乗馬天国
半径は10mもないトラック、ゆっくり一周した後、次の段階に移る。
「佑夏ちゃん、目を閉じてみて。」
「ん?は~い♪」
「そしてね、アリエルの動きを感じるんだ。馬も、佑夏ちゃんの考えてることを感じ取ろうとするから。
だんだん、二人の動きが一体化してくるんだよ。」
「分かりました~。」
しばし無言で、佑夏とアリエルは歩き続ける。
「どう、佑夏ちゃん?」
目を閉じたまま、微笑んで佑夏は答える
「うん!なんだか、蹄の先まで、アリエルちゃんの身体、感じるわ!フワフワ、天国にいるみたい、何だか不思議!」
「よし!もう、目を開けていいよ。サラブレットじゃね、こういう訓練は出来ないんだ。
それじゃ、外に出るよ。」
「やった~!アリエルちゃん、行こうね~!」
ゲートを開け、僕がアリエルを引いて、外乗コースに向けて歩きがてら、馬上の佑夏に解説をする。
「最初から、馬を強引に走らせたり、急に止まらせたりする練習ばかりしてると、初めの内は面白いんだけど、すぐ飽きるんだよ。
一見、地味に見えるけど、こういう、馬と一体化する訓練から入ると基礎ができて、後に繋がるんだ。」
「へぇ~、何だか深いお話ね~、アリエルちゃん~!」
「サラブレットは、外乗は出来ないからね。競争馬だから、グループで行くと、本能で他の馬より前に出ようとするし、ちょっとした物音や、狐や蛇みたいな生き物が横切ると、驚いてパニックを起こすんだよ。」
「そうか~、アリエルちゃんは蛇が怖くないんだね~!偉いな~!」
そういって、白馬のたてがみを撫でる彼女は、乗馬を楽しむ人、特有の「悪魔祓いから解放された人間」のような生き物への慈愛たっぷりの優しい笑顔になっている。
美女と白馬に笑顔、いや~、似合う!
「ここは、サラブレットもいるけどね。引退した競走馬を引き取ってるんだよ。
サラブレットじゃないと、競技会には出られないし、乗馬ライセンスも取れないからね。」
「中原くんはライセンス、持ってるの?」
「一番下の五級だけ。本当は、インストラクターの指導ができるのは三級からなんだけど。
サラブレットがいなくて、ポニー馬だけで、外乗中心の乗馬クラブだと、スタッフが誰もライセンス、持ってない所もあるね。
ここみたいに、サラブレットとポニーが半々いるクラブは珍しいんだよ。」
「そうなんだ、中原くん、いい所を見つけたんだね。」
「探し回った訳じゃないんだ。他のクラブで、疑問がある所を消していったら、ここに辿り着いた感じかな?
ここは、ポニーで外乗の時は、ハミも使わないからね。」
「ハミ?」
「馬の口に入れて、止める時に使う、金属の棒だよ。手綱の先に着けて、走ってる馬を止める時に思いっ切り引くんだ。
馬は、すごく痛いんだよ。」
「え~!?痛そ~!」
姫は、ひどくショックを受けたご様子だ。