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冷たい結晶華   作者: 石田ヨネ
第二章 調査、華と鋸、フロリストについて
8/28

8 緑のシャツに白衣姿の申し訳なさそうな白髪の博士



          (2)



「――とは言ったものの、どうやって、調べるかい?」

 と、パク・ソユンに聞いたのは、ドン・ヨンファだった。

 あのまま自宅には帰らずに、市内にあるパク・ソユンの部屋へと転がりこんだわけである。

「てか? アンタさ、市内にはセカンドハウスだったり、グループのホテルだったりを利用できるのでじゃん? そこに泊まれば、よかったものを」

「まあ、いいじゃないか。調査の話の続きも、したい、し……?」

 ドン・ヨンファは、パク・ソユンに答えながらも、その表情が変わる。

「――へ?」

 間の抜けた声でキョトンとするドン・ヨンファに、

「ん? どしたん?」

 と、パク・ソユンがジトッ……とした目で、怪訝そうに聞く。

「何? この赤いの?」

 ドン・ヨンファが指した先――

 白い、ブランドものバックのような菱形タイルを背景として、錆びた鋸に蔓バラという趣味の良くないオブジェとともに、プラスチック製の赤い鋭角な円錐――、工事現場などでおなじみの、カラーコーンがそびえ立っていた。

「は? カラーコーンじゃん? まさか、財閥の金持ちだから知らないアピールだからって、それはないわよ」

「いや、なわけないって、カラーコーンなのは、当然分かる」

「じゃあ、疑問はないでしょ」

「いや、あるでしょ。何で、こんなとこにあるのか――? って話だよ」

「うん。それは、私にも分からない」

「何だよ、その某博士ばりの言い方……」

 と、ドン・ヨンファはトーンをおさえてつっこみつつ、緑のシャツに白衣姿の申し訳なさそうな白髪の博士の姿が頭に浮かぶ。

 そうしながらも、

「ああ、飲んでたんだね? 酒を」

 と、ピンと来た。

「いや、だからお酒は絶対―「―やめてないよね」

 禁煙会見ばりの、「絶対やめた」まで言い切る前に、ドン・ヨンファがパク・ソユンの言をブロックするも、

「ぽよ」

「……」

 と、パク・ソユンの「ぽよ」に、沈黙が挟まる。

「……」

 苦虫をつぶしそうな表情のドン・ヨンファと、

「……」

 と、ジトッとした目の、たぶん酒の回っている目のパク・ソユンとが、沈黙を破って相対峙する間――

 その、沈黙を破って、

「もう、そのネタは先回りして言わせないよ」

 ドン・ヨンファが、勝利を収めたようにドヤ顔をしようとするも、

「ぽよ」

 と、パク・ソユンからは、『ぽよ』しか返ってこない。

 相変わらずの、『イエス』とも『ノー』とも取れない返事。

「……」

 ドン・ヨンファは顔をしかめつつ、「こいつ、は……」と、思うより他なかった。

 猫に「ニャー」と言われるのと同じで、この『ぽよ』で返されると、やりようがない。

 まあ、パク・ソユンが猫みたいなキャラかどうかは置いておき――、いや、気まぐれなところだけは、猫に似ているのかもしれないが。

 そのようにしつつ、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、ソファで飲みなおす。

 パク・ソユンいわく、お酒ではなく、ジュースはブドウ味が美味しいこと、赤ワインとともに、プリンや苺タルトのアイスを愉しむ。

 そして、テーブルに置かれていノートパソコンの画面だが、いつものようにグロ動画が――、映画やアニメ、漫画のトラウマシーンの解説動画が、淡々とデフォルトで流れているという。

 そこへ、

「ね、え?」

 と、ドン・ヨンファが、引きつり気味な顔で、パク・ソユンに声をかける。

「は? 何?」

 パク・ソユンが、怪訝な顔で反応すると、

「いや……? 何で? カラーコーンなんか、抱えてんの?」

 と、ドン・ヨンファが確認した先、目の前にいるパク・ソユンであるが、麗しい黒髪に、ややはだけた白のガウンと――、そこまでは、まあいい……

 だが、何ゆえか? こんなモデル風の美女 (実際にモデルであるが)が、片手は赤いカラーコーンを抱きかかえているという、何ともシュールな光景だった。

 そのパク・ソユンが、答えるに、

「はぁ、何となく」

「いや、何となくでカラーコーンを抱えるなよ。ぬいぐるみじゃあるまいし、」

 ドン・ヨンファがつっこむも、そこは気にせずに――、いや、気になるが気にせずに話を続ける。

「しかし……、改めてだけど、さ?」

「ん? 何が?」

 と、話題を切り出すドン・ヨンファに、パク・ソユンが聞く。

「何か、昨日の今日だけど、二回も犯人扱いされてたよね? ソユン? まあ、冗談でだけど」

「はぁ、」

「でも、さ? 考えてみたら、むしろ君が、こんな美しい遺体を作るはずがないんだよね」

「はぁ、どゆこと?」

 と、パク・ソユンが怪訝な顔で、キョトンとする。

「だって、ソユンの趣味って、基本グロいじゃないか」

「ぽよ」

「そうすると、だよ? もし、ソユンが、何か猟奇的な犯人だとすると、作る作品ってのは、もっと“グロいナニカ”になるはずなんだよね」

「何、その仮定」

 パク・ソユンが、ジトッとした目で言う。

 ちょうど、解説動画では、昔連載されていた某少年漫画に出てくる『赤い箱』の解説が流れていた。

 それによると、とある犯人が、『ヒトの中身を見たい』などと宣って、怪物クラスの怪力によって、素手で人間を潰し、ガラス製の立方体に入れて『赤い箱』を作るとのこと。

 おぞましく美しく、妖しい『赤い箱』――

「むしろ、ソユンなら、こっちのほうを作りそうじゃ、ないのかな?」

「いや、やらないって……。人のこと、何だと思ってるぽよ」

「……」

 と、『ぽよ』で、またドン・ヨンファがシュールな表情になりつつ、

「ま、まあ……、冗談、だよ」 

「は? 冗談なの? だから、冗談はよすぽよ」

「……」

 と、「冗談はよすぽよ」で、完全に沈黙した。

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