幸せの婚約者
「ねえ?私がどーしたの?中原くん?」
佑夏が繰り返す。
理夢ちゃんへの、今日だけ家庭教師もようやく終了したのか。
すぐ後ろに、こちらの女子高生も続いている。
助かった、というべきか?
さすがに、本人を目の前にして、これ以上、突っ込んでくる人はいないだろう。
「い、いや。佑夏ちゃんは、東山先生のヤマネの話、すごく聞きたがってたから、もうそろそろ、来るだろう、って。」
ふぅ~、九死に一生!
「あら、そーだったの?遅くなりました、すいませ~ん!東山先生、よろしくお願いしま~す♪」
「はい。お待ちしてました。」
言葉を交わす、佑夏と東山さん。
いよいよ、お待ちかねのヤマネのお話だ。
やっと、変な恋バナから解放される。
もう~、勘弁してくれ!
「白沢先生、うちの娘、勝手を言いまして、ほんまにすんまへん。」
ルミ子さんが、立ち上がって、佑夏に歩み寄る。
「いーえー、私も楽しかったです!」
相変わらず、指導を楽しむ姫の横に、理夢ちゃんが出てきて、
「おかん、白沢先生の授業、まるで魔法や!スラスラ、おつむに入ってくるわ。おもろおして、なかなか止められへんかった。」
そりゃ、そうだろ。
世界中から、日本未発売の教授法についての文献を、原著で取り寄せて、色々と、教え方の研究をしている佑夏だ。
さらに、彼女本人の生徒へのサービス精神が、旺盛なんてもんじゃない。
楽しくないはずはないんだ。
理夢ちゃんの、あまりに、にこやかな笑顔に、ルミ子さんは色めきたち、
「何!?ホンマか!?白沢先生、これからも、オンラインでおたのもうします!」
「はーい!私で良かったら。」
佑夏、家庭教師の生徒さん、一人ゲット。
価格交渉を全くしてないが、佑夏の性格上、ぼったくりはあり得ないのは、吉岡親子も、分かっている。
いや~、
今や、オンラインで地球の裏側にだって教えられてしまう。
ドラえもんの秘密道具で、数少ない、本当に実用化されたものがビデオ通話。
紅茶を淹れ直して来ると言って、宿の女将さんが席を立ち、理夢ちゃんは、ルミ子さんの隣に座る。
んん?
みんな、氣を使って、僕の隣の席は、佑夏の為に空けておいてくれたが、姫が座ろうとすると........、
「佑夏ちゃん、ほら、もっと中原君にくっついて!」
水野さんが佑夏の椅子を引き、さらに僕に近付ける。
ぽか~ん、とする佑夏。
「あ、あの葵さん、何でしょう?」
オイオイ、止めてくれよ、姫に変なこと、吹き込まないでくれ!
しかし、僕の思惑を他所に、水野女史は止まらず、
「佑夏ちゃん、周りに遠慮し過ぎなのよ!もっと素直になって、中原君に甘えていいの!」
ナースのこの言葉に、僕と山田さんを除く全員が頷く中、主賓の東山さんが、まさかの爆弾発言をしてくる。
「中原さん、白沢さん、私から一つ、提案があります。」
は?
「今から、明日の解散まで、お二人は婚約者同士ということにしませんか?」
はぁ~!?あなた、動物写真家が何、言ってんですか?恋愛カウンセラーもやってんですか!?