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台風一過

苺奈子ちゃん、お風呂上がり、夕飯後。


 佑夏に、お手玉遊び、ぬり絵にお絵かき、と思う存分、甘えて、遊んでもらい、あとは寝るだけ。

 僕の出番は、ほとんど無い。 


 だが、この狭いあばら家。


 隣の部屋で寝ている佑夏達の声は丸聞こえである。


 佑夏と母に挟まれて、苺奈子ちゃんが真ん中に川の字で寝て、枕元にレオナがいるらしい。


 時折、レオナが、苺奈子ちゃんの顔をなめる音が聞こえて、苺奈子ちゃんがキャッキャッいって、喜んでいる。


「ゆーかねーちゃんのは~とのおと、とっくん、とっくん、きこえる~!」


「そーかー、ほら、モナちゃん!ギュー!」


 姫の声に続いて、苺奈子ちゃんの、また喜ぶ声。どうやら、幼児殿は、佑夏の胸に顔をうずめている。


(へえへえ、悪うござんしたね。隣じゃ綺麗な女が寝てて、子供の顔に、胸押し付けてんのに。

 こんな不細工で、デブな猫が一緒で、さぞや、嫌でしょうね。)


 ぽん太が僕に悪態をつく。


 たっくも~。


(誰も、そんなこと言ってないだろ、何、被害妄想してんだ?ラッセルか?お前は。)


 それに、楓だって一緒だ。


 外は、風雨が鳴り止まず、かなり大きな物が飛ばされていく音も聞こえる。


 苺奈子ちゃん、怖くないか?


 だが、佑夏が苺奈子ちゃんに歌って聞かせる子守唄が聞こえて来ると、違った世界のような明るさが満ちる。

 台風に対し、結界を張っているというより、暴風雨さえ伴奏にしているようだ。


(ジンスケ、これだよ。オレにも毎晩、歌ってくれたぜ。とにかく胸がいっぱいになっちまうんだな、この子の歌は。本当に心に染みるぜ、真白様より、ずっと上手えんだ。)


 ぽん太が、そう評する佑夏の歌声。

 最初は、童謡の、台風の歌を優しく歌ってあげていた。


 しかし、圧巻だったのは二曲目、「私は嵐」?これ、昭和の歌じゃないか?どこで覚えたんだ?

 しかも、ハードロックだ、佑夏ちゃん、こんな歌も歌えたのか。


 いや、だが、う、上手い!カッコいい!!!僕まで、手拍子したくなってしまう。

 いつもと雰囲気が違う、こんな佑夏も魅力的だ。


 サビの「わたしは、あーらーしー!」のところでは、苺奈子ちゃんも声を合わせて絶叫している。

 こうして、この夜は、台風どこ吹く風で、すっかり盛り上がったのである。


 苺奈子ちゃんなど、強風が吹く度に、怖がるどころか、笑っているくらいじゃないか。


 いや~最高だ!



 そして、一夜明け、前日の嵐は、朝には嘘のように収まり、鳥の声が聞こえる。


 今日の午前中、叔母は退院して来る。


 苺奈子ちゃんを、僕が病院まで送り届け、叔母と苺奈子ちゃんは、タクシーで帰宅する予定だが、佑夏も一緒に行ってくれるって?


 エエエ?


 午前中の講義は、何とかなるのだそうだ。


 苺奈子ちゃんを真ん中に、僕と佑夏が、苺奈子ちゃんの手を片方ずつ繋いで歩く。  


 すっかりほのぼのムード。


 時折、二人で呼吸を合わせて、苺奈子ちゃんを空中に持ち上げてあげると、

「もっとやって!もっとやって!」と喜ぶ様子。


 これ、周りから見たら、僕と佑夏の子供で、家族に見えるんだろうな。


 既に、退院手続きを済ませていた叔母は、苺奈子ちゃんが、見知らぬ女性に手を引かれて来たことにひどく驚いている。


 一日ぶりの母娘の再会!


 ば~ん!

「おかーさん!ゆーかねーちゃんに、もらったの!」


 猛ダッシュで、そんな伯母に飛び付き、「はじっコらいふ」のぬいぐるみを見せる苺奈子ちゃん。


 僕は、叔母に一部始終を説明する。


 何だか、胸が熱い、そりゃ佑夏のことだから、


 台風の中、以前、約束した手作りのぬいぐるみを、わざわざ届けに来てくれたこと、


 一緒に歌を歌い、ダンスをしたり、ぬり絵や、お絵描きや、お手玉で遊んでくれたこと、


 夜になっても、苺奈子ちゃんの為に帰らず、二人でお風呂に入り、子守唄を歌いながら、共に寝てくれたこと、


 大学の講義があるのに、ここまで苺奈子ちゃんを離さずに来てくれたこと、


 などなど全て。


 叔母はいたく感激し、佑夏に「ありがとうございます!ありがとうございます!」と、何度も何度も、頭を下げている。


 そーですよー、ハハハ!


 苺奈子ちゃんは、よほど楽しかったらしく、

「ゆーかねーちゃん、またきてねー!」と、ニコニコ顔だ。


「は~い!モナちゃん、またね~♪」


 佑夏は、手を振り、やっと僕と病院を後にする。


 本当に、ありがとう。


 叔母に抱かれた苺奈子ちゃんは、僕達の姿が見えなくなるまで、手を振り返していた。


 それにしても、佑夏はどうして、こんなにも子供に優しいのだろう?


 もちろん、持って生まれた性格もあるに決まっている、だが、あまりに凄すぎる。


 この時の僕は、まだ、その理由を知らずにいた。


 佑夏の髪の白い貝殻は、何かを囁くように煌めいている。


 ああ、綺麗だ、持ち主の姫に負けず劣らず。


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