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4.わたしM。(最終話)


 それからというもの、わたしはトレースで"わたし"の絵をなぞり描きまくった。

 そして、1000万の値が付いた時「普通の仕事」を辞めることにした。


「やっと絵の方に専念してくれるんですね。だいぶ待たせているお客もいるんで助かりますよ」


 画商は今回の作品の額縁を撫ぜながら「間違いなく億で買い手がつく」と嘯いている。

 まあ、どんだけ高く転売されたとしても、リスクを取ってるのは彼だから問題ない。

 それよりも、わたし自身が次の作品に会えるのを待ち望んでいた。


「次の絵はどういうの? 楽しみ」


 と笑顔でたずねるわたし。


「実はもう、絵のストックが切れた」

「あ、そうなんだ。じゃあ、新作を描かなきゃだね」


 すると、"わたし"が神妙な顔つきと声色で告げる。


「描かない」


 ◆


「えっ。どうしたの。何かイヤなことあった?」


 ザワッとする気持ちを抑えて、抑えきれないまま質問する。


「うーうん。イヤなことなんてないし、毎日が楽しいことばかりだよ。でも、もう描かない。じゃない、描けない。描けなくなった」

「ええっ。つまりどういうことなの?」


「……というか、もうわたしの作品がなくても描けるでしょ、"わたし"?」

「はあっ? 絶対無理だよ」

「いや、描けるよ。わたしが描けなくなったのは、"そういうこと"なんだよ」



 ――つまり彼女が描けなくなったのは、


 "わたしが絵を描けるようになったから"


 というの!?



「そうだよ」



 声に出さないと伝わらないはずなのに、肯定の返事が返ってくる。


「だから、"わたし"はもう描けない」



「そ、そんなことって……」



 目の前に置かれた真っ白なキャンバス。


 恐る恐る、筆を取ってみる。


 何も描かれてない、トレースするものも何も無い。


 自分で描くことの不安と期待が渦巻く。


 心の中で何度も「大丈夫」と自分に言い聞かせる。




「がんばって、"わたし"――」



 そう言って呟いたのは、果たして彼女とわたしのどちらだったのでしょうか。



 とにかく、わたしには筆を握る選択しか無かった。



 ◆


「ん? いつもとタッチを変えましたか?」

「あっ。そんなつもりはなかったけど、ダメでしたか」


 あっさり画商に違いを見破られてしまった。

 やっぱり、"わたし"の絵じゃないとダメなんだ……


「いえ。でも、前に比べると、青いというか、若いですね。タッチだけでなく感性も。最初は手を抜いたのかと思ったので苦情を言うつもりだったのですが、これはこれで"アリ"ですね」


 なんと、【わたしの絵】を画商に認められてしまった!


「あ、ありがとうございます!」

「さて、今回の新作を予約していたお客に、なんと言って説明して納得してもらおうかな……」


「あっ、今回作者名の後ろに"M"と付けてもらえますか。あと、暫くは全部に」

「おお、絵柄が変わったというサインですね。しかし、どういった意味が……あっ、また例の設定の話ですか? ……"M"はどちら?」

「一応、わたしの方です」

「なるほど。面白いですね。物語が感じられていいですよ」


 やった!


「そのかわり、今まで以上に売れる絵を描いてくださいよ」

「はーい、分かりました!」






「"わたし"もまた描いていいんだからね。その時は"W"を付けましょうね」

「描けるかな……その時は、うん。ところで、MとWって、漫画家の?」

「そう。藤子不二雄先生リスペクト」

「わたし大好きだもんね。Wは"わたし"のW?」

「うん。WはFの方だから"わたし"に譲るよ」

「うわ嬉し! ありがと。Aで"ミー"のMさん」



 "わたし"の手がワキワキとして何かを掴みたがっているのをわたしは見逃さない。

 これは楽しみだ!


 それに新しいわたし自身の作品にも、ね。




 Wにはダブルの意味もあるんだよ、"わたし"。




 〜fin〜





わたし「そして、Wをひっくり返したらMになるのですよ。ふふふふ……」


最後までお読みくださりありがとうございますにゃ。

もしよければご指摘、ご感想など頂けますと成長に繋がりますにゃー。






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― 新着の感想 ―
才能があって戻って来る、いいなあ。
過去の自分の才能が成長して帰ってきた! って、一度夢を諦めた、ちょっとだけ年を取った自分自身にとっては、わくわくすることだと思いました。 不思議な空間(?)で、二人の「わたし」が会話をしたり、描いた絵…
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