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【07】 冷たい結晶華   作者: 石田ヨネ
第二章 調査、華と鋸、フロリストについて
11/28

11 どちらかというと、刹那的な色欲に近いもの



          (3)



 時間は前後して。

 ソウル市内を見下ろす部屋にて。

 まだ、宝石箱に散りばめられたような、夜の街の美しい灯りを眺めながら、背後にはシャンデリアのようなガラス装飾に、赤と白を基調としたフラワーアート。

 そして、それらと美しく協奏するような、冷たい結晶華――

 また、そこには、


「……」


 と、そんな夜景と装花を愛でつつ、揺れる椅子でシャンパンを愉しむ者の姿があった。

 そうである――

 その、スラッとしたシルエットの者こそ、一連の結晶華事件の犯人とでもいうべきか、作者こと、“フロリスト”であった。

「……」

 と、フロリストは装花の、結晶華に手を伸ばして触れる。

 秩序だった、美しい結晶の華。

“それ”とともに、思う。

 美しい生花も、そのうちには枯れ、腐敗してしまうように――

 不可逆的なエントロピーの矢のごとく、賭博好きの神々が仕掛けた世界というのは、とかく残酷だ。

 私が結晶と、その華から成る作品をつくるのは“それ”に、せめてもの抗う代償行為というか、逃避的な創作とでもいうべき行為なのだろう。

 そうであるから、どの“作品”も、最初から最後まで、“作品たち”は皆幸せであったとも思うし……、私も、そうするべく、アーティストとしての務めを全うしようとはしたつもりだ。

 ただ、作り終えた際には、何というべきか――? 

 切なさというか、何とも云えぬ喪失感のようなものを、伴わざるを得ない。

 それは、ひと時を、一夜を共にした相手との別れのようなものだ。

 そのような淡い喪失感のようなものを、作品をつくるごとに味わうのだが、私は“それ”をやめられずにいる。

 それは、どちらかというと、刹那的な色欲に近いものなのだろう。

 実際、私は作品になってもらう女性と、プレイボーイのようなやりとりを愉しんでいる。

 まあ、華と鋸という、少し中二めいたシンボルだったり、フロリストと呼ばれる二つ名のようなものがついているのだが……

 ――そのように、フロリストは自身のことを思い起しつつも、次の作品を考えねばならなかった

 それは、あくまで、アーティストであるという運命さだめゆえか。

 すると、そこへ、


「――?」


 と、フロリストはSNSの、“ある投稿”に気がついた。

 モデル兼DJの女性のアカウント。

 白い大きなパールつきカチューシャに、黒髪の美麗な女のアイコンこと、パク・ソユンのアカウントだった。

 それを見るに、

「……」

 と、フロリストは直近の自身の作品――、先日、市内の展示会場に設置した“作品”についてのポストだということに気がつく。

 まず、最初のポストは、

『結晶華事件の遺体と、投稿を見ました。少なからず、『自分も作品になりたい』って書き込む人たちがいるけど、そんな風に思うものなのかしら……』

 と、のこと。

(まあ、当たり障りのないポスト、か……)

 と、フロリストは心の中で、言葉にした。

 しかし、次のポストはそうではなかった。

『もし、犯人、フロリストがこの投稿を見ているのなら、私を作品にしてみる? その代わりに、タイ~ホするぽよー』

「ぽよ――!?」

 と、フロリストは思わず驚愕の声をあげた。

 あげながらも、

「フフ……、おもしろ」

 と、次の瞬間には、クスッと笑っていた。

「面白いじゃない♪ この、パク・ソユン」

 フロリストは言いながら、ある思いに駆られる。

 そうだ、次は、このパク・ソユンにアプローチでもしてみようか。

 もし、その中で、彼女が作品になってくれるのであれば本望かもしれない。

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