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幸せの葛藤

「金こそ全て」とする、須藤の主張は、分からなくはない。

 というより、その通りだろう。


 しかし、やはり、彼は佑夏という女性の本質を知らず、少しテレビの観すぎではないか?と思えることを口にする。


「佑夏ちゃんと結婚することになったら、どうすんだ?

 あんな可愛い子が、田舎のボロ屋なんかで納得するかよ!一緒に住んでくれないって!」


 姫は田舎の古民家フェチである。


「新卒でも、駅前の新築のタワマンじゃなかったら、絶対、怒るに決まってるぞ!」


 佑夏は、極度の高所恐怖症で、それを恥ずかしがっている。

 それにもまして、彼女の怒った顔など、見たことが無い。


「30代で、ネオタウン(市内一の高級住宅街)に新築の一戸建て持てなかったら、出て行かれるぞ!

 少なくても、大卒初任給の平均以上は必ずクリアしなきゃならないだろ!」


 給料のことは、確かに無視できないが、姫はまるっきり正反対なことを夢見ている。


「あのね、中原くん、県教大(ケンキョー)の先輩でね、女の人なんだけど、現役で教員採用試験(きょうさい)受かって、どんぐり村の小さな分校に赴任した人がいるの。うん?小学校よ。」


 今も昔も、新卒の若い教師でコネ無しだと、僻地に配属されることが多い。

 どんぐり村は、県内で最も人口の少ない自治体だ。


「その人、一年目は教員住宅に住んでたんだけど、二年目から、地元の人の紹介で、明治時代に建てられた古民家に引っ越したのよ。

 キッチンと、お風呂と、お手洗いは、今風に改装してあったわ。

 お部屋の中、とっても素敵だった♡」


 今でも時々、この人の家に、佑夏は足を運んでいる。


「その先輩ね、どんぐり村がすっかり、氣に入っちゃったの。風景も、暮らしも、お祭りも、みんな大好きだって。

 出身は県庁所在地(こっち)なのにね。

 それで、分校が廃校になって、転勤の話が出たら、教師辞めて、どんぐり村に残ることにしたのよ。」


 どんぐり村は、古くから藍染めが盛んだ。

「藍染め祭り」に、この先輩と一緒に行った佑夏は、すごく楽しかった!と喜んでいた。

 僕は、ネットでしか見たことはないが、確かに、あれは美しい。


「先輩、今度、分校の生徒のお父さんと結婚するの。奥さんは何年も前に病気で亡くなってて。

 生徒さんは男の子よ。ずっとお父さんと男の人、二人だけで暮らして来たから、先生がお母さんになってくれることになって、生徒さんも、大喜びしてるわ。

 いいお話よね~、小説か映画みたい!」


 佑夏は、美しい容姿を鼻にかけてなんかいない。

 須藤の言うような、テレビに出てくる都会の女性とは違う。


 現に、彼女はこうも言っている。


「どんぐり村には、もう学校は無いけど、私も、山や島の小さな分校で教師生活、送れたら、どんなにいいか、って、いつも思うの。

 悲しいお話だけど“二十四の瞳“、とかやっぱり好きで。

 教師じゃないD◯コトーにまで憧れちゃうわ。」




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