11 どちらかというと、刹那的な色欲に近いもの
(3)
時間は前後して。
ソウル市内を見下ろす部屋にて。
まだ、宝石箱に散りばめられたような、夜の街の美しい灯りを眺めながら、背後にはシャンデリアのようなガラス装飾に、赤と白を基調としたフラワーアート。
そして、それらと美しく協奏するような、冷たい結晶華――
また、そこには、
「……」
と、そんな夜景と装花を愛でつつ、揺れる椅子でシャンパンを愉しむ者の姿があった。
そうである――
その、スラッとしたシルエットの者こそ、一連の結晶華事件の犯人とでもいうべきか、作者こと、“フロリスト”であった。
「……」
と、フロリストは装花の、結晶華に手を伸ばして触れる。
秩序だった、美しい結晶の華。
“それ”とともに、思う。
美しい生花も、そのうちには枯れ、腐敗してしまうように――
不可逆的なエントロピーの矢のごとく、賭博好きの神々が仕掛けた世界というのは、とかく残酷だ。
私が結晶と、その華から成る作品をつくるのは“それ”に、せめてもの抗う代償行為というか、逃避的な創作とでもいうべき行為なのだろう。
そうであるから、どの“作品”も、最初から最後まで、“作品たち”は皆幸せであったとも思うし……、私も、そうするべく、アーティストとしての務めを全うしようとはしたつもりだ。
ただ、作り終えた際には、何というべきか――?
切なさというか、何とも云えぬ喪失感のようなものを、伴わざるを得ない。
それは、ひと時を、一夜を共にした相手との別れのようなものだ。
そのような淡い喪失感のようなものを、作品をつくるごとに味わうのだが、私は“それ”をやめられずにいる。
それは、どちらかというと、刹那的な色欲に近いものなのだろう。
実際、私は作品になってもらう女性と、プレイボーイのようなやりとりを愉しんでいる。
まあ、華と鋸という、少し中二めいたシンボルだったり、フロリストと呼ばれる二つ名のようなものがついているのだが……
――そのように、フロリストは自身のことを思い起しつつも、次の作品を考えねばならなかった
それは、あくまで、アーティストであるという運命ゆえか。
すると、そこへ、
「――?」
と、フロリストはSNSの、“ある投稿”に気がついた。
モデル兼DJの女性のアカウント。
白い大きなパールつきカチューシャに、黒髪の美麗な女のアイコンこと、パク・ソユンのアカウントだった。
それを見るに、
「……」
と、フロリストは直近の自身の作品――、先日、市内の展示会場に設置した“作品”についてのポストだということに気がつく。
まず、最初のポストは、
『結晶華事件の遺体と、投稿を見ました。少なからず、『自分も作品になりたい』って書き込む人たちがいるけど、そんな風に思うものなのかしら……』
と、のこと。
(まあ、当たり障りのないポスト、か……)
と、フロリストは心の中で、言葉にした。
しかし、次のポストはそうではなかった。
『もし、犯人、フロリストがこの投稿を見ているのなら、私を作品にしてみる? その代わりに、タイ~ホするぽよー』
「ぽよ――!?」
と、フロリストは思わず驚愕の声をあげた。
あげながらも、
「フフ……、おもしろ」
と、次の瞬間には、クスッと笑っていた。
「面白いじゃない♪ この、パク・ソユン」
フロリストは言いながら、ある思いに駆られる。
そうだ、次は、このパク・ソユンにアプローチでもしてみようか。
もし、その中で、彼女が作品になってくれるのであれば本望かもしれない。