6 ひねりなんかねぇよ、うるせぇよ
また、美祢八が遺体を見て、
「しかし……、こう言っては、何だけどの? まあ、べっぴんな遺体やねぇ」
「まあ、これまでのガイシャってのも皆、世間一般には美女だといわれるカテゴリだろうな。容姿の良い女性が多いのは、間違いない」
と、マー・ドンゴンが言いながら、これまでのガイシャたちの画像を見せる。
日本の、秋のホオズキや彼岸花と、着物姿の女と結晶華。
枯れた蓮に、葡萄、セメントや金属のオブジェに、結晶華。
それから、白と黒をベースにした、シンプルながら葬送のような厳かさのある結晶華と“作品”など――
「へ、ぇ……」
ドン・ヨンファが、思わず感嘆の混じった溜め息をした。
「はぁ、」
と、たぶん何も考えてない相槌をパク・ソユンがしつつ、
「これが、みんな、遺体なんだよね……?」
と、改めて「信じられない」と云わんばかりの顔で、ドン・ヨンファが確認するように聞いた。
確かに、これらのガイシャたちの写真のこと、“遺体”だと告げられなければ、まるで、結晶とフラワーアートをコラボした写真集のようにも見えるに違いない。
またここで、美祢八が、
「うむ……。まあ、容姿がいいのもそうなんやけどね、それよりも、気になっことがあんよ」
「あ”ん?」
「気になること、ですか?」
と、マー・ドンゴンとチャク・シウに話す。
「いや、ね? 遺体の表情がのう、どれも、穏やかっちゃ穏やかなのが気になるんよ」
「……」
と、無言でパク・ソユンと、
「まあ、確かに、言われてみれば」
と、ドン・ヨンファが反応する。
美祢八が続けて、
「ガイシャが拉致されたのか、あるいは“誘われ”、好意をもって“犯人”について行ったのかは分からなんだが……、この表情からすっとの、恐怖や拒絶、抵抗の“それ”っちゅうのが、いっさい無さそうなのが気にならんけ?」
と、その言葉に、
「……」
と、マー・ドンゴンが、何か意味深そうにジッ……と、美祢八のほうを見る中、
「ええ……、確かに、貴方の言うとおりですよ」
チャク・シウが、時間差で美祢八に答えた。
そうして、話を展開しようとした、その時、
「――って、待て」
「……?」
とここで、ふと制止したマー・ドンゴンに、チャク・シウが静かに言葉を止めた。
「ん? 何け?」
美祢八も、同じく反応する。
「その前に、よ? そう言えば、お前は誰だ?」
マー・ドンゴンが、美祢八のほうを向いて聞いた。
まあ、当然の質問といえば当然の質問で、今さらであった。
「ああ、俺け? 日本の、何って言えばいいかのう? しがない左官アーティストとでもいえばいいけ?」
「ああ”? 左官、アーティストだと?」
「おうよ まあ、正式にっちゃあ、左官偽能と名乗っているから、左官ではないことになるけどの」
「いや、そいつが問題じゃなくてよ、部外者だろうが! お前!」
「まあ、いいやねか、このふたりの連れと思えば。いちおう、調査業をやってるんやろ? このふたりは」
「いや、アンタを連れにした覚えはないんだけど」
援護を求めた美祢八に、パク・ソユンが冷たくつっこむ。
そのようにしながらも、
「……ったく、やれやれ、仕方ねぇな。とりあえず、話を本題に戻すぞ」
「うん。戻すぽよー。でないと、話が進まないぽよー」
「ああ、もう、お前もぽよぽよやかましいっての! ったく!」
と、マー・ドンゴンが苦虫を嚙み潰したような顔しながらも、話を進めていく。
「まあ。ガイシャは恐らく、拉致されたのか、あるいは誘われたかでもした可能性があるのだろう。俺たちも、そう考えている」
「それに、美祢八さん、でしたか? ガイシャたちの表情や様子から、拒絶や抵抗、恐怖のそれは、いっさい無い――」
と、マー・ドンゴンに続けて話すチャク・シウに、
「……」
と、美祢八が無言で耳を傾ける。
「それどころか、むしろ、作品となることを受け入れ……、とても幸福そうですらあることに、我々も着目はしていますよ」
チャク・シウが、そこまで話したところへ、パク・ソユンが、
「ふーん、それって? 何か、薬物とか使ってんじゃないわけ?」
「いや、今までのケースでも、そんな薬物ってのは使われてねぇな」
「はぁ、」
と、それはマー・ドンゴンによって否定される。
また、パク・ソユンが単刀直入に聞く。
「それで、さ? この犯人について、何か手掛かりとかあるわけ?」
「それが、ねぇんだよ」
「ダメじゃん、やる気ないんじゃない」
「うるせぇよ、おめぇに言われたくねぇよ」
と、マー・ドンゴンが返し、
「そうですよ。わが国だけでなく、他の国でも犯行は行われていますけど、これまでに、これといった手掛かりは無いのが現状です」
と、チャク・シウも捕捉する。
「そうだ。犯人は、フロリストとか呼ばれて、謎に包まれている」
「フロリスト、そのままやねか」
「うん。ひねりがないぽよ」
「ああ、そうだよ。ひねりなんかねぇよ、うるせぇよ」
マー・ドンゴンが、鬱陶しそうに美祢八とパク・ソユンにつっこむ。
「まあ、強いて言えばというわけではないですけど、この、華と鋸のシンボルですかね――? その他の、狂気的な事件にも見られていますね」
「華と、鋸のシンボルけ?」
「ええ。何か、狂った芸術集団とでもいいますか? もっと、グロい身体破壊だったり、時にはテロにもちかい事を行って、芸術行為を為す集団――」
「「「あっ――、やっぱり、この人が犯人です」」」
「だから、何故ぽよ」
「だから! うるせぇってんだよ、お前ら! いちいち話を脱線させるなってんだよ! 邪魔するなら締め出すぞ!」
とここで、パク・ソユンを手錠で拘束するように突き出すゴーグルサングラスたちと美祢八に、マー・ドンゴンが「いい加減にしろ」とキレる。
その様子を、
「「はぁ……」」
と、ドン・ヨンファとチャク・シウだけが、呆れるように眺めていたが――