ぶら下がりヤマネ
ヤマネは、その鉤爪で、かなり細い木の枝にも、逆さま、つまり仰向けにぶら下がることができる。
これは、野ネズミは勿論できないし、逆さまにぶら下がるのは、リスにも無理なんじゃないか?
東山さんの写真集には、枝にぶら下がっているヤマネの写真が、かなりの数、出て来る。
「木の枝に仰向けにぶら下がって、蜂の幼虫を食べてるヤマネの写真、蜂さんは可哀想やけど、えらい美しい思います。」
「そうですね、あの写真は、大変、お見事でした。」
理夢ちゃん、小林さんが、続けて感想を述べる。うん、あれは、思わず、うなって感心するくらい、良く撮れている。
「あのヤマネはね、仰向けのまま、ジーッと枝先の蜂の巣を睨んで、10分くらい動かなかったんです。
蜂の巣を襲う!と私は分かったから、ズームレンズ越しにこちらもずっと見てました。
なかなか動かないもので、カメラを持つ手が疲れて、早くやってくれ!と念じましたよ、ハハハ!」
「諦めようとは、思わなかったんですか?」
東山さんに、僕は、聞いてみると
「心は折れそうになりましたが、頑張ったんです。
そのかい、ありましてね、巣に飛びかかってからはあっという間でした。
一瞬で蜂の成虫は、みんな前足で叩き落としてしまったんです。
その後は、また美味しそうに食べるんですよ。トンボを捕らえた時なんかも、目が三角になりますね。」
「蜂に刺されるかと思って、決心をつけるまで、時間がかかったんでしょうね、フフフ。」
水野さんの言う通りだと思う。
「東山先生、ヤマネさんは、リスさんみたいに、こんな風に、ほっぺたを膨らませて食べないんですか?」
佑夏が、両頬をプゥー!っとまん丸に膨らませ、両手を握って口の前ですり合わせ、リスのマネをする。
この「ヘンな顔」がまた、過去最高と言っていい爆笑物だ!
「白沢先生、どうやったら、そないな顔、出来るんですか?」
理夢ちゃんが、お腹を抱え、笑いを堪えながら、どうにか一言、絞り出し、爆笑の渦が収まらない中、東山さんも笑って
「ヤマネには、リスのような頬袋がありませんからね、そんな顔はできませんよ。
それにしても、お上手ですね。」
そして、ヤマネの話は続く。
この小動物の撮影には、大変な苦労が伴う、これは分かっていたことだ。
東山さんが言うには沢沿いで、撮影中に、岩場で転倒してしまったことがあるという。
「あの時はね、カメラを持っていた右手を無意識に高く上げて、カメラの破損だけは免れました。
全身打撲と擦り傷だらけになってしまって、打ち所が悪かったら、危なかったですね。」
確かに、岩に頭でもぶつけたら、命の危険さえあったんじゃないか?
「帰って来ていただいて、おおきに。おかげさまで、うちらは、ヤマネの本、見られるんですなぁ。」
ルミ子さんがにこやかに、お礼を言う。