女三人袋叩きの刑
そして、終いには、こういう話には、何の興味も無さそうな小林さんまでもが、
「白沢さんが、大変、お優しい方だというのは、既に私達にも分かっています。
お二人の極めて自然なご様子から、かなり、お付き合いも長いのでしょう。
しかし、中原さん。あなたの態度は、諦めの境地に達しているのです。」
え~!?
つくづく、女というのは、人の表情から内面を読む生き物だ。
男から見ると、まるで妖怪の一種である。
そして、水野さんが、たたみかけてくる。
「中原君、例えると、こんな感じなのよ。
本当は愛し合ってる、お姫様と召使いがいたとするでしょ?
お姫様は、隣の国の王子様に嫁ぐことになって、召使いに愛を告白するんだけど、召使いは身分の違いを氣にして、愛に答えようとしない。
君の態度、お姫様に氣を使ってる召使いみたいなの。」
武術家だというのに、さすがに僕はうろたえてしまう。
「ちょっと待って下さい、どうして、そんな話になるんですか?」
ルミ子さんが、いつになく真顔になり
「そら、氣になるに決まってますやん。
うちら三人と、理夢で言うとったんです。なんで、お互いに愛し合うてるのに、二人共、遠慮してるんやろう、と。
水野さんが今言うた、隣の国の王子、どないな人か知らしまへんけど、簡単に白沢さんを譲ってええんですか?」
「それは、その........。」
これは、言葉に詰まる。
このツアーの出発直前、佑夏と一緒に高速バスの待合室にいる間、99%敗北確定とはいえ、まだ微かに一縷の望みがあるんじゃないか?と思っていた。
しかし、さっき星空の下で、姫とキスまでいけなかったことで、もう素直に諦めようと思っているのである。
僕は東山さんと、ディーンフジオカ添乗員に助け舟を求める。
「ここは、東山さんにヤマネのお話を聞く所ですよね?もう、こんな話は辞めにして、先生のお話にしてもらえませんか?」
だが、添乗員の口から出たのは、絶望的な言葉である。
「いいえ、参加者の皆さん同士の懇談も、重要なツアーの一環です。どうぞ、続けて下さい。」
はぁ~?何、笑ってるんだよ?
トドメに東山さんまでもがニコニコして
「中原さん、私も、あなたと白沢さんのお話、聞きたいです。
ヤマネの話は、その後にしましょう。」
オイオイ!勘弁してくれよ!
主催者の「許可」を取ったルミ子さんが勢いづく。
「中原さん、もしかして、白沢さんの他にも、仲のええ女の人いはって、そっちにしよう思てまへんか?」
何ー!?何で千尋のことが分かるんだ!?
げに恐ろしき京女の勘なり。
「あ~!だからかな?佑夏ちゃんにも、中原君に遠慮してるところがあるのよ。
中原君!本当なの!?」
水野さんは詰問するが、そんな質問に答える義務あるか~!
だが、小林さんが、「締め」の攻撃を弛めない。
「中原さん、あなたと白沢さんは、お互いに強い恋愛感情を持っておられます。
しかるに、お二人共、双方に遠慮し、ここ霧ヶ峰を終焉の地にしようとされる意図さえ感じられるのです。
これは、一体、どういうことでしょうか?
私達に理解できるように、説明して下さい。」
だから何で、そんなこと、説明しなきゃならないんだって!?
しかし、もうここは一方通行だ。
仕方ない、言ってしまおう........
「し、白沢さんは..........」
俺じゃない、他の男の人が好きなんです、
僕が、そう言いかけると、
「私がどーしたの?中原くん?」
!!この美声が誰の物であるか、確かめるまでもない。
話題の渦中にある、美しいヤマネ姫が、僕の後ろに立っている。