幸せのゴール!
「そやさかい、俺が森作ってることは秘密や。絶対、誰にも言うなって、おとんはいつも言うんです。
そやけど、ウチ、言うてまいました、アハハ!」
理夢ちゃんは、照れ笑いしている。
「確かに、売名行為と取られることもあるでしょうね。
しかし、こういった活動は、作品に生きるのではないですか?」
小林さんが、もっともなことを言う。
「ぴょんぴょん」の読む者の心を打つ、暖かな世界観。
こういう、作者の利己を超えた、自己犠牲の生き方があればこそ、だったのか。
「合氣道の心得にも、善行は人の見ていないところで積むものだという、陰徳という考え方がありますよ。」
などと、僕は武術家らしいことを言ってみる。
佑夏も、ニコニコして、
「私の卒論のテーマも、そういう、幸せについての本なんです。
ルミ子さん、素敵なご主人をお持ちですね♡いいな~!」
佑夏ちゃん、俺はどうなの?
「勢いで結婚しただけです。でなかったら、誰があないなオタクな漫画屋なんかと。」
ルミ子さんは、そう言うが、僕には心から旦那さんに惚れぬいているように見えてしまう。
何て言うか、「絶対に、この人しかいない。」というような熱い瞳だ。
が、その娘が冷やかす。
「二人でサッカー、観に行って結婚したんです。大阪でやった、ワールドカップの日本とチュニジアの試合。
日本点取った時は、二人で抱きおうて喜んだ言うてます。」
「ええ加減にせえ!いらんことばっかりベラベラと!」
まるで、少女のように頬を赤らめるルミ子さん。
ああ、この人、本当にご主人を愛しているんだな。
「ロマンチックですね~。日本のゴールでゴールイン!ですか。
それまでも、お付き合いしてたんですよね?
良かったじゃないですか。」
水野さん、横浜は代表戦も頻繁にあり、マリノスの試合だってある。
サッカー、好きなのかな?
「ホントです!憧れちゃうな~!」
佑夏が、結婚願望を口にするのは珍しい。
それにしても、恋愛ホルモンなど、とっくの昔に効力が切れているはずなのに、どうしてルミ子さんの吉岡夫妻は、良好な夫婦関係を続けていられるのか?
この二日間の小旅行から帰った後、このことについて、僕と佑夏は二人で話し合った。
それはおそらく、漫画の創作活動を通して、吉岡夫妻は、日々、新しい人間に生まれ変わっていっているのではないだろうか?
という話に、落ち着くことになるのである。
しかも、生物の命の森を育てるという、これ自体が作品のテーマになってもおかしくない、壮大なドラマの人生である。
日々、新たな発見だってあるだろう。
年を追うごとに、二人の愛、娘も加えた家族愛も深まるだろう。
そう言えば、日本一有名な妖怪漫画の作者の奥さんの書いた手記がベストセラーになり、朝の連ドラにまでなっている。