表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/280

幸せのツキノワグマ

ここで、地元の長野県在住で、ヤマネ施設の職員でもある小林幸枝(こばやしゆきえ)さんが口を開く。


「先生、近年、熊の出没例が多発しているのは、山が杉などの人口林ばかりになり、熊の食物となるドングリや、木の実を実らせる広葉樹林が、伐採され続けているからだと思いますが?」


 この問いに東山さんも表情を曇らせる。


「全く、その通りです。

 杉など、人口の針葉樹林には生物は棲めません。飢えた熊が人里に現れるようになり、全国で捕殺による駆除が行われているんです。」


 すごく悲しそうな表情だ。

 この人、本当に野生動物を愛しているんだな。


 東山さんの熊の説明は続く。


「熊は、植物食に近い雑食で、あまり他の動物を捕らえて食べたりしません。

 そのせいで逆に、食物連鎖に不要なら、人間にとって危険な熊は殺してしまえ、という声が後を絶たないんです。」


 なんてことだ。


 主に植物を食べてることが仇になってるのか?


 この理論だと、ライオンや虎など、完全な肉食獣は生態系に必要だから、保護されるということになるじゃないか。

 彼らはツキノワグマ、いやヒグマより遥かに危険だ。

 保護の対象、殺してもいい命、人間がそんなこと決めていいハズはない。


 東山さんは僕達に訴える。


「ですが、熊は食物連鎖に関係ない、なんてことはありません。

 人間にとって、熊以上に危険なスズメバチの巣を襲って、巣ごと丸ごと食べてしまいます。」


 京都の女子高生、吉岡理夢(よしおかりむ)ちゃんが目を丸くして聞く。


「熊さんは、ハチに刺されても、平気なんですか?」


 やっと笑顔になって東山さんは答える。


「熊の毛皮は分厚くて、スズメバチの毒針を通さないんです。熊はスズメバチの天敵なんですよ。

 もし、ツキノワグマがいなくなったら、スズメバチが大発生して、大変なことになってしまいますね。」


 無敵と思われるスズメバチに、とんだ天敵がいたものだな。


「それにね。森には、熊の大切な役目があるんです。」

 

 東山さんの言葉に、全員が固唾を吞んだ。


「森林には、下草や低木が生えていて、このままだと樹木が圧迫され、呼吸できなくて、みんな枯れてしまうんですよ。」

 

 そうなのか?僕も含め、全員が驚いている。


「熊が下草や低木を踏み固め、風通しを良くすることで、森の木々は生きていられるんです。」


 え~!という一同の反応。


 さらに、東山さんは告げる。


「皆さん、足元の落ち葉を一枚取って、透かして見て下さい。」


 全員が言われた通りにすると、東山さんは説明した。


「それもね、熊はデタラメに歩くんじゃないんです。

 木の葉っぱには、葉脈があるでしょう?この葉脈の形に、風が森に隅々まで通るように、踏み歩くんですよ。」


 驚きの反応が一層大きくなる。


「素敵·······♪」

 

 隣から、佑夏の声が聞こえる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ