ヤマネ姫にありがとう
僕と、佑夏が婚約者ー!?
な、な、な、何だ!?そりゃー!?
マンガのように驚愕する僕に、訳が分からず、キョトンとする佑夏。
対照的な二人の表情。
すると、小林さんがしっとり、ゆっくり、
「よく、いるではないですか。
ところ構わず密着して周囲に交際関係をひけらかして自慢し、あまつさえ、公共の場で、性的な姿態すら見せながら、他の人々に不快感を振り撒きながらも、意に介そうともしない、異常な感覚を持った男女が。
あなた方は、彼らとは明らかに違います。
お二人とも、我々、他の参加者に、大変、心配りしていただいておりました。
せっかくの霧ヶ峰です。
ご遠慮など辞めて、愛を育まれては、いかがでしょうか?」
「愛って、何ですかー!」
僕は、動転してしまう。
紅茶を盆に載せたスタッフを従え、ここで、女将さんが戻って来る。
ちょっと、助けて下さ~い。
だが、水野さんは、佑夏を僕に押し付けるように座らせ、後ろから、姫の両肩に手を置くと、僕達を見下ろして微笑む。
あ~、こういうとこ、何となく看護師さんだな~。
やっぱり、味方だ。
普段、患者の車椅子を押し慣れてる様子が、ありあり。
ナースが患者さんをいたわるような優しさで、水野さんが語ってくれる。
「ねえ、佑夏ちゃん?今日は、昼間、すごく私達を楽しませてくれたでしょ?
あなたがいなかったら、きっと、半分も楽しくなかったわ。
中原君も、虫を助けてあげるのはカッコよかったし、ゴミ袋まで持ってゴミ拾いしたり、道のぬかるんでる所に石引いて、女性を歩き易くしてくれて、ありがと。
だから、私達、応援してるのよ。」
ええ!?あのくらいで、お礼なんか言われるのか?僕は当然だと思っていたが。
佑夏のパフォーマンスが最高なのは、今さら驚くまでも無い。
理夢ちゃんも、手を挙げる。
「うちも、八島ヶ原湿原、白沢先生と歌うて歩けて、めっちゃ楽しかったです!」
母親のルミ子さんまで、娘に負けじと誉めてくれる。
「ホンマに、お二人は節度を守ってくれはるし、手分けして、うちらのサポートしてくれはるし、大助かりですえ。
呼んでもいーひんのに、わざわざ人のいる所に来て、ベタベタ、イチャイチャするアホなカップルとは、大違いです、あんなん自分らだけでやれ、言いとおす。」
参ったな、何だか居づらいよ。
そりゃ、確かに日中、僕は主に、東山さん、添乗員と男三人でいたし、佑夏は女性の人達と一緒で、イチャついたりなど、していなかった。
でも、それは、佑夏が好きなのは、僕じゃないから。
姫は、潮崎さんが好きだから。
しかし、当の佑夏本人は「アハハ!そーですか?」なんて言って、笑っている。
「波に乗った男」のことは、今、頭に無さそうだ。
トドメに、ディーンフジオカ添乗員までもが
「中原さん、白沢さん。私からもお礼を言わせていただきます。
お陰様で、一日目は大成功です。」
言うなら、佑夏一人に言ってくれ~!
だが、さらに
「白沢さん、昼間は、本当にありがとうございます。」
!!!!!?????
全員の目が、声を発した一人に注がれる。
夕食から、ここまで、ほとんど一声も出さなかった山田さんである。