霧ヶ峰でミラノを語る
水野さん、遥かヨーロッパまで病院の視察に行ってたのか?
つくづく、行動力のある人だな。全然、そんな風には見えないのにね。
しかし、僕に欠けているのは、これだ。
他の大学生はみんな、どんどん海外に出掛けて行って視野を広めているというのに。
貧乏学生の僕は、学費の支払いに手一杯で、未だに日本から出たことが無い。
だが、そんな僕の「海外コンプレックス」は去年、佑夏に払拭してもらっている。
だけど、今、それは別の話だろう。
ここで聞くべきなのは、水野さんの話じゃないか。
「ミラノでは、病院のすぐ近くに大きな公園があったんです。
すごく緑がいっぱいで、帰ってから調べたら、TDLが125個分もあるって。
入院患者さんも、病院の職員も癒されてました。」
リンゴを食べる手を止めて、ルミ子さん
「ニューヨークにも、セントラルパークがあって、リス住んでますなぁ。」
水野さんは頷く、
「はい、ミラノでは、自然に癒やされるスペースが数多くありました。
それなのに、日本は、住宅地はどこまで行っても住宅地で、ビル街は、どこまで行ってもビル街です。
あれでは、オフィス街で働く人達は、みんな心も身体も疲れてしまいます。」
小林さんは、一言、言いたくなったらしい。
「東山先生、これは国土計画、都市計画を国任せにしてはいけない、という問題ですね?」
言われた東山さんは苦笑している。
「そうですね。中々、難しいですが。」
「イタリアでは、電車で移動すると、窓から羊が草を食む風景が普通に見られました。
すっごく可愛かったです!」
水野さんは、ちょっと東山さんを見てから、笑顔で語る。
日本で、そんなのは北海道くらいか?
ここに来る特急あずさの車内で、佑夏に聞いた「特急列車の中ほど心地よいものは無い」という、アランの幸福論の一節が思い出される。
「逆に、日本のいい所も分かったんです。
イタリアより、ずっと治安がいいですし、国中、どこに行っても清潔で綺麗です。
客をもてなす精神が、とても丁寧で、煩わしいチップも必要ありません。」
水野さんの「西方見聞録」。すると、ますます街中に緑が無いのは、日本の惜しい点だ。
ちょっと、僕も東京について、
「ここに来る途中、車窓から見たんですが、東京の街中にずいぶん、廃ビルや廃墟が多いのに、驚きました。
俺の住んでる県では、東京より建物が少ないのを差し引いても、あんなに廃墟を見ないです。
ああいうのを、取り壊して、緑地化できないのかな?と思うんですけど。」