霧ヶ峰の猫
「狐はね、何十年も、同じ巣穴を使うんです。
撮影の為に、私が何年か通い続けた狐の巣穴でね、こういうことがあったんですよ。」
東山さんの話を聞きながら、隣では、佑夏がリンゴを口に運んでいる。
相変わらず、食欲旺盛な姫。
「巣穴の側に、狐と一緒に、何か別の動物がいましてね。争っているようにも見えません。」
吉岡親子が、ジーッと耳を傾けている。
「ぴょんぴょん」にも、お稲荷様の話、出て来るな。
「ほふく前進で近付いて行ったら、逃げられました。
別の日に行ったら、またいるんです。よく見たら、猫でした。」
「猫ー!?」
全員が、驚きの声を上げる。
「はい。すっかり、狐と友達になってるんです。
それも、野良猫ではなく、私もよく知っている、山小屋で飼われている飼い猫でした。
その後も、度々、この二匹が一緒にいるところを目撃してます。」
質問者の山田さんも、眼鏡の奥の目を見開いている。
「誰も信じてくれないと思いましてね。人には話してなかったんですが、私だけじゃなく、色んな人が別々の場所で、その二匹が一緒にいるところを見てたんです。
すごく馴染んでて、付き合いも長いようですね、ハハハ!」
「きっかけは何だったんでしょうね?」
水野さんの疑問は当然だ。
「さあ?それは分かりませんね。あ、その猫ね、今でも元氣なんですよ。
飼われてる山小屋で、その猫に会うと、私は、いつも゛狐は元氣?“と話かけます。
答えはいつも、ニャ~!ですね。」
一同、大爆笑!
山田さんも、胸の支えが下りたのか、みんなと一緒に笑っている。
「それとね。他の山小屋で、飼われてる犬で、狸と仲良くなった犬がいましてね。
仲良しの狸が訪ねてくると、餌を分けてあげるんですよ。」
これまた、驚きの東山さんの体験談。
「私は、そういう、犬と猫の飼い主にまで、動物を飼うのは悪いことだと、言ったことはありません。
犬や猫は、人間達への、天からの贈り物でしょう。
すいません、山田さん、こんなので、答えになってるでしょうか?」
東山さんが、そう締めくくり、小林さんが付け足してくれる。
「猫が人間と暮らすようになって、既に一万年で、犬に至っては実に三万年です。
もう、お互いがパートナーという認識で、問題ないのではないでしょうか?」
山田さんも安心しているようだ。
「ありがとうございます。
さっき、東京の廃墟を緑地化してはどうか?という話がありまして、保護猫カフェも緑の綺麗な庭を作ったら、もっとお客さんも来てくれるんじゃないか、と思いました。」
うん、いいアイデアだね。
東山さんの総括。
「そうですね。ぜひ、霧ヶ峰の植生を参考にして、素敵なお庭を作って下さい。
八ヶ岳に、イギリス人のガーデナーの方が農薬を全く使わずに作っている庭園がありましてね、入場料は無料ですから、一度、ご覧になるといいでしょう。
ただ、天然の高山植物を盗掘して植えようなどと、考えてはいけませんよ。」