ですね。」
あれ、僕も、自分の体験を述べたくなってしまう。
「俺の世話になってる乗馬クラブでは、ネズミ対策を全くしていないんです。
猫がいるから、寄ってこないみたいで。
牧場や、他の乗馬クラブでは、毒餌を使う所もあるらしいんですが。」
動物のいる場所で毒~!?みたいな、皆さんの反応。
小林さんも負けじと語る。
「超音波のネズミ除けも簡単に入手できますね。命を奪うことなく、効果は絶大です。」
「なんか、ネズミの応援会みたいに、なってきましたなぁ。」
ルミ子さんがそう言うと、やっと僕達は笑顔に。
東山さんの話によれば.......。
なんと、保育園で保護されたヤマネがいたそうだ。それも、巣立ちしたばかりの仔ヤマネ。
東山さんに電話が来て、行ってみると、園児のお昼寝用の布団の中にいたらしい。
そのヤマネはいったん保護され、東山さんと、県の林務課の相談の上、森に帰された。
当時の園児達は、今、小学校五、六年生くらいになっているそうだが、みんな、その仔ヤマネを覚えていて、こう言うのだと。
「とっても、可愛かった~!」