東京都から
参加メンバーで、ただ一人、日本の首都、東京から来ている、山田直美さん。
50代前半くらい、肥満体で眼鏡の奥の目は、言っては悪いが、何か不気味にギョロギョロしている。
ここまで、他の参加者と交わることもなく、ほぼ無言に近かったが..........。
佑夏を見つめて、
「私、体力も無いし、山登りなんか、したこともなくて。
昼間、歩けなくなった時、白沢さんに助けてもらって、本当に助かりました。」
「いーえー、そんな。私なんかで、すいません。かえって歩きにくく、なかったですか?アハハ!」
どこまでも、佑夏は明るく笑う。
そういえば、山田さんが体力尽きて歩けなくなってきた時、手を引いてあげたり、真っ先にサポートしたのは佑夏だった。
それを見て、他の女性達も、山田さんを背中から支えたり、手伝い始めたんだ。
再び、東山さんが穏やかに
「だからね、私は、明日の解散まで、お二人には婚約者でいて欲しいんです。
善良な人間の幸福の波動は、森の動物にも伝わって、彼らも喜ぶんですよ。
解散後は、また、お二人のご自由な関係に戻ればいいでしょう。」
「え~?でも。」
僕は、口ごもる。だって、佑夏に嫌って言われたら、ショックだよな。
が、ディーンフジオカ添乗員まで、またしても
「私からもお願いします。このツアーも盛り上がりそうです。」
うう、と!
目の前に、突如、三毛猫の楓が!?
「ジンスケさん!嫌なの!?」
一瞬、本物と間違えるくらい、よくできた佑夏の手人形!
いつの間にか、姫は、また両手に手製の手人形をして、絶妙な腹話術を展開しているのである。
今度は、手人形の、ぽん太の方が、
「おい、ジンスケ。まさか、イヤなんて言わねえだろうな?」
そう言って、おでこを、僕の顔に押し付けてくる。
佑夏ちゃん、嫌じゃないのか?だったら.......。
「あ、あの。皆さんさえ、嫌じゃなかったら、そうさせて下さい。」
僕がやっとの思いで、一言、絞りだすと、理夢ちゃんが胸の前で、パチン!と手を叩く。
「素敵ー!よろしおすなぁ!」
やっぱり、女子高生。仕草が可愛らしい。
すると、佑夏も。
「それじゃ~、こう呼んでいいのかな?仁助......さん♡」
「キャー!佑夏ちゃん!今の顔、すっごくカワイイわ!」
水野さんが、佑夏の肩に置いた手を前後に揺する。
ただでさえ美女である佑夏の絶品の表情、ハニートラップだったら、ボルボ14でもかかってしまいそうだ。
最早、僕の平常心など、どこかに吹き飛んでしまっている。
姫は、潮崎一馬氏のことはずっと「一馬さん」と名前呼びである。
しかし、僕のことは、ずっと苗字呼びで変わらなかった。
僕が敗北を悟っていた要因の一つが、今、ここで消えた。