18 ちなみに、もし宇宙人は地球人を宇宙船にさらうのであれば、謝礼くらいはするべきだ
時間結晶(英:Time crystal)もしくは時空間結晶(Space-time crystal)は、全く同じ物理条件でエネルギーを加えているにもかかわらず、時間(試行回数)によって結果が変化する現象。ここでいう結晶とは物質ではなく状態を指す物理学上の用語であり、時間結晶とは時間によって物理法則が変化する(対称性が破れている)現象もしくは状態をいう。例えば「液体」や「固体」という物質そのものがあるわけでなく、「液体」や「固体」という状態があるのと同じである。量子力学でいう状態の重ね合わせは、時間対称性が破れている状態といえるため、量子論とも関係が深い。
普通の3次元結晶は空間的に繰り返しのパターンを持っているが、時間が経過しても不変である。時間結晶は時間に対しても自身を繰り返し、結晶を刻々と変化させる。時間結晶は非平衡物質の1つであるため熱平衡に達することはない。
**『時間結晶』(Wikipedia)より
(1)
「……う、ん」
と、仄かに優しい光を瞼に感じ、パク・ソユンは目が覚めた。
(ここ、は……?)
と、ゆっくりと目を開けるながら、まだ寝ぼけまなこに、半分起きてない頭でパク・ソユンは確認しようとする。
無機質なコンクリートと、無骨な機器や配管・配線の室内の、ベッドの上。
まあ、少なくとも、カップルがデートで体を重ねるホテルではないことは分かる。
ひんやりとした冷気を感じながらも、同時に、たぶん電気暖房器具の暖気も感じる。
それは、冬の室内の、暖炉がともる時の趣にも似ているというべきか――
そんな室内に
「あ――?」
と、やはりというべきか? “それ”があるのに気がついた。
白、赤、銀色を基調とした、美しい活け花というか装花と……、それから、雪のような、冷気を帯びた結晶華が――
(ああ……、そう言えば)
と、パク・ソユンは、ここで思い出した。
昨夜というか、日付が変わるか変わらないかの頃。
酒――、いや、お酒は絶対にやめたので、ブドウ味のジュースを飲みながら、普段のようにグロ動画を見ていた時のこと。
「ごきげんよう♪」とか、お前は、お嬢様ものの登場人物か? と云わんばかりの言葉とともに、後ろから、たぶんフロリストと思しき黒い影の者が突然に現れた。
そうして、そのまま抱きかかえられた状態で屋上に連れられるや、確か? 何かに飛び乗った気がする――
まあ、そこまでしか、微妙にしか覚えていない。
まるで、白昼夢に似たナニカというか、ワンチャン宇宙人がいれば、アブダクションされた的な感覚。
ちなみに、もし宇宙人は地球人を宇宙船にさらうのであれば、謝礼くらいはするべきだと思う。
貴金属をくれてやったり、あるいは、昨今であればビットコインとか仮想通過でもいいかもしれない。知らないけど……
そんな風に、ボーッとした頭で考えていた。
その時、
「おは、よう……」
と、背後の、頭のほうから、また“例の声”がした。
まるで、脳を、プルン……と掴んで揺さぶるような、低周波の混じったような声――
「ぽ、よ……?」
パク・ソユンは、反応する。
すると、
「ぽよ?」
と、聞き返すような声が、返ってきた。
それも、今度は、少しハスキーながらも、女の声のような。
そうして、振り返るなり、
「へ――?」
と、パク・ソユンは思わず、間の抜けた声とともに目を点にした。
いったい、どんな男が、自分にラブレターを送ってきたのか? と思いきや、そこにあったのは、黒づくめに、腰くらいまで伸びた銀髪の、美しい女の姿――
なお、その手には、結晶華と花束が抱えられていた。
すなわち、この者が、結晶華事件の犯人こと、“フロリスト”ということになる。
「目が、覚めましたか? ジグソウ・プリンセス……、パク、ソユン様」
フロリストは、上品そうな様子で聞く。
「は、ぁ……」
パク・ソユンはポカンした顔で相槌しつつ、
「アンタが、その、フロリストとかいうの?」
「ええ、そうよ♪ 花園静華と、いちおう、申しておきましょうか♪」
と、フロリストは、そう名乗ってニコリと微笑する。
いちおう、とは……
まあ、偽名なのだろうか。
そう思いつつ、
「てか、さ?」
「う、ん――?」
「早くない? お会いするってのは、いいんだけどさ? その日、その夜にって? まあ、日付は変わったけど」
「いいじゃない。せっかちは悪いことじゃない。だって? 何ごとも早い方が良いっていうじゃない?」
「はぁ、」
マイペースに答えるフロリストに、パク・ソユンは曖昧に相槌する。
また、続けて、
「それと……、そう言えばなんだけど、さ?」
「ん? 何でしょう?」
「拘束とか、しないわけ? 見た感じ、何もないみたいだけど、」
と、パク・ソユンは、気になる質問をした。
連れ去られた――、物騒な表現だと、拉致されたということになるのだが、そうすると、牢にでも入れられているならまだしも、自分は何らかの形で拘束されてし
「ええ♪ だって、デートだもん」
フロリストは、相変わらずの、上品そうな微笑交じりに答える。
「はぁ、」
と、パク・ソユンは、何だか微妙に調子を狂わされる。
まあ、拘束しても、ほとんどの場合は異能力で解けるので、敢えて最初から拘束などしないのか?
また、仮に逃げようとしても、必ず捕まえれるということだろうか?
それとも、その言葉どおり、本当に自分とデートでもするつもりなのだろうか?
そんな風に考えていると、いつの間にかフロリストは少し離れ、茶を淹れていた。
しばらくするして、
「どうぞ♪」
と、フロリストは盆に、ティーカップと茶菓子を持ってきた。
オールドノリタケの、アンティークのティーカップ。
香りとともに、赤いローズヒップティーが出される。
「はぁ、どうも」
パク・ソユンは受け取りつつ、
「あっ? 八ッ橋じゃん」
と、茶菓子が、八ツ橋――、それも、苺ホワイトチョコの生八ツ橋であることに気がついた。
手に取って食いつつ、
「そう言えば、さ? たぶん、アンタ、普通の人間じゃないよね?」
と、聞いてみる。
まあ、自分も異能力者、異常体質に該当するから、普通の人間ではないのだろうが。
「そう、ね……? さしずめ、サイボーグ? 半生サイボーグ――? とでも、いったところかしら?」
「は? 何、その? 半生って、」
と、パク・ソユンは生八ツ橋をフニャフニャとしながら、つっこむと、
「まあ、その、生八ツ橋みたいなもの、かな……? というか、ねえ? アンタじゃなくて、静華って呼んでよ♪ ソユン」
「うん。やだぽよ」