県会議員、さらに大暴れ!
下田氏の、武山さんへのセクハラが表面化してから、見るからにプライドの高そうな、この議員様を刺激しないように、僕はまず、全体に向かって注意した。
「最近、稽古中の私語や悪ふざけが目立ちます。稽古中は、合氣道に集中するようにして下さい。」
しかし、下田議員には、何の効果もなく、ますますエスカレートする一方だった。
とにかく、人のいい武山さんは、困惑しつつも、笑顔で下田氏の相手をする。
それが、この議員さんには、たまらないらしく、また、武山さんの合氣道の上達が著しいところにも、他の一般女性には無い、違った魅力を感じているようだ。
そこで今日、武山さんから、下田氏を引き離す為、やむを得ず、千尋に、しばらくの間、固定で武山さんと組になることを頼んだのである。
通常、合氣道の稽古は二人一組で行う。
そして、五分、十分おきに相手を交代する組変えをする。
ところが、僕が交代を告げても、下田氏は武山さんを離そうとしない。
既に看過できない事態だ。
だから、千尋には、武山さんと固定で組む口実、いや、道場長命令も伝えている。
ちなみに、道場長は、館長に次ぐ、二番目の地位である。
そんなこんなで、子供クラスの指導を千尋と二人でした後、大人クラスの時間となる。
稽古熱心な武山さんも、子供クラスの後半から姿を見せ、指導に加わってくれる。
件の、下田議員もやって来て、稽古開始前から武山さんの側に行き、準備体操の時点でも隣にいる。
一人技の基本稽古へと進み、問題の二人一組の組技稽古となると、危惧していた一悶着が起きてしまうのである。
千尋は、武山さんと下田氏の間に割って入り、まず、武山さんに、
「小夜子さん、今日から、昇段審査までの間、私と組みましょう。」と、挨拶する。
そして、次に、唖然とする下田議員に
「下田さん、武山さんは黒帯の昇段審査が間近です。
審査まで、当分の間、私が専任指導員として、武山さんと組むことになりました。
下田さんは、他の方と組んで下さい。」
分かっていたことだが、下田氏は激怒する。
「君!失敬じゃないか!武山さんは私と組むんだ。そこをどきたまえ!」
が、一見、大人しそうに見えて、芯の強い千尋は、大物県会議員相手に一歩も引かない。
「私は中原先生から、武山さんの指導に関して、全権を与えられています。
稽古中は、私達、黒帯の指導員の指示に従っていただきます。」
「何だと!この!」
常日頃、人に頭を下げられるのに慣れている下田氏は納得しない。
ただならぬ険悪な様相に、全員の目が、この三人に注がれる。
仕方ない、僕は彼らに駆け寄り、
「下田さん、それでは、三人で組んで下さい。
鈴村さんに、武山さんと組むように言ったのは私です。」
こう言って、何とか三人一組になってもらうことになったが、下田氏はもちろん、千尋も不満げである。
だが、三人になってもらっても、余計、ハートに火がついたのか、下田氏の武山さんへの「お触り」はいつもより激しくなり、千尋を馬鹿にするように、わざと存在を無視し、スケベさタップリに、武山さんに触り続けるのである。
東京の本部団体からは、稽古中のセクハラは絶対に禁止すること、という通達も来ている。
これは、責任者として、もう僕も見逃すことはできない。
そして、普段は冷静沈着で、あまり感情を面に出さない千尋も、ついにブチ切れしてしまう。