10 何だよ? その、中島君とかが『磯野、野球しよーぜ』のノリで誘うセックスって
そのようにしていると、
「そういえば、だけどさ? 何を、話そうと思ったんだっけ? 最初、何か話そうとしてなかった?」
と、パク・ソユンが、思い出したように聞いてきた。
「ああ……? どうやって調べるか――? じゃ、なかったっけ」
「はぁ、何? すっかり忘れてたわけ?」
「いや、君のカラーコーンに、つっこんだりしたからじゃないか」
「いや、私のカラーコーンのせいなわけ? まあ、いいけど」
と、確かに、蔓バラのオブジェの前に聳える赤いカラーコーンで最初の本題が逸れてしまったのを思い出す。
ただ、過ぎてしまったことは仕方がない。
人間、なるべく前を向いているべきであり、
「――で? 最初の本題に戻って、さ? どうやって、調べるか?」
と、ドン・ヨンファが話を進めるべく、問いを投げかける。
「さぁ?」
「さぁ、ってね……、ソユンも、ちゃんと考えてくれよ。まあ、地味に、調査をしていくしかないだろうけど」
「ぽよ」
「いちおう、今回のガイシャのこと、プロフィールなどは分かっているし……、ソユンも、周辺のインフルエンサーや業界の人間からヒアリングしたり、できないかい? 僕も、関連する友人や知人たちと合って、話を聞いてみるから」
「まあ、いいけどさ……、何か、この結晶華事件っての? 計画を練ってした犯行ってよりは、こう、もっと気まぐれにした犯行のような気がしてきたんだけど」
「気まぐれ、だって?」
と、ふと思いついたようなパク・ソユンの言葉に、ドン・ヨンファが聞き返す。
「何っていうんだろ? まるで、ナンパでもするかのように、あるいは、マッチングアプリか何かを用いて、気軽にターゲットというか、被害者と接近したというか」
「はぁ、何だい? その、チャラそうな犯人像」
「てか、このSNSの投稿ってのも、犯人は――、フロリストは見てるのかしら?」
と、気まぐれに話を進めていくパク・ソユンに、
「さぁ? どう、だろうね……? ただ、アーティストであれば、自分の作品が世間でどう評価されているかっていうのは、チェックすべきものだろうけどね。まあ、この犯人をアーティストっていうのは、語弊があるけど」
と、ドン・ヨンファは答える。
すると、その間に、パク・ソユンはノートパソコンを手にしており、ポチポチと自身のSNSに投稿していた。
「ん――?」
ドン・ヨンファは、その画面を見るなり、目を点にする。
そこに、パク・ソユンが書き込んだもの――
『結晶華事件の遺体と、投稿を見ました。少なからず、『自分も作品になりたい』って書き込む人たちがいるけど、そんな風に思うものなのかしら……』
と、まず、この投稿まではいい。
いちおう、中立的というか、客観的な疑問を投げかける程度の、差し障りのないものである。
しかし、問題は、その次の、パク・ソユンがカタカタと打ち込む投稿。
それによると、
『もし、犯人、フロリストがこの投稿を見ているのなら、私を作品にしてみる? その代わりに、タイ~ホするぽよー』
と、書き込み終えるなり、
「ヨシッ、投稿――、ポチっとな」
「ヨシッ、じゃっないって――!? や、やめなって! ソユン!」
と、ドン・ヨンファは、『ヨシ!』と『ポチっとな』の最悪のコンボをキメるパク・ソユンを制止しようとするも、時すでに遅し。
パク・ソユンの『タイ~ホするぽよー』とのふざけた投稿が、SNS空間上に送信されてしまった。
完全に、酒の、たぶん酔ったときのノリの混じった投稿。
それを見て、
「あ、あ~あ……、」
「しちゃった、ね」
「しちゃったね、じゃないし……。もう、何やってんだよ……。どうせ、酒に酔ったノリで、半分ふざけて投稿したんでしょ?」
「いや、だから言ってんじゃん? ふざけているようでふざけてないかもしれないし……、ふざけてないようで、ふざけているかもしれない、って。それに、お酒は絶対やめたって」
「もう、いい……」
と、ドン・ヨンファは、完全に呆れてつっこむ気すら無くす。
「まあ、いいじゃん。この時間の投稿だし、どうせ、お酒に酔っての投稿って、皆分かるでしょ」
「はぁ、君の、お酒は絶対やめた理論は、ちょくちょく破綻してないかい?」
と、パク・ソユンが見せるスマホは、確かに、午前の1時を少し過ぎていた。
「それに、もしも、“フロリスト”がこの投稿を見て、何らかの反応だったりアクションをしてくれるなら……、調査も進むから、結果的によくなくない?」
「まあ、そうだけど、さ……」
ドン・ヨンファは、何か残余感とともに、空になったワイングラスを置いた。
そうしながら、再びパク・ソユンの姿が目に入る。
カラーコーンを抱えたり、回して遊んだりとシュールな光景ながらも、あくまで、世の100人中100人が美女だと認める女の姿――
それを見るに、“あっちの欲”のほうも、それなりに湧いてくるものであり、
「なあ、ソユン?」
「ぽよ」
と、ドン・ヨンファは切り出す。
「あっちのほうも、して、いいかい?」
「ぽよ」
と、パク・ソユンはジトッ……とした目で、相変わらずの『ぽよ』で返す。
ちなみに、このパク・ソユンだが、極度のマグロであるという……
「いや、だから『ぽよ』って、どっちだよ」
ドン・ヨンファが、どぎまぎしながら言うと、
「まあ、いいんじゃない? てか、するならするで、はっきり言うぽよ。ソユン、ア〇ルセ〇クスしよーぜ! って」
「何だよ? その、中島君とかが『磯野、野球しよーぜ』のノリで誘うセックスって。てか、ア〇ルのほう――!?」