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春花と春乃

六月の日曜日、元彼の新矢(しんや)とハンド君は突然新居に来た。

探偵に依頼してだなんて、そこまでして何がしたいのか。私はわけがわからなかった。

新矢は私と春花と春乃を交互に見て、

「豆ちゃん君は一体ここで何をしているんだ?」

と何やら奇妙な目で聞いてきた。

「私?私は娘たちと暮らしているのよ。」

と私はすかさずそう言った。

「どなたですか?」

そこにナッツさんが割って入ってきてくれた。

ナッツさん、仕事中だったのかしら…。何やらどこかの作業着を着ているみたい。

「えっ…俺は八鉢新矢(やはちしんや)です。こいつは反戸葉輪(はんどようりん)。」

と、おどおどしているハンド君とは対照的に新矢はそう言った。

それに対し、まったくクールな表情を崩さないナッツさん。

「僕の名前はナッツ。豆子(まめこ)さんの夫です。あなた達は僕の妻に何の用ですか?」

「夫だって⁈豆ちゃん結婚したのか?」

新矢はナッツさんの発言にギョッとしたようだった。

「うん…」

私はただそう言い頷いた。

「おめでとうございます。」

ハンド君はそう言ってくれた。新矢も驚いた顔をしながらハンド君と同じように祝いの言葉を言ってくれた。

「俺は豆ちゃんが心配だった。だけど今は幸せになって良かったと思ってる。」

「ありがとう。」

長い新矢との腐れ縁もようやく切れるようで、良かった。

新矢はその辺をちょろちょろしている春花と春乃を見て私に

「ママになったのか。」と言い、

「そうよ。」

と私が答えると、ナッツさんが

「僕の連れ子です。子供達も豆子さんに懐いています。」

と話を合わせてくれた。ナッツさんと共に子供達を館と研究所から連れてきたんだから、連れ子みたいなものだよね。


「ではこれで。」

新矢達が帰り支度を始めた。

「おじさんたち、かえるの?バイバイ」

春花と春乃はそう言って玄関で彼らのお見送りをした。

新矢とハンド君は春花と春乃に手を振って帰って行った。もう彼らが来ることはない気がした。


「仕事中だったのですね。呼び出してしまってすみません。」私がそう言うと、

「近くの豆の工場で働き始めました。今はパートですが、これからどんどん働きます。」ナッツさんはそう応えた。

防犯の為にも、ナッツさんもここで一緒に暮らしてもらった方が良いだろう。


「ところで」

ナッツさんが子供達に聞こえないように私に小声で話し出した。

「君の元彼達が探偵を雇ってこちらに来たと言っていたが、ここの居場所が分かるのはおかしい。こちらの特別なネットワークで隠しているため、普通の地球人の探偵ならここはわからないはずだ。」

ということはどういう事?元彼たちもナッツさんと同じく地球人ではないと言うの?

「工場に戻ります。詳しいことは夜に話しましょう。」

意味深なことを言ってナッツさんは仕事場へ戻って行った。


そして夜になり、工場の仕事を終えて、ナッツさんは家に帰ってきた。

夕飯を食べ、子供達も寝静まった頃にナッツさんは私に昼間の話しかけの話の続きをしてくれた。


この世には沢山の種類の宇宙人がいること。そしてナッツさんの種族と敵対している宇宙人の種族が存在すること。その種族は、時々この様に地球人の、人間の心に漬け込み小さな悪さをしようとすることがあること。ここでの『小さな悪さ』とは、新矢とハンド君の私に対する罪悪感に漬け込み、探偵を装い新居の場所を教えて、私とナッツさんとの家庭をおびやかしたり、私の元彼達への未練を大きくさせたり、元彼達の、私を2号さん(愛人)にしたいという欲望?を大きくさせるきっかけを作ったり、新矢やハンド君の家庭を壊すきっかけを作ったりしようと画策してくることがある、ということだ。


「今からあなたに映像を送ります。」

そう言って、ナッツさんはそっと私を抱きしめた。

いきなり私の頭?いや、ナッツさんに抱きしめられているはずなのに、目に見える視界に大きな映像が映し出された。映画のようだった。


その映像は、

私が新矢と奥さんと子供(2歳の男児)を物陰から見ていた。彼らは楽しそうにショッピングモールで買い物をしていた。


また別の場面に変わり、私が新矢の子供の2歳の男児を自宅に誘拐していた。そして、私、2歳の男児、そして人形の三人で一緒に暮らしているという映像だ。新矢はそれを見つけ出し、奇妙なものを見る目つきで、

「何をしているんだ!」と叫ぶ。

そりゃそうだ。映像の中の私は2歳の男児にスカートをはかせ、金髪の女の洋風人形にもお揃いのスカートをはかせていた。そして、

「私?私は娘達と暮らしているのよ」と話しているのだから。

映像の中の私は狂っているようだった。


更に別の場面になり、私はどこかの精神病院で、鉄格子に入れられ、人形を子供として暮らしていた。人形は2体あった。

「私は娘たちと暮らしているの。」

鉄格子の中の私はそう口ずさんでいた。


そんな映像だった。


「この映像は何ですか…?」

映像は消えていて、元の場所に戻っていた。私はナッツさんに聞いた。

「豆子さんに起きていたかもしれない出来事です。」

すごく緊張した面持ちでナッツさんは私に告げた。その表情を見て、そうなる前にナッツさんが私の元に訪れてくれたのだと直感的に理解した。

「ありがとう。」

私は思わず言っていた。

「ナッツさんありがとう。」

私はナッツさんを抱きしめ返した。


次の週の日曜日、幼稚園の運動会だった。

春花も春乃もこの日のために幼稚園で沢山練習したようだった。私とナッツさんは保護者席で敷物を敷いて2人を応援した。

赤白対抗の玉入れが始まった。春花と春乃は別のチームで、赤と白の玉を先生方が持つ籠にそれぞれ元気に入れようとしていた。春花は赤、春乃は白だった。白の方がほんの少し多く入った。

かけっこが始まった。よーいドンで、みんなちょろちょろ走るが、春乃はみんなより少しだけ速かった。既に私、親の贔屓目になっているかしら。

ダンスが始まった。子供アニメの主題歌が流れてきて、先生方が考えてくれたであろう振り付けを子供達は一生懸命踊っている。私やナッツさんはスマホのカメラで子供達の写真を撮った。可愛らしく撮れていた。

親子で出る障害物競走には、ナッツさんと春花、私と春乃でペアになって出場した。幼稚園でついている専属カメラマンが私達の走っている様子をカメラに写してくれていた。後で見た時、私達も春花と春乃も笑顔でいきいきとしていた。

私が軽くお昼ご飯のお弁当を作ってきたため、皆で食べた。


春花と春乃はお絵描きもする。クレヨンで画用紙にお花を描いたり、動物を描いたり、私の顔やナッツさんの顔もママやパパだと言って描いてくれる。

そんな中、春花は着物を着た男の子と女の子を絵にかき、春乃は沢山の同じような姿の女の子を絵にかいていて、ドキッとした。

それぞれ、人形館にいた時と研究所にいた時のことを思い出して描いているんじゃないかと思ったのだ。

そのうちに、子供達はナッツさんと私、春花と春乃の4人の家族の姿を描いてくれたりしてほっとした。


子供達を連れて地元の大きなお祭りにも行った。迷子にならないように2人の手をつないで屋台を歩いた。

子供達は口々にあれ食べたい、これ食べたいとうるさい。

その都度買って、端の方で食べてからまた歩き出す。

今回は春花も春乃も洋服だが、今度浴衣でも買ってあげよう、浴衣の柄など、これがいい、あれがいい、など2人は既にそれぞれ好みがあるようなので、子供達も一緒に店に行くか、チラシの写真を見せて選ばせるかしようと思っている。

3人で手漕ぎボートにも乗った。湖に落ちないか、怖かった。

散々遊んで疲れて、帰りの地下鉄の中の座席に座っていた時にいつの間にかうたた寝していた。何とかゆっくりと家まで帰って来た。

家に入るとそのまま2人は眠ってしまった。

ナッツさんにお土産のオムそば(焼きそばの上に玉子焼きを乗せているもの)を買ってきているが、これで足りるだろうか?何か夕飯を作ろうか…?わたしは悩んだ。


7月になり北海道も暑くなり、ナッツさんの運転で隣りの市の大きな水族館に行くことになった。ナッツさんは軽自動車を1台買ったのだ。水族館で家族4人で一日中楽しんだ。


春花と春乃からは幼稚園で楽しく遊んだ様子などを聞くことが出てきた。幼稚園のプールで遊んだりもするので子供服売り場で子供達の水着やキャラクター物の可愛いタオルなどを買ってきた。

服屋で買い物をして帰る途中で偶然高校の同級生にあう。

「素焼さん」

すごく親しかったわけではないが、それなりに当時は会話をしていた高校の同級生の女子だった。私を上から下まで視線を移動させて、「今は何しているの?」と聞いてきた。

私が新矢と別れて、その次の彼氏とも別れて、仕事も辞めて、それで今はぼさっとしたような格好をしているのだが、どう見えるのだろうか…?高校の情報網の噂で私が新矢と別れたことぐらいは知ってるだろうから、この人にそれ以上特に詳しく話す必要もないだろう。

「元気よ。」私はそう答えた。相手もこれから仕事先に向かうようだった。

「そう。」

相手もそう言い、去って行った。


今の行動範囲が、家とスーパー、子供達の幼稚園、子供の洋服だけが売っている専門店、近くの公園だけになったので、独身時代よりも行動範囲が狭まった。でも私は特に嫌ではなかった。

高校を卒業してから12年程、ずっと書道の先生をしていた。お習字教室には小さい頃から通っていて書道になじみがあったので始めはアルバイトで副担任として、教室の担任の先生の補助をしていた。

それから何年かして自分で担任を持つこともあった。自分も先生に書道を習いながらだ。給料は少なかったので実家から通っていた。新矢は花屋に勤めていたっけ。

新矢とは高校3年生の時に付き合い始めた。2人とも同い年で3年間偶然クラスも同じだった。当時私は陰キャで地味だったが、新矢は陽キャだった。新矢から突然告白されたが、どうやら私が高校1年の時から新矢に片想いをしていて、それにほだされたかららしかった。何でわかったんだろう。


18歳から28歳まで10年間新矢と付き合っていて、家族みたいだった。新矢は浮気症だったが、見て見ぬふりをしていた。付き合って最後の浮気が、本気の浮気になって、美人の20代の女の子と結婚したようだった。私は相手の女性の顔を見ていない。新矢とは友達に戻った。

そしてなぜか、新矢はその後私にハンド君を紹介してきた。ハンド君は真面目で穏やかで優しかった。だが、彼も私を結婚相手には選ばなかった。彼は同じマッサージ店に勤めている女性と最終的に結ばれた。


ナッツさんに会わないとどうなっていただろう…おそろしい。


家の前で手持ち花火をした。今は色々とうるさく言われる時代ではあるが、借家の土地が広く、ちょうど、花火をするスペースがあったのでうまく花火を楽しめることが出来た。それと、うるさく言わないご近所さんで良かったと思う。運が良かった。












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