幸せの白馬
「白沢さん、乗馬は初めて?」
ハンドルを握りながら、桜井さんが今度は佑夏に聞く。何となく、波長が合いそうな二人。
僕と佑夏は、並んで後部座席に座っている。
「はい、初めてです。
実家のすぐ側に乗馬クラブがあって、動物好きだし、すごく興味あったんですけど、中原さんに誘ってもらって嬉しかったです。」
「あ~、そうなんだ、良かったね。馬はいいよ!
あの、中原君、彼女いないって言ってたよね?付き合い始めたの、最近なの?」
「白沢さんは、俺の彼女じゃないですよ!大学のレポートの課題になるから、喜んでるんです!」
「なんだ、そうだったの?あんまり恋人オーラ全開だったから。え?大学のレポート?」
僕達を乗せた軽自動車が、山道を登って行く。
穂が落ちて、初雪を待つススキ野も、日本的な侘びさびを感じる。
「はい。私、県教大の学生なんです。
在学中に、出来るだけ多く、児童の就職先になる職場を見学して、レポートを作成しなきゃならなくて。
それも兼ねて来ました。とっても楽しみです!」
こう言われると、嬉しそうな桜井さん。
「そうなんだ?しっかり見ていってね!」
僕は一つ、聞きたいことがある。
「あの、桜井さん?今日は、アリエルにしてもらえるんですよね?」
「うん、そうよ。中原君のリクエスト通りね。」
桜井さんが答えると、佑夏も喜ぶ。
「アリエル?中原くん、この前、言ってた白い馬のこと?」
「そうだよ。◯◯坂48のプロモに出た、白い馬。
普通は、白馬と言っても、肌は黒くてね、そういう馬は葦毛って言うんだ。
だけど、アリエルは肌も白い、正真正銘の白馬なんだよ。全国でも珍しいね。」
「キャ~!素敵ね~!」
僕の説明に、手を叩く佑夏。
桜井さんも、もっと言いたくなったらしく
「白沢さん、アリエルは大人しくて綺麗な馬よ。もちろん、女の子ね。
ウェディングフォトって言ってね。結婚したカップルが、ウェディングの衣装着て、アリエルと一緒に写真撮るサービスやってるの。
結婚式の会場に出張もしてるわ。
リボン付けたり、おめかし大変だけどね。」
「佑夏ちゃん。アリエルは、サラブレッドよりずっと小さくて扱い易いから、初心者向きなんだよ。」
「へぇ~、早く会いたいな~!」
二人がかりで小さな白馬を推され、姫はすっかり胸踊り、桜井さんに質問する。
「アリエルっていう名前も素敵ですね、やっぱり天使の名前ですか?」
「!よく知ってるわね、その通りよ。」
そりゃ、「エル」ってくりゃ天使だろ、しかも、姫は博識であらせられる。
「佑夏ちゃん、天使アリエルはね、動物や植物、自然界と深い関わりがあって、動物保護や環境保護に関わる人をサポートするんだ。」
「ええー!?そうなの!?なんか、中原くんにピッタリね!」
佑夏が喜びの声を上げると同時に、軽ワゴンは、天馬アリエルの待つ、乗馬クラブに到着している。