幸せの自然観察
「自然の体験はね、その時、その場所でしかできないことをするので、とてもやりがいのある仕事です。」
それは、東山さんの言う通りだろうな。
「目では、季節の風景や花や木の葉の色を見て、鼻では匂いを嗅ぐ、動物は種類によって、匂いが違いますし、香水のような、いい匂いのする植物も多いです。
口では、山菜や木の実を食べてみて味わい、鳥の声、風の音を聞いて、樹木や草にも、実際に触ってみます。」
「それ、どんな高性能のハイビジョンの画像でも、体験できませんね。」
あ、なんか口から出てしまった。
「そうですよ、中原さん。実体験は脳にも、いい刺激を与えているでしょうね。
そうそう、霧ヶ峰は、黒曜石が採れるんですよ。」
「黒曜石?」
既に知っていたらしい、小林さんと、添乗員と、女将さん以外のメンバーが声を合わせる。
「はい。観察会で、縄文時代に作られた、霧ヶ峰で採れた黒曜石の矢じりを、子供達に見せたことがあるんです。
そしたら子供達は、その後、私の話も聞かず、ずっと三時間、黒曜石探しをしてましたよ、何も言いませんでしたが。」
爆笑する僕達。
「うちも、黒曜石、探しとおす。」
理夢ちゃん、やはりまだ、子供のような幼さが残る。
「明日、好きなだけやれ。下ばっかり見とって、こけなや。それで、東山先生、その子供達は黒曜石は見つけたんですか?」
ルミ子さんが氣になる質問をする。
「はい、一人、黒曜石のかけらを見つけた子がいました。最高の笑顔でしたね。
親御さんも、あんな笑顔は、今まで見たことなかったそうです。」
佑夏が、髪の白い貝殻にそっと手をあて、クスクス笑いながら、
「アニメの”飛翔石”みたいに、秘密のアイテムに思えるんでしょうね。
その氣持ち、分かるな~、宝探しの体験会も、楽しそうですね。」
「はい、そうですよ、体験は大事です。
よくね、小学校で子供達が作ったとされる、米作り、味噌作りの体験学習があるんですけど、実際は親が管理してたりね、あれは、ちょっとおかしいですね。
なんでも、自分達でやってみて、失敗から学ぶ姿勢が重要ですね。」
東山さんはさらに、
「三月になると、残雪や氷が、とても不思議な形を作るんです。
早春の自然観察会は、子供達に、その氷雪の造形を探してもらいます。ほら、これは私が撮ったものですよ。」
テーブルに出された彼のスマホを、僕達は身を乗り出して覗きこむと.....。
「わー!」
「すごーい!」
「信じられないー!」
といった歓声が上がる。
自然にできたとは思えない、本物の動物や鳥にソックリな氷の造形なのである。