表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【07】 冷たい結晶華   作者: 石田ヨネ
第三章 ラブ・レター
12/28

11 ガチャピンのような目で



 桜が散ってしまうなんて悲しいし、月だって山のに沈んでしまう。そんなあてにならない自然より、いつになっても変わらないのは色の道である。


**『好色一代男』(井原西鶴(中嶋隆、訳))より



          (1)



 翌朝、午前のこと。

 事務所に入るなり、

「ちょっと! ソユン!」

「おいおい、ソユン!」

 と、ゴーグル・サングラスたちが慌てたようにパク・ソユンに詰めかけてきた。

「ぽよ?」

 寝ぼけまなこの、某黄緑のガチャピンのような目で反応するパク・ソユンに、

「いや、ぽよじゃなくて――!」

「そうよ! 何!? この、夜中のポストは――!?」

 と、仕事仲間のふたりは、夜中にSNSに投稿したものを突きつけて見せる。

「うん? これが、どうしたぽよ?」

「どうしたぽよ、じゃないよ……」

「絶対、飲んでたよね? こんな、ふざけたポスト」

「いや、だから、絶対お酒はやめたっていってるじゃん? それに、ふざけているようでふざけてないかもしれないし、ふざけてないようでふざけているかもしれないって」

「「いや、いい加減にしろ! 絶対飲んでる以外にないだろ、こんな投稿! それに、ふざけているようだったら、たいてい、ふざけているんだよ! 人間ってのは!」」

 と、ゴーグルサングラスたちは、パク・ソユンに直球でつっこんだ。

 ただ、つっこむも、暖簾に腕押しで、

「まあ、別にいいじゃない。これで、もし、犯人の、フロリストだっけ――? が、何らかの動きをしてくれたら、さ? もしかすると、逮捕できるきっかけになるかもじゃん」

「なるかもじゃん、って、」

「君が、何か、探偵サークルみたいなことをしてるのは分かるけどさ、もう少し、慎重に、自分の身を大事にしてくれよ」

「うん。分かったー」

「「いや、絶対分かってないでしょ、それ」」

 と、ケロッとして言うパク・ソユンを、ふたりはつっこみながらも、一応は心配する。

 ただ、そんなふたりの心配はお構いなしに、

「けど、今回のガイシャのつながりで、何かない?」

「何の、『けど』よ?」

 女のほうが、つっこみながらも、

「さあ、な? 美容インフルエンサーたって、そこまで、有名な子じゃなさそうだしな」

 と、ゴーグルサングラスが答えつつ、被害者のプロフィールを見せてくる。

 それによると、いわゆる美容系インフルエンサーという類の、20代の女ということは分かる。

「ただ、フォロワーの数は、お世辞にも多くはないな」

「はぁ、」

「何か、事務所に所属していたり、プロモートしてくれている人が特別にいるわけでもなさそうだ」

「まあ、無名ゆえに、何か、悪意を持った者がアプローチをしかけてくることも考えられるかもしれないわね」

 と、ゴーグルに続いて、女が言う。

 また、ゴーグルも続けて、

「それに、これまでの犯行が行われたのは、国内だけでないんだろ?」

「ぽよ」

「日本に、中国、欧米でも、犯行は行われているみたいね」

「韓国内だけであれば、“そうした異常者”がいないかどうか、もう少しラクに調べられるだろうし……、犯人につながるものも、少しは得られるんだろうけどな。まったく、フラフラした、気まぐれで実体のつかめないヤツだな。その、フロリストってのは」

「もしかすると、ワンチャン、ワンナイト的に、作品にするターゲットをナンパでをつかまえた説を考えている」

 とは、パク・ソユン。

 昨夜、ドン・ヨンファと話したのと同じ仮説である。

「はぁ?」

「ナンパだって?」

 ふたりが、怪訝な顔をして、

「何か、綺麗な、結晶華をつくったフロリストのイメージが変わるわね」

「まあ、フロリストっていっても、ただの犯罪者なんだけどね」

 などと話していると、


「お~い。何か、ソユンに手紙が届いてんだけど」


 と、事務所の別のスタッフの男が入ってきた。

「いや、手紙くらい、ちょこちょこ届くだろう」

 ゴーグルサングラスが受け取る。

 この、電子のご時世であるが、いちおうファンレター的なものもちょこちょこ届いているようだった。

 しかし、それを見てみるに、

「うん――?」

「これは――!?」

 と、ふたりが驚いたこと――

 ファンレターのお洒落な封筒であるが、その封蠟のところにはくだんの、雪のように美しい結晶華が添えられていた。

「何、これ……」

 女が、怪しそうな顔をし、

「もしかして、その、フロリストからの、ラブレターってヤツか?」

 と、ゴーグルサングラスが言う。

「はぁ、」

 パク・ソユンが気だるそうに相づちしつつ、おもむろに開けてみる。

 その内容は、次のようだった。


 はじめまして、ジグソウ・プリンセス♪

 貴女の投稿、面白かったですよ♪

 そうですね、もし、貴女を私の作品にさせていただけるなら、とても嬉しいことですし、同じく、貴女が私をタイ~ホしようとするのも、とても興味があります。

 つきましては、一度、お会いしてみませんか?


 フロリストより――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ