動物達の居場所
「ほら、今度は中原君の番よ。」
水野さんが、佑夏の両肩に置いていた手の片方を離し、僕の肩に触れる。
「は、はあ。」
婚約者なんだから、「佑夏」と、呼び捨てにしなくてはならないのか?
や、やるぞ!
「佑..........夏、.........ちゃん。ダメだ!やっぱり俺、呼び捨てにはできないよ!」
ドッと笑いが起きてしまう。
「はーい!分かりましたー!」
手人形の、ぽん太と楓がペコリと頭を下げる。
婚約者って、フリだけとはいえ、佑夏ちゃん、潮崎さんに悪くないの?
あ、こういうところが、遠慮してると言われるんだな。
水野さんが、椅子に座り直し、全員が席に着く。
「山田さん、私に何か、お話があるのではないですか?
日中から、何か、聞きたそうにしてましたね?」
ここから入る、東山さん。
「は、はい。私、葛飾の犬と猫の保護シェルターに勤めてるんですけど。」
山田さんの答えは驚きだ。
ええー!?何だか怪しい人だと思ってたのに、そんな所の職員だったのか?
「三宅知事が、動物の殺処分ゼロを打ち出してから、保健所の収容数が減って、全部、民間にしわ寄せが来てるんです。」
東山さんは無言で頷き、次を促す。
僕達も、山田さんの言葉を待つ。
うう~ん。人は見かけによらないな。佑夏の言う通りだよ。
「犬と猫の保護数がどんどん増えて、活動資金が、全然足りないんです。
物販や保護猫カフェをやって、資金を確保しようとしてますが、まるで追いつきません。」
あ、佑夏が掌を、僕の手の上に重ねてきた、ホントに婚約者みたいだけど、いいのかな~?
山田さんは下を向いてしまい、かすかに涙声になって
「私、もう、どうしていいか、分からなくて。
東山先生の本には、動物を捕まえて、飼ったりしないように、と書いてあります。
本来、人間はどんな生き物も、飼ってはいけないのか?
犬と猫と暮らすことも悪いことなのか?
そう、お伺いしたくて、霧ヶ峰に来たんです。
でも、保護してる犬と猫の人間を信頼しきった優しい目をみると、とても放ってはおけないんです。」
佑夏が僕の手に、黄金の左手を重ねたまま、微笑んで僕を見つめてくれる。
”ほら、山田さんは、心のあったかい人でしょう?”そう言いたいようだ。
さっき、星空の下で、姫はそう言った。
僕は、人を見る目も、佑夏に及ばなかったんだな。
聞き終えた、東山さんは軽く、返事をする。
「そうですか、分かりました。」
そして、少し考えた後に、
「もちろん、ヤマネや野ウサギなどの、野生動物を捕まえて飼うのは、絶対に許されないことです。
ただ、異種の動物同士が友達になるのは、見たことはありますよ。」